慣れてきた異世界生活⑦
「貴様がいなくなるのは残念だが、機会があればまた会おう! 縁があれば会う事もあるだろうからな! 再開の暁には、飯でも奢ってやろう! では、達者でな!」
あれから。
予定通り盗賊の後始末を街の兵士たちに丸投げし、日を跨いでユイが旅の準備をすると買い出しに出たので、俺は特に世話になった人たちに挨拶回りをしていた。
とはいえ、挨拶が最後になった親方で、午前中のうちに挨拶回りは終わってしまったので、街で気に入っていた定食屋で昼食を取り、これからどうしようかと考え、一旦宿に戻る。
そういえば、近いうちに部屋を引き払う事を伝えていなかったな、と思い出したのだ。
宿の近くに戻って来ると、宿の入口にはユイが立っており、俺の存在に気付くと、小走りでこちらへと合流してきたので、どうやら俺を待っていたらしい。
「戻ってきたな。挨拶回りの進捗はどうだ?」
「午前中で終わった。あとは宿を引き払うくらいなもんだ」
「そうか。ならこれから君の持ち物を揃えるから、一緒に来てくれ」
ユイが俺を待っていた用件は、俺の使う物を買う必要があったからのようだ。
まあ、俺も街を出るに当たって、色々と道具やらが必要かなとは思ってたからな。
今は安宿で着替えくらいしか持ってなかったし。
「わかった」
知識とかがしっかりあるわけじゃないし、とりあえずは彼女の力を借りておこう。
見た感じ、結構旅慣れとかしてそうだし。
そんな流れで、ひとまずユイに案内されたのは、街の中でも立派な道具屋だった。
何を買うかはハッキリしていないので、俺は案内されるがままに道具屋の入口を潜る。
「食料などの基本的なものは私が用意している。あとは君が使う外套や装備だな。まずはここからサイズの合う外套を選ぶといい」
道具屋内の外套を置いているコーナーへと連れて行かれ、この中から選ぶようにと彼女に示されたのは、平均値段が金貨1枚以上するものばかりだ。
さすがに最高級品というわけではないが、高級品であるのは間違い無いだろう。
近くには銀貨数枚程度で買えるコーナーもあるので、彼女が預かってきたという費用は相当な額なのだろうな。
俺の今の経済状況では買えん事も無いが、余裕を持って出せる金額ではない。
「いいのかよ、こんな高いので。そっちに手頃な値段のがあるだろ」
何となく、銀貨で買えるくらいのもので充分じゃないかと思ってしまうのは、日本人の性なのだろうか。
ちなみに、安物だと銅貨で買えるくらいなので、銀貨で買えるのはちょうど中間層辺りの値段と言える。
「外套は特にいい物を買うべきだな。安物は肝心な時に破れたりするし、機能が足りない事も多い。嵩張る持ち物だからこそ、いい物を買って余計な荷物は減らした方がいいぞ」
言われてみれば確かに、外套は殆ど全身を覆う物だから、畳んだとしても嵩張るな。
機能ごとに何枚も外套を準備する、というのも荷物が増えるし、理に適っているだろう。
「この辺りの外套なら、大体1枚で事足りる。砂漠や雪山のような極地はさすがに厳しいがな」
彼女の勧める、最低でも金貨1枚はする外套の中から1枚を手に取ると、それなりに厚手だが、丈夫そうで肌触りがいい。
それでいて、ある程度の伸縮性もあり、使い心地はかなり良さそうだ。
何となく抱いていた遠慮も、ひとたび商品を手に取ればかなり薄れており、気付けば自分の身体のサイズに合い、なおかつ気に入った感触の外套を探していた。
結局は、金貨3枚の値段が付けられた外套を選んでユイに渡す。
「ふむ、いい目利きだ。私が口出しをする必要は無かったな」
俺の選んだ外套を受け取って、彼女は満足そうに頷く。
どうやら俺の審美眼は、彼女のお眼鏡に叶ったらしい。
「服の着替えはあるか?」
「さすがにそれくらいはな。一応5着を洗いながら着回してるが」
「予備も考えれば妥当だな。ならば、次は靴か」
次の買い物は靴らしい。
使えりゃいいやの精神で、安物の靴を買ってたから、ありがたいといえばありがたいが、後で料金を請求されたら困るな。
まあ、それを言うと外套の方もそうなので、俺はそれ以上細かい事を考えるのを止めた。
向こうが費用を持つと言っているのに甘える判断をしたのだから、疑っても仕方ねえ。
「靴もいい物を選んだ方がいい。結構な時間歩く事になるだろうからな。足を痛めては話にならん」
外套を選んだ時点で今更だ、と遠慮の心は欠片も湧かなくなったので、俺は遠慮無く棚に並べられている靴をあれこれ物色し、サイズを合わせたりしていく。
既製品に合うのが無ければ、オーダーメイドも可能なようだったが、幸いにもちょうどいいものがあったので、それを選ぶ。
旅向けに丈夫な靴底で、しっかりとした作りのものだ。
それでいて、そんなに重くない。
俺の選んだ靴を見て、再びユイが満足気に頷く。
靴と外套を購入してもらってから、靴だけその場で履き替える。
外套は俺が持ったまま、次の場所へと買い物に向かう。
「次はここだな」
そう言って、ユイが俺を連れ込んだのは鍛冶屋だ。
剣や槍などの武器から、手甲や鎧などの防具まで色々な物が置いてある。
あまり細かい事を考えずに生活してきていたが、この街は結構規模の大きい所なのかもしれねえな。
というか、興味が無くて街の名前とかすら聞いてなかった。
面倒くさい事はシオンが覚えててくれたし。
「先日見たところ、素手で戦っていたようだが、武器の心得はあるのか?」
陳列されている武器や防具を眺めながら、ユイが問うてくる。
武器の心得は……無いわけじゃねえけど、基本的に我流だから何とも言えない。
何なら、1番素手が強いまであるかも。
「うーん……広く浅く、我流で何となく触った程度だな。大抵の武器は何となくは使えるだろうが、型みてーなのは知らん。何なら、素手が1番強いまであるな」
ここで変に見栄を張っても仕方ないので、素直に自分の内情を告白してみると、ふむ、とユイは顎に手を当てて考え込む素振りを見せる。
あと、若干の好みというか、俺自身の傾向だが、変に技量のいるものよりは力任せで扱える武器の方が向いてるとは思う。
逆にシオンは技量のいるタイプの武器が得意なんだよな。
手先も器用だし。
「……ある程度なら扱えるというのなら、とりあえず剣が無難か。あとは鉈と細々した用途に使うナイフといった所だな」
どうやら買い物の方針を決めたようで、彼女は目的の場所に向けて移動を始めた。
それに黙ってついくと、剣が並べられている棚のある場所で足を止め、樽に無造作に突っ込まれている剣を指差す。
「あの樽の中にある剣で自分に向いているものを1本選んでくれ」
言われるがまま、俺は樽の中にある剣を物色していく。
大きく分けると3タイプで、通常のオーソドックスな剣、幅広で肉厚の頑丈そうな剣、細身で薄い剣だ。
俺に向いているとするなら、肉厚で頑丈そうな剣だろう。
いわゆる、ブロードソードタイプだな。
「これがいい」
「ふむ、ならば頑丈で力を加えやすいものがいいわけだな。ちなみに重さはこれよりも重くて大丈夫か?」
「倍くらい重くても問題無い。これでもけっこ―鍛えてんぜ?」
ユイは俺から受け取ったブロードソードを樽に戻すと、待っていろ、と一言残して移動してしまった。
目で行先を追ってみると、カウンターの方に行って店員と何かを話している。
それなりに距離が離れているからか、特に会話は聞こえなかったが、ユイが何かを店員に頼んでいるように見える。
多分、そんなに剣なんて使わないだろうから、安物で充分だと思うけどなあ。
宝の持ち腐れだろ。
どこか他人事のように考えながら、俺は店員と交渉をしているであろうユイを眺めるのだった。




