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9杯め 敵の攻撃を受けなさい

俺は、テイムした青飛竜(ブルーワイバーン)、リベリーの背に乗って飛んでいた。


「なかなか近づかないな」

(あの山は高く、近くにあるように見えて遠くにある)

「それはなぞかけか?」

(なぞかけではない。ただの事実じゃ)とリベリーは言った。(……しかしカフィ殿、おぬし、(わらわ)の背の上で何をしておるのじゃ?)

「ん?特別なことはしていない」と俺は言った。「湯を沸かしているだけだ」


俺はリベリーの背の上に魔導コンロを出し、ドリップケトルで湯を沸かしていた。


(それは……。竜の背に乗って飛んでいる時にすることなのかの?)

「日課だ。今日はまだやっていなかった。ほとんど揺れないし、問題ないだろ?」

(まあ、そうじゃが……)

「こぼさないようにするから」

(いくら煮えたぎっておるとは言っても、湯をこぼした程度では、妾のウロコには傷一つつかんよ)

「それはよかった」


俺は茶葉をドリッパーに入れ、静かに湯を注いだ。


かなりの速度で飛んでいるはずだが、魔法の膜で覆われているため、風圧を感じることはなかった。


俺は龍の絵のついたマグカップで紅茶を飲んだ。


「落ち着くな。しかし」と俺は言った。「やはりコーヒーが飲みたい」

(カフィ殿のこーひー好きも相当のものよの)と竜が言った。(妾も早く飲んでみたいものじゃ)


カフェインを摂取し終わった俺は、ドリップ用の道具や魔導コンロを片付けた。


「なあ、竜と龍の違いって何だ?」俺は気になっていたことを聞いた。

「竜は龍に進化する。龍に進化すると、魔力、体力すべてが向上するが、一番の違いはブレスが使えるようになることと、人化スキルじゃな」


ほう。大幅な戦力アップか。


しかし「人化」?


……気にしないことにしよう。異世界でコーヒーを飲むという野望の前では、すべては些事にすぎない。


(カフィ殿、少し休憩を取ってもかまわぬか)とリベリーが言った。

「いいけど、どうした?」

(飛翔魔法は大量の魔力を消費するのじゃ。今の妾じゃと、連続飛行は二時間が限度じゃ)

「わかった。降りてくれ」


リベリーは森の切れ目の草原を見つけ、そこに着地した。


(のお、カフィ殿……)

「何だ?」

(舌と心を同時に満たし

朝にも夜にも現れる小さな祝宴とは

なーんじゃ)

「それはコーヒーだ」

(ちがうのじゃ!)

「ん?違うのか?」

(いじわるなのじゃ!答えは「食事」じゃ。妾は食事がしたいのじゃ!)と言って、巨体をくねらせた。

「それならそうと言えばいいじゃないか」

(言ったようなものなのじゃ!)


俺はアイテムボックスから大量の肉料理を取り出して並べた。


(これじゃこれじゃ!)


リベリーがはむはむと肉を咀嚼していると、アイテムボックスの中から


(ご主人さま、リベリーだけズルいのです!)

(気に食わねぇな、ずりぃぞ!)


という声が聞こえてきた。


あれ?


アイテムボックスの中にいる時は、感覚がないと聞いていたんだが。


「お前ら、どうしてアイテムボックスの中にいるのに、リベリーが食事中だとわかった?」

(んなもん、気づくだろ)

(お肉の匂いがしましたので)


すごいな、食欲の力。


「リベリーは空を飛んで魔力を使ったから、補給のためにここで食事をしてるんだ。お前らはさっき食ってその後はアイテムボックスの中にいたんだから、腹は減ってないはずだ」

(ぐ……。ご主人さまのくださる肉は別腹なのです)

(そうだぞ。とっととこっから出しやがれ)

「却下だ」

((ええーっ!))


ちょうどリベリーが食事を終えたところだった。


「交信終了」

((待ってーっ!))


ぷつん。


俺も念話の扱いがうまくなった気がする。アラビカとロブスも息がぴったりじゃないか。けっこうなことだ。


おっと、遊んでいる場合じゃなかった。


俺はリベリーを見た。


「どうだ、飛べそうか?」

(くっくっく、カフィ殿。満タンじゃ)


体が白く輝いていた。


(乗るがいい)


リベリーが首を下げた。俺はその背に乗った。


リベリーが羽ばたき、宙に浮いた。


空高く舞い上がり、目指すは彼方の山脈。


待っていろ、コーヒー!


と思った時。


(カフィ殿、妾の気配感知が告げておる。よからぬものが近づいてきておるぞ。……ああっ!)


リベリーの翼が、地上から放たれた黒い光の槍によって貫かれた。うがたれた穴から鮮血がほとばしった。


リベリーは何度か羽ばたいたが、バランスを崩し、落ち始めた。


「だいじょうぶか、リベリー!」


(く、カフィ殿。しっかりつかまってくだされ)


俺はリベリーの首に抱きついた。


リベリーは、何とかバランスを保ちながら、翼を大きく開いて墜落を防ごうとした。


そこに第二射が来て、もう片方の翼が射抜かれた。


リベリーは完全にバランスを崩し、地面に落下していった。


ばきばきばきばき……とすさまじい音がしてリベリーの巨体が地面の木々に激突した。俺はリベリーの首の後ろにしがみつき、振動に耐えた。指に枝が当たり激痛が走ったが、手を離すわけにはいかない。リベリーが魔力で衝撃を抑えてくれたおかげで、俺たちは何とか着地することができた。


俺はアイテムボックスからアラビカとロブスを出し、「敵襲だ、警戒しろ」と命令した。


アラビカは剣を抜き、炎虎であるロブスは炎の闘気を身にまとった。


ヒラミ草を何束も出して、リベリーの翼に当てた。傷口がふさがっていった。


「カフィ殿、助かるのじゃ。放っておいても治るが、さすがの竜の回復力でも、これだけの傷は少々癒すのに時間がかかるのでな」


リベリーは目を閉じ、苦し気に息をしていた。


「おぬしの手も血だらけじゃぞ」


俺はタフラシュ草を出して手に当てた。指が変な方向に向いてたが、それも治った。


その時。


「ふぉっふぉっふぉっ。邪竜がおったので撃ち落してみれば、おまけつきであったか」


見ると、黒い頭巾と黒いローブを身にまとった老人がいた。手に杖を持ち、腕と脛が見えていた。やせ細った灰色の皮膚の表面には、魔法陣がびっしりと書き込まれていた。


老人が、木々の中に身体を横たえたリベリー、アラビカ、ロブスを見た。そして最後に俺を見た。


「おぬしはテイマーか。魔物のような賤しい存在を使役する賤しい職業よのお」

「俺だってほんとうはバリスタがよかったんだ」

「……はて?」と老人は首をかしげた。「バリスタ?そんなジョブがあったかの?……まあよい。テイマーがいたのは好都合じゃ。我が研究の素材とするため、できれば竜は生け捕りにしたかったからの。こんな辺ぴなところまで来た甲斐があったというもんじゃ。まずはおぬしから儂の奴隷となってもらおう」


アラビカが俺の前に立ち、剣を構えた。


(ご主人さま、お下がりください!)

「ん?」と老人がアラビカを凝視した。「その顔、見覚えがあるのお」


老人はメガネをかけ、「鑑定」と言った。その隙をついてロブスが老人の死角から近づき、爪をふるったが、見えない障壁に防がれ、弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。


(ぐはっ)

