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三十一杯め 女子会を開きなさい

迷宮の第4階層は、今日もよく晴れていた。その空に、何発かの花火が打ち上げられ、ぱーん、ぱーんという音が円形闘技場(コロッセオ)に鳴り響いた。花火をあげているのはゴブリンたちだ。ゴブリンのまとめ役であるフラペチーノが裏方部門の仕切りを担当し、インカムのような魔道具を使って、各部署に指示を飛ばしていた。


「皆さま!たいへん長らくお待たせいたしました。これより、女子会を開催いたします!」

うおぉぉぉぉぉぉぉっ!という声が観客席から沸き起こった。マイクを握っているのはスナだった。俺はその隣に座っていた。俺とスナは野球場でいうと、キャッチャーやアンパイヤの後ろにあたる、ネット裏の位置にいて、観客席はドワーフ達で埋まっていた。


「前哨戦はこいつらだ!赤コーナー、体重1万パウンド、髭槌牛(ベアドハンマーブル)!」3塁側のゲートが開き、巨大な牛型の魔物が入ってきた。鼻息荒く、前足で地面をしきりに掻いていた。


「青コーナー、体重1万5千パウンド、死屍地龍(ゾンビアースドラゴン)のラテぇぇぇぇっ!」1塁側のゲートからラテが出てきた。ラテが「グギャゴァァァァァァッ!」と吠えた。観客席でビールを売っていたゴブリンが何匹か失神した。


「申し遅れましたが、実況は、自称『いるのかいないのかわからないような冒険者』、スナ・ウィーバ、そして解説と審判は、皆さんご存じ、『世界を救おうとしない救世主』、カフィさんです!カフィさん、よろしくお願いします!」

「はい、よろしくお願いします」

「皆さん、心の準備はいいですか!3、2、1、試合開始!」


ゴブリンの鳴らしたカーン、というゴングとともに、二匹の巨大な魔物が互いに向かって突進し始めた。


どうしてこうなったかというと。


円形闘技場(コロッセオ)を見て、「女子会をする」と言い出したリベリーに俺は「いいじゃないか。ここで甘いものを食べながら語り合うんだな」と言った。

「そうじゃ。甘い物といえば勝利の美酒。そして語り合うと言えば」と言ってリベリーは拳を突き出した。「これじゃろ」

「お!勝負かにゃ!いいにゃ!拳で語り合うにゃ!」とロブスが言った。

「ペットの分際でいい度胸じゃの」

「せ、折檻は怖いが、勝負なら別にゃ!」

「ルアックはパパの最強の盾、最強の槍。負けない」

「拳ではなく言葉で語り合ってほしい」と俺は言った。

「何を言うのじゃ、カフィ殿。拳を交えてこそ、互いのことが理解できるのじゃ」

「リベリーはもっと大人しいやつだと思っていたんだが」と俺は言った。

「この闘技場を見てたぎらん龍種はおらんじゃろ」


そんなやり取りがあり、身内どうしのバトルをすