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4杯め ドワーフの店に行きなさい

俺は街に戻り、雑貨店の店主に教わった店に来た。


武器、防具などが並んでいた。


「いらっしゃい」と声をかけてきたのは、いかにもドワーフという、がっしりとした体つきのひげもじゃの男だった。

「キャベル雑貨店からの紹介で来た」と俺は言った。「ガラス細工の店と聞いたんだが」

「それなら奥だ」


店の奥に開いているドアがあった。


行ってみると、火の入った(かまど)があり、竈の前でかかんで棒を突っ込んでいる人がいた。机の上には、色とりどりの粉末が並んでいた。ガラス工房のようだった。


「おう、お客さんだぜ」とさっきのドワーフの男が言った。

「ちょっと待っててくれよ」と竈の前でかがんでいた人物が言った。女性の声だった。


女性は竈から棒をそっと引っ張り出した。棒の先端には赤く溶けたガラスが付いていた。女性は棒を回しながら息を吹き込み、ガラスを布の上で整形していった。ガラスはみるみるうちに、花瓶の形になっていった。タンクトップのような服を着ていて、腕の筋肉が動くのが見えた。体つきからすると、やはりドワーフなのだろう。


「お待たせ!」とガラス細工をしていた女性が言った。額の汗をぬぐうと、ぬぐったところが煤で黒くなった。

「作ってほしいものがあるんだが……」工房の地面が土だったので、落ちていた枝で絵を描いて説明した。「このくらいの大きさで、こういう形で、底に穴が開いていて……」

「ふーん、見たことはないが、そういうもんなら簡単に作れるよ」


漏斗はこの世界にはないのだろうか。


「液体を瓶に移す時にこういう道具は使わないのか」

「そういう魔法があるからね」


そうなのか。


「いくらだ?」

「そうだね、銅貨八枚でどうだい」


八千円か。


「わかった。それでお願いする」

「お、ヒト族のくせに値切らないんだね」

「なんだ、値切ったらもっと安くなったのか」

「いや、安くするつもりはなかったよ」女は笑いながらそう言った。「十分くらいでできるから、その間に隣で武具でも見ててくれよ」


俺はガラス工房を出て、武具を見て回った。小ぶりの剣を二本、革の鎧、革ベルト、弓矢、こん棒を買うことにした。ゴブリンAの装備だ。冒険者を相手にしている店らしく、魔導コンロや水を生成する魔石もあったのでそれも買うことにした。


「子ども用の服はないか」ダメ元で聞いてみた。

「召使に着せるようなボロい服だったらあるが」

「見せてくれ」


粗い織りの服で、腰を紐でしばる貫頭衣のようなものだった。それも買うことにした。武器や魔石も合わせ、全部で銀貨四枚(四万円)だった。


「できたよ」女がガラス工房から出てきて言った。「これでいいかい」


見ると、ほぼイメージ通りのものができあがっていた。錬金術用具の店で見たフラスコ類よりも透明度が高く、形も整っていた。


「上出来だ」と言って、俺は銀貨一枚を渡した。「釣りはいらない」

「兄さん、気前がいいね。また来なよ」


俺はアイテムボックスに買ったものをしまい、店を出た。俺は冒険者ギルドに向かった。


「この辺に手ごろな宿屋はないか」と受付嬢に尋ねると宿屋を教えてくれた。


宿屋につき、前金で一泊分の料金銅貨三枚(三千円)を払った。部屋に入ると、粗末なベッドが一つあるきりの部屋だった。雨露がしのげればそれでいい。


「部屋の中ならいいか」


俺はアイテムボックスから服や武具を出し、ゴブリンAを出した。街に生きた魔物を連れて入るのはご法度という話だったが、見つからなければ問題にはならないだろう。


「着てみろ」


ゴブリンAは子ども用の服を着て、革の鎧を身につけた。革ベルトに剣を二本つるした。


「ほう。いいじゃないか、ゴブリンA」


そう言うと、ゴブリンAはうれしそうだった。


「そうだ、いつまでもゴブリンAじゃあんまりだな。名前を付けてやろうか」


俺がそう言うと、ゴブリンAはうれしそうにぴょんぴょん跳ねた。


「よし」


俺は名前を考えた。俺の好きなコーヒー豆はキリマンジャロだ。キリマンジャロの豆の種類は──


「お前を、アラビカと名付ける」


そう言った途端、ゴブリンAだったゴブリンコマンダー、アラビカの体が白い光で包まれた。光が消えた時、そこにいたのは、あどけない顔の少女だった。耳が尖っているのと、緑色の肌をしている以外は人間の子どもと同じ形をしていた。


「また進化したのか」と言ったら、頭の中で(はい、ご主人さま。名前をいただきありがとうございます)という声が聞こえた。

「今のはお前の声か?」

(はい)


ステイタス画面を開き、眷属欄を見た。


アラビカ:

・ハイゴブリンの雌。高潔なる魂の持ち主。名付けられたことによりゴブリンコマンダーから進化した。すべてのステイタスが大幅に向上。「趣味:剣術の鍛錬、ご主人さまの命令に従うこと」[スキル:狩猟魔法、念話][状態異常:テイムト][状態異常:呪い]


