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異世界に渡りてヒーローとなる  作者: 黒白鍵


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慣れてきた異世界生活⑧

「こっちに来てくれ」


 店員と何やら交渉をしていたユイに呼ばれるまま、俺は彼女についていく。

 案内されたのは、店の裏の方にある、人型の木を立ててある広いスペースだ。

 人型の木にたくさんの傷跡がついているのを見るに、武器の試し切りや素振りを行う場所なのだろう。


「これを使ってあの的を斬ってみろ」


 先に話をつけてあったらしく、外の荷物置き場のような場所に、鞘に入った状態の剣、鉈、ナイフが1本ずつ置いてあった。

 それぞれ試し切りをしろ、という事らしい。

 普段の細かい作業なんかに使うっぽいナイフは、ペティナイフくらいのサイズで、調理やら諸々に使えそうだ。

 木製の鞘に収まっていたナイフで、軽く人型の木を撫でるように切りつけてみれば、思っていた倍くらい深く切り傷が刻まれており、相当な切れ味なのが察せられる。

 続いて、刃渡りが30センチくらいの肉厚な鉈を鞘から抜き出し、それなりの力を入れて人型の木に叩きつければ、深々と刃が木に食い込む。

 枝や草なんかは簡単に切り払えそうだし、場合によっては出刃包丁のような使い方もできそうだ。

 重さもちょうどいいな。

 最後に、剣を鞘が抜き出してみれば、幅広で厚い剣身が鈍く光る。

 重量もかなりずしりとしているし、片手で存分に振り回すには相応の筋力が要るだろう。

 幸い、鍛えている俺にとってはちょうどいいくらいの重さなので、扱えないという事は無さそうか。

 柄も必要に応じて両手で握れるようになっているので、使い勝手は悪くなさそうだ。


「……ふっ!」


 実際に敵を斬るつもりで、右手に握った剣で人型の木を袈裟懸けに斬りつける。

 それなりの手応えと共に、人型の木を斜めに両断する事に成功。

 思わず断面を覗いてみれば、なかなかに滑らかな切断面となっており、俺の技術もへったくれもない力押しの一撃をここまでにしているのだから、この剣はかなり業物なのではないだろうか?


「やるな。一応、この木は剣で斬るのが難しい素材のものなのだが」


 一連の俺の動きを見ていたユイが、意外そうに呟く。

 まあ、言われてみれば簡単に斬れるような的では、頻繁に取り換える手間がかかるというものだ。

 斬れにくいからこそ、数多の傷が刻まれていたのだろうし。


「使ってみて、どうだ?」


「特に使いにくかったりはしねえな。重さも問題ねーし」


「なら、これで良さそうだな。あとは剣帯と、鞄くらいなものか」


 ユイは俺が問題無く扱えると判断したのか、試し斬りを終えた武器を俺から回収すると、再び店の中に入っていく。

 俺もそれに続いて店内に戻り、親鳥についていくひよこの如く、彼女の後について回る。

 剣を携帯するための剣帯を選んだりしてから、ユイが会計をする様子を見ていると、彼女が支払った金貨は20枚近いものだった。

 これ、マジで後で請求されないよな……?


「鞄は持っているのか?」


 鍛冶屋を出てから、ユイに問い掛けられて、宿の部屋に置いてある、安物の鞄を思い浮かべる。

 厚手の布で作られた、必要最低限のものだ。

 一応、背中に背負えるようになっているものの、ポケットなどは無く、本当にただ着替えを入れてあるだけのものを。


「一応持ってるが、安物だな。枝なんかに引っ掛けたら、すぐに穴が開きそうだ」


「それはまずいな。鞄の有無を先に聞いておくべきだった」


 空はうっすらと夕暮れに近付いていたが、まだ買い物は終わらない。

 ユイに先導され、今度は鞄専用の店に連れて行かれた。

 てっきり、最初の雑貨屋に行くのかと思っていたが、違ったようだ。

 こじんまりとした店で、店内には色々な鞄が並んでいるが、そのどれもが一様に小さい。

 1番大きいものでも、小さなリュック程度の大きさしかないくらいで、そのくせ値段がとんでもない事になっている。

 小さなリュックのお値段、なんと金貨100枚。

 ぼったくりもいい所だろう。


「着替え以外の荷物は何がある?」


 そんな俺の心情も知らずに、ユイは俺の持ち物を聞いてくるが、騙されてるんじゃねえの、とツッコむべきかどうか真面目に悩む。


「……いや、これといって私物は持ってねえ。そんなに懐具合に余裕があるわけじゃねーし」


 もしかすると、俺が知らない何かがあってこのお値段、という可能性もあるので、とりあえずはユイを信じようと口を噤んだ。


「そうか。ならば一般的な魔術鞄で充分だな。ついでに財布も揃えるか」


 魔術鞄、という耳慣れない単語に首を傾げつつ、彼女について行けば、小さめのショルダーバッグが並ぶコーナーの一角で足を止める。

 長財布1つでも入れればほとんど容量がいっぱいになるくらいの、小さなものだ。


「この店の鞄は魔術で内部の空間が拡張されていてな。見た目はこんなでも、旅の荷物が余裕を持って収まるくらいの容量がある。あっちの大きなものだと、大型の家具でもいくつか持ち運べるぞ」


 魔術鞄、というのはどうにも便利な代物のようだ。

 あの小さなリュックくらいの大きさだと、大型の家具がいくつか入ると言っているあたり、ショルダーバッグ相当の鞄でもかなり大量に物が入るらしい。

 同時に、お値段の高さに得心がいく。


「これなんかがちょうどいいのではないか?」


 そう言って、ユイが進めてきたのは黒いショルダーバッグと黒い巾着袋のセット商品だ。

 恐らく、どちらも魔術鞄というやつだろう。


「こっちの巾着袋は財布にするといい。硬貨が1万枚は余裕で入るからな」


「魔術鞄に魔術鞄をしまう事ってできるのか?」


 ふと思ったのは、内部の空間拡張を施した鞄に同じ物が入るのかどうか。

 魔術鞄に魔術鞄をしまう事ができるのなら、かなり荷物の嵩が減るのだが。


「相性によるな。これみたいにセット売りのものは問題無くしまえるが、そうでない物は相性が悪いと空間拡張の魔術同士が反発する事がある。運が悪いとそれぞれが干渉し合って、いきなり中身が全部ぶちまけられる、なんて事もあるな」


 もしかすると、空間拡張の魔術とやらは、周波数のようなものがあるのかもしれないな。

 無線通信機なんかはチャンネル相性が悪かったりすると、他の回線が混線するとかあるらしいし。


「ま、そう上手くいくもんでもないんだな。それなら、そのセットでいい。荷物は纏められた方が楽だからな」


 ユイからおススメされた黒い鞄のセットを購入してもらい、店を出てから試しに剣などをショルダーバッグに入れてみれば、質量保存の法則を無視してすんなりと荷物を飲み込んでしまった。

 なるほど、こりゃあ便利だわ。


「これで必要な物は一通り揃っただろう。もし後から必要な物が出たら、移動先で都度揃えればいい。あとは荷物を纏めて、明日の朝に出発できるようにしておいてくれ」


「りょーかい。そんじゃ、今日はありがとな」


 差し当たっての買い物は終わったので、その場で俺とユイは解散。

 その頃にはすっかり夕暮れ時になっており、宿で夕食を摂ってから、俺は部屋に戻って明日に向けて荷造りを進めるのだった。

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