慣れてきた異世界生活⑥
「あらよっと!」
リーダー格の元へと行かせまいとする下っ端を手当たり次第に殴り飛ばしながら、俺は盗賊たちの注意を惹き続ける。
ちょうど、俺を包囲するように盗賊たちが動いた時だった。
包囲の一角が崩れる。
「せっかく不意を突ける所を、正面から突っ込む馬鹿があるか!」
そう怒声を上げながら、協力者となったユイ・イサハラは、手当たり次第に刀で斬っていく。
鮮やかな手際で、なおかつ容赦無く盗賊を斬殺している。
賞賛すべきはその技量で、彼女の手にかかった盗賊は例外無く一撃で絶命していた。
どうやら、人を殺す事に躊躇は無いらしい。
「何だコイツら!?」
「滅茶苦茶強ェ!?」
…
……
………
「ふん、所詮は盗賊か」
刀に付いた血を布で拭い、キンッ、と澄んだ音を立てて鞘へと納刀してから、ユイはこちらを見た。
どこか品定めをするような、そんな目だ。
なお、俺が殴り飛ばした盗賊も、彼女が丁寧にトドメを刺していたので、この洞窟内に盗賊の生存者はゼロ。
俺が気絶させた見張りたちもご丁寧にトドメを刺してきてたらしい。
「さて、君が私の探し人だった事には驚いたが……なるほど、実力はあるようだ」
「お褒めいただきどーも。そんで、俺を探していた理由は?」
素性がバレている以上、あとは向こうの目的を探っておくべきだろう。
まあ、彼女が素直に話してくれるとも限らないけどな。
街で俺に声をかけてきた時は、学院長がどーのとか言ってた気がするが。
「街で会った時にも少し話したが……学院長が君を連れて来るよう言っていた。私の所属する、ヴァイゼ魔術学院に」
ヴァイゼ魔術学院、ね。
まあ、異世界では定番と言えば定番だわな。
けど、その学院長とやらが、どうやって俺の事を知ったのか。
俺の存在を知るのは、街の人以外は、あの日会った謎の少女くらいだが……。
「私も仔細は知らん。だが、カイトという人物を見つけたのなら、こう言えばついてくるだろうとも言われている。君の相棒の身体を取り戻せる可能性がある、と」
俺の事を探している学院長なる人物、確実に俺たちの事情を知ってるな。
そして、情報の提供元は、間違いなく、あの謎の少女だ。
ここまで俺たちの事情を知っているのは、彼女以外にあり得ない。
彼女と学院長なる人物が同一人物か、あるいは近しい存在なのかはわからねえけど。
「なるほど、そりゃあ魅力的な誘惑だ。けど、タダよりも怖い話は無えって言うしな?」
あまりにも相手の意図が読めなさすぎる。
俺たちみたいな身元も知れないヤツを一体どうする気なのか。
シオンの身体を取り戻せる可能性があるというのなら、それに賭けたい気持ちもあるが、それ以上に危険を感じなくもない。
何せ、こちとら孤立無援の異世界転移者だ。
周囲は全部敵くらいの警戒をしてもいいはず。
「……ふむ、思ったよりも警戒心があるのだな。いい事だ。だが、その点においても心配はいらないと言っておこう。あくまで学院長は君と話したいとの事だ。恐らく、何かしらの意図はあるのだろうが、決して君を陥れる類のものではない事を私が保証しよう」
「アンタに保証されてもな。結局、俺はアンタの事を深くは知らねえし、そっちも同じだろ?」
俺を招いたとて、相手側にメリットがあるとは思えない。
もしかすると、シオンの事が目当てという可能性がある。
魂だけの存在となったシオンが定着した、遺骸核を欲している、とかな。
「一理ある。だが、こちらとしては君の移動に関する安全を保障し、その費用を負担する用意がある。私の実力は今しがた見てもらった通りだし、移動に際しての不自由は極力させないと約束できるぞ。逆に言えば、これ以上の誠意は示しようが無いのだが」
頑なに疑ってかかる俺の様子を見て、ユイは困った表情を浮かべながら腕を組む。
そうする事で、そのご立派な胸部が強調されて、眼福だ。
『君は警戒するのか煩悩を満たすのか、どっちかにしたまえ。全く、器用な事をする』
シオンから呆れた言葉をかけられるものの、これはこれ、それはそれ、だ。
男の子だもの。
大きいのは夢だろ?
美人だし。
『僕としては、彼女について行ってもいいと思うよ。どの道、街から旅立つ予定ではあったんだしね。むしろ、何の後ろ盾も知識も無い僕たちに道筋ができたと言ってもいい。もっとも、君の勘がダメだと言うのなら、断っても構わないけどね』
思いの他、シオンはユイの誘いに乗り気のようだ。
そして、俺の勘がどう判断しているかと言えば、彼女の誘いにこれといった危機感は感じない。
つまりは、この誘いは受けても問題無い、という事である。
「……わかった。とりあえずはそっちを信用する」
あまりすぐに手の平を返すのもどうかと思ったので、少し悩むフリをしてからユイの誘いを受ける旨を伝えると、彼女はホッとした様子で表情を緩めた。
「理解を示してくれて助かる。この盗賊の件の後始末を終えたら、すぐに準備をして旅立とうと思うが、それで問題無いだろうか?」
理解してくれたのなら、と彼女は今後の予定に関して提案してきたが、すぐに出発でも困る事は無い。
何せ、俺たちには荷物らしい荷物も無いしな。
せいぜい、世話になった人に声をかけてくぐらいかね。
「特に問題は無えな。旅の費用も、そっちで持ってくれるんだろ?」
「ああ。そこに関しては任せてもらっていい。学院長から充分な費用を預かっているからな」
話が纏まった所で、俺たちは盗賊のアジトとなっていた洞窟を後にする。
移動しながら、この盗賊のアジトをどうするのかと彼女に聞いてみれば、このまま街に戻って警備兵にここの報告をして、後始末はそのまま丸投げするそうな。
それでいいのか、と思わないでも無かったが、俺も盗賊たちをしばいたら、拘束して警備兵に任せるつもりだったから、良く考えたら大差無かったわ。
差があるとしたら、生け捕りにするかどうかくらいかね。
こうして、俺たちに思わぬ所でシオンの身体を取り戻すための道筋が見えたのだった。
割とアッサリとしばかれた盗賊たち。
まあ、序盤の敵の扱いなんてこんなものです。