スキルに「念話」が増えていた。


その時。


とんとん、とドアがノックされた。まずい。


「収納」


アラビカをアイテムボックスに収納した。


「誰だ?」

「宿の者です」


ドアを開けると、宿屋の受付の女がいた。


「何だ?」

「いえ、お隣の部屋の冒険者さんが、この部屋から魔物の気配を感じたっておっしゃるもんで……」


ぎくり、としたが、顔には出さず、「魔物などいるわけがない。部屋を調べても構わない」と俺は言った。


女は部屋に入ってきて「念のため失礼しますよ」と言ってベッドの下を覗き込んだ。


「何かいたか?」

「何も」と女は言った。「いえね、あたしも魔物がいるわけないって言ったんですけどね」


女は部屋を出ていった。


危なかった。


気配感知のようなスキルがあるのか。気を付けなければ。


その後、俺は街に出て屋台で串焼きを食べ、アラビカの分も買ってアイテムボックスにしまった。情報収集のために酒場に行ってもよかったが、今日はいろいろなことがありすぎた。


俺は宿屋に帰って寝た。


翌朝。


頭痛がしていた。


「カフェイン切れだ」


昨日は一日コーヒーを飲んでいない。コーヒー常習者の俺は、コーヒーを飲まないでいると、禁断症状として頭痛が起きる。


「仕方ない。紅茶でも飲みにいくか」


部屋を出ると、ちょうど隣の部屋から泊り客が出てきたところだった。革の防具を身につけた、ガタイのいい男だった。


「む」と言って、俺をじろじろと見た。「兄ちゃん、ゴブリンの匂いがするな」


昨日、気配を察知した奴はたぶんこの男なのだろう。


「昨日、ゴブリン狩りをして大量の耳を切り取ったからな。そのせいだろう」

「ひょっとして、あんたか。ゴブリンの集落をつぶしたってのは」

「そうだ」

「ギルドマスターが喜んでたぞ。これでまた初心者が薬草集めができるってな」


男は俺の肩をバンバンと叩き、去っていった。


「ふぅ」


俺は肺に溜まっていた息を吐いた。


俺はレストランに行き、紅茶を三杯飲んだ。頭痛が収まってきた。


でもやはり違う。コーヒーが飲みたい。


俺は冒険者ギルドに行った。


「メイドンさんがお待ちかねだよ」と受付嬢が言った。


俺は解体所に行った。メイドンが「おお、来たか」と言って、コインの入った袋をテーブルの上に置いた。「集落全滅の確認ができた。追加の報酬、金貨二十枚だ」


二百万円?


「ずいぶん多いんだな」

「それだけあの森の価値が高いってことだ」


俺は金を受け取った。


「それからこれも」


メイドンは俺に焦げ茶色のカードを渡した。


「冒険者カフィ Cランク」と書かれていた。


「ゴブリンの集落を殲滅できるんだ。Cランクでいいだろって、ギルドマスターが」

「追加料金はかかるのか?」

「いや、ランクアップは()()だ」

「ありがたくいただいておく」


俺はギルドカードを受け取った。


冒険者ギルドから出ると、「処刑があるらしい」「行ってみよう」という会話が聞こえた。人がぞろぞろと王城に向かって歩いていた。


俺はその流れと反対方向に歩いた。


俺はコーヒーが飲みたいだけなのだ。処刑に興味はないし、面倒ごとはごめんだ。


* * * * *


王と王妃は、バルコニーから中庭を見下ろしていた。


日頃は厳重に警戒されている王城の中庭が解放され、民衆がつめかけていた。中庭の中央には人の背の高さほどもある台が置かれ、その上には断頭台がセットされていた。


「王妃ザッカーラよ」と王は言った。「余がふがいないばかりに、あのようなものの傀儡となり、国の財政を傾け、国民にも迷惑をかけてしまった。ほんとうに情けない」

「悪いのは陛下ではありません」と王妃は言った。「悪いのは、我々を洗脳し、私腹を肥やしていた魔導士長スネフェルです。そしてその背後にいる白き男、フライナ・フラインヴァルグです」

「それはそうだが……。余は媚びへつらわれることに快感を覚えてしまっていた。洗脳されていたとはいえ、情けない」

「私は贅沢三昧の日々を送りました。洗脳されていたとはいえ、無念です」


「「はぁ」」と二人はため息をついた。


「ぼんやりとしか思い出せませんが、救世主様を召喚した後、我々は眠りにつきました」と王妃は言った。「目覚めた時には魔導士長スネフェルは洗脳のスキルを失っており、我々の洗脳は解かれていました」

「そうだったな。そのおかげで、隣国への侵攻命令をすんでのところで解除し、謀反人たる魔導士長スネフェルを捕らえることもできた」

「すべては救世主様のお導きでしょう」

「救世主様にはどれだけ感謝しても足りないくらいだ」

「過去は変えられませんが、未来は変えられます」

「王妃の言う通りだ。救世主様が与えてくれたチャンスを無駄にするわけにはいかない。私は今度こそ、よき王として、国民のため、このアルバフォリア王国を栄えさせてみせよう」

「わたくしもお手伝いさせていただきます」

「救世主様は何としても探し出し、お礼を申し上げねばなるまいな」

「はい」


侍従長がバルコニーに来た。


「陛下、準備が整いました」


王は一歩前に出た。魔導士長スネフェルの首と両腕が断頭台に固定されているのが見えた。


「国民たちよ!」と王は声を張り上げた。「これから謀反人である魔導士長スネフェルの処刑を執り行う。この者は、王族、貴族を洗脳し、財産を横領し、隣国への戦争をしかけようとした極悪人である。救世主様の働きがなければ、この国は破滅していたであろう。国民たちよ!シェセル5世の名のもとに、私はこの国の再建をここに誓う!」


民衆が拳を突き上げ、声をあげた。「王様バンザイ!」「救世主様バンザイ」という声も聞こえた。


「やれ!」


衛兵が断頭台の縄を切り落とした。


ザンッ。


王はその後、国民のための政治を行い、国は栄え、名君と呼ばれた。


その話を、冒険者カフィは知らない。

本日、13時、15時、17時、19時、21時に5話まで投稿します。

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