「だいじょうぶか、ロブス!」


ロブスは地面に倒れ、立ち上がろうとしているが、体が震えていた。


(こいつの障壁にうかつに触るな!痺れ毒を、食らうぞ……)ロブスの念話が飛んできた。ロブスは地面に倒れ、気を失った。


剣を構えたアラビカの額を汗が流れた。


「やはりそうか」アラビカを見つめ、老人は言った。「シェセルの妹ではないか。儂が呪いを与えた姫騎士とこんなところで巡り会えるとは、今日はついておるわい」

「貴様は……バジラ・イグニフェリオス!」とアラビカが言った。念話ではなく、ふつうの声だった。

「いかにも。儂は偉大なる魔導士、バジラ・イグニフェリオスであるぞ」


老人がそう言った途端に、アラビカが「ああっ」と叫び、頭を抱え、苦しみ始めた。


()()()からは姫騎士には手を出すなと言われておったんじゃがな」


老魔導士は杖を構え、アラビカに狙いを定めた。


「こうして手向かってきておるのだ。回収させてもらうぞ」


老魔導士が魔法の詠唱を始めた時。


「おい、じじい!」と俺は言った。「俺の仲間に手を出すな!」

「止められるものなら止めてみせい」

「収納!」


俺はアラビカをアイテムボックスにしまった。


「アイテムボックス持ちか」と老魔導士が言った。「……ん、アイテムボックス持ちの黒髪のテイマー?まさか貴様、冒険者カフィか!」

「そうだと言ったらどうするんだ」

「おのれ、我が弟、魔導士スネフェルの仇め!」

「誰だそれは」

「とぼけるな!貴様のせいで、我が弟スネフェルは洗脳スキルを失い、処刑されたのだ!」

「知らん」

「あくまでシラを切る気か!」と言って、老魔導士は俺に杖を向けた。「弟の無念、ここで晴らさせてもらう。塵一つ残さず葬り去ってくれるぞ!」


老魔導士が詠唱を始め、杖の先に光が集まってきた。光はどんどん強くなっていった。


これは、食らったらヤバい奴か?!


その時、青飛竜(ブルーワイバーン)のリベリーが目を開け、老魔導士バジラ・イグニフェリオスめがけて突進した。詠唱をするために意識を集中させていた老魔導士は不意を突かれ、後ろ向きに吹き飛んだ。


(ロブスをしまうのじゃ!)

「収納!」


俺はロブスをアイテムボックスに戻した。


リベリーは口を大きく開くと、吹雪のような息をゴーっと吐き出した。老魔導士が吹き飛ばされたあたりが凍り付き、氷は森を覆っていった。


(乗るのじゃ、早く!)


俺はリベリーの背に飛び乗った。リベリーは飛翔した。


後ろを向くと、氷で覆われた森が見えた。


「やったのか?」


(あれくらいでは倒せんじゃろう。あやつの力、並外れておる)とリベリーが言った。(氷が時間稼ぎをしてくれている間になるべく遠くに逃げるのじゃ)


森を覆う氷が少しずつ小さくなっていた。どうやらリベリーの言う通り、あの老魔導士は生きているらしい。


竜は低空を飛び、山をいくつも越えた。


リベリーは全速力で飛んだ。翼の傷は完全にふさがっておらず、血が流れていた。


「おい、リベリー、血が出ているぞ」

(手当てはあとじゃ!)とリベリーが叫んだ。(小さき人間ごときに、妾が恐怖を覚えるなど、初めてのことじゃ!)


結局リベリーは力尽きるまで飛び続けた。


ほとんど落ちるようにして、山の中腹にあった洞窟に飛び込むと、リベリーは倒れ込むように横になった。俺は投げ出されて肩を打った。


アイテムボックスからヒラミ草を出し、リベリーの翼の傷に当てた。シャツのあいだからタフラシュ草を入れて自分の肩に貼った。


ロブスを出して、黄色と黒の毛をかきわけて体を調べた。外傷はないようだが、体が震えていた。


眷属欄を見てみた。


ロブス:

・獣人種に進化間近の炎虎(バーニンタイガー)の雌。高潔なる魂の持ち主。攻撃力が高い。爪を使った近接戦闘や奇襲攻撃を得意とする。親を冒険者に殺されたため、人間を憎んでいる。(趣味:毛づくろい)[スキル:火魔法、気配察知][状態異常:テイムト][状態異常:痺れ毒]


「痺れ毒」をタップした。「一定時間、体を麻痺させる。時間経過により回復する」と書いてあった。


よし。


問題は……。


アラビカをアイテムボックスから出した。気を失っていたが、呼吸や脈拍は正常だった。


眷属欄のアラビカの説明を見た。


アラビカ:

・ゴブリンクイーンに進化間近のハイゴブリンの雌。高潔なる魂の持ち主。名付けられたことによりゴブリンコマンダーから進化した。すべてのステイタスが大幅に向上。元はアルバフォリア王国の王女。現国王シェセル5世の妹。兄を補佐するため、姫騎士として育てられた。闇魔導士バジラ・イグニフェリオスの呪いによりゴブリンに姿を変えられていたが、イグニフェリオスと再会したことで記憶を取り戻した。「趣味:剣術の鍛錬、ご主人さまの命令に従うこと」[スキル:狩猟魔法、念話][状態異常:テイムト][状態異常:呪い][状態異常:記憶を取り戻したショックによる気絶]


説明が増えていた。


気にしないことにしよう


……とは言えなかった。

毎日10時、16時に投稿します。

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