慣れてきた異世界生活③
「貴様ら! 今朝も時間通りに集合してきたようだな! 本日の作業内容は何か、そこの作業員! 答えてみろ!」
謎の美少女が訪ねてきた翌朝。
俺は予定通り、工事現場でのバイトに来ていた。
相変わらず、親方の威勢と声量がすごい。
「ハッ! 本日の作業は、新たな用水路のための掘削作業であります!」
親方に水を向けられた作業員の1人が、負けじと威勢良く返答を行う。
こうして聞いてると、まるで軍隊みたいだな。
まあ、作業員全員で1つの目標に向かって作業をするという意味では、軍隊と言ってもあながち間違いでもないと思わなくもないが。
「その通りだ! 良く答えたな! 貴様を、栄光ある本日の号令係に任命する!」
「ハッ! ありがとうございます!」
実は、号令係を任命されているのは、工事の正社員である。
親方1人で素人集団全てを指揮できるはずもなく、何人かの正社員と手分けをして俺のようなバイト作業員を動かしているのだ。
こうして朝礼で日雇いのバイトに現場の雰囲気を見せ、馴染みやすいように配慮しているのだろう。
俺も最初こそ面食らったが、今となっては慣れたものである。
「それでは本日の作業を始めるぞ! 愉快な工事の始まりだ!」
親方の号令と日雇いバイトに混じった正社員たちの先導で、いくつかのグループに分かれて作業に入っていく。
今日は用水路を広げるための掘削作業という事で、スコップでひたすら地面を掘る作業と、掘り出した土を所定の場所へと運ぶ作業だ。
どちらも単純作業だが体力が要る。
頭脳労働が苦手な俺にとっては、こういう単純作業はありがたい。
時間ごとに土掘りと土運びを切り替えながら、無心で作業を進めていく。
かなり大規模な作業なので、今日は午前中だけでなく、午後も作業が続くので、時間を持て余さずに済むのも個人的はありがたかった。
「カイト! 今日も励んでいるようだな! 貴様の働きぶりは評価に値する! その気があるなら、俺の現場でずっと扱き使ってやるぞ!」
作業進捗確認で巡回していた親方から声をかけられ、俺は思わず苦笑い。
親方の言う扱き使ってやる、と言うのは、工事の正社員として雇うという意味なのだが、いつまでこの街に滞在するかもわからない身だし、少なくとも永住するつもりも無かったので、気持ちはありがたかったが、断る事にする。
「気持ちだけ貰っときます!」
「そうか! 気が変わったらいつでも待っているぞ! その時はコールサインをくれてやろう!」
親方の言うコールサインというのは、役職のようなものだ。
確か、この現場にいる正社員のうち、何人かはコールサインがある。
専門的な作業をできる職人に与えられている名前だと、いつかの休憩時間に正社員さんから聞いた記憶があるな。
確か、クラフターズ、って言ってたか。
親方はクラフターズ1だったはず。
結構偉い人みたいで、この土木作業をしている大きな会社のような組織のかなり上の方、らしい。
「大変だ! 盗賊団が街に向かってるそうだ!」
土木作業に勤しんでいるうちに、もうそろそろ昼飯時かなー、と腹時計で時間を測っていたら、街の人が大声でこちらにやって来た。
盗賊団、というのはまた穏やかじゃねーな。
ましてや、この用水路の拡大工事は外壁に穴を開けて街の外へと用水路を引っ張っていくものだ。
そこそこの規模の街で、警備兵も多く詰めているが、街を守る外壁の一部に穴が空いているとなれば、そこに敵が攻めてくるのは道理というわけで。
「チッ、こんな時に空気の読めん連中だ! クラフターズ10! クラフターズ13! 作業員共を集めて引き上げるぞ!」
敵が来るとなれば、一般市民や戦いの学が無い工事作業員は兵士の邪魔になるので、今日の作業は即座に撤退が決定された。
あれよあれよいう間に道具を纏めて所定の場所に置き、組織立って引き上げていく。
親方はこの撤退が不服そうな顔をしていたが、作業員の安全には代えられない。
とはいえ、俺はこの流れに乗らず、外壁の外に出て行く。
こういう時こそ、戦力はあって困らないだろう。
俺自身も相当に素手喧嘩には自信があるし、いざとなったら装鎧という奥の手もある。
必要なら盗賊から武器を奪ったっていい。
とはいえ、さすがに兵士の皆さんに見つかったら止められるだろうから、こっそりと先行するわけだが。
警備兵の皆さんが町の防備を固めている間に、俺は外で盗賊団をしばき倒す。
完璧な作戦だな!
『どうせ、完璧な作戦だとでも思っているのだろう? 君の行動は、ただの無謀と言うんだよ』
どうやら、相棒には俺の考えが筒抜けだったらしいな。
とはいえ、こうして外に出て来てから文句を言う辺り、シオンも俺が負けるとは思ってないのだろう。
「たかが武装したチンピラ崩れに俺が負けるかよ。これで何もせずに親方たちの誰かが死んでみろ。悔やんでも悔やみきれねえっつーの」
万が一にも、警備兵の皆さんが突破されて俺の知る誰かに被害が出たら、と考えると、絶対に後悔する。
だったら、戦う力のある俺が最初から頑張った方が、後悔は少ない。
可能な限りの手を尽くして、それでもダメなら仕方ないと諦められる。
そんなわけで、俺は街の外に出てから、イヤな気配のする方へと走っていく。
5分ほど走ると、いかにも盗賊団、といった集団がこちらへ向かってくるのが見えた。
ざっと……50人くらいか?
統一性の無い装備で、身なりは小汚い。
小悪党、という言葉が似合う連中だ。
「止まれ!」
当然、隠れる必要性など感じなかったので、俺は堂々と連中の前に出て声をかけた。
「何だァ? ガキが俺たち白蠍盗賊団に盾突こうってのか!?」
先頭を歩くいかにも下っ端、といった様相の男が勝手に名乗ってくれたな。
白蠍盗賊団、なんて名乗ってるくらいだから、そこそこ規模はデカいのだろう。
もしかすると、この集団は先遣隊で、後から本隊が来る、という可能性もある。
「お前みたいな三下じゃ話にならねえな」
わざと煽った言い方をしたのだが、下っ端の男は明らかに青筋を浮かべていて、もはやブチ切れ寸前といった様相だ。
「クソガキが……ぶっ殺してやるァ!!」
下っ端は、腰に吊っていた短剣を抜いて、真っ直ぐに俺へ向かって駆けてくる。
が、そんなとろくさい動きじゃ、俺を殺すなんて10年早ェ。
「喧嘩売る相手くらい選べよな! この下っ端野郎がよ!」
俺を殺そうと、短剣を突き出した下っ端男の一撃を完璧に見切って躱し、カウンターのストレートパンチを叩き込む。
めぎょっ、という音と共に、下っ端男の鼻っ柱を粉砕した感触が拳に伝わる。
言うまでもなく、下っ端野郎は俺に顔面を殴り飛ばされ、後ろに吹っ飛んでいく。
もんどり打って吹き飛んだ下っ端野郎は、地面に落ちてからはピクリとも動かない。
死んじゃいないだろうけど、一発で気絶したな、ありゃあ。
口ほどにもないとはこの事だ。
「ほら、かかって来いよ。ド三流ども!」
悪党を挑発しながらこういうセリフ、言ってみたかったんだよな。
日本じゃこんな事言う経験なんて、そうそう無いし。
まだまだ言ってみたいセリフはあるし、機会があれば様々な名言を使っていく事にしよう。
「このガキが!」
「見かけによらずやるぞ! 油断するな!」
各々が武器を構え、盗賊団の連中が襲い掛かってきた。
よし、それじゃあお仕置きとしゃれこみますかね!
俺は、拳を握って盗賊団へと襲い掛かるのだった。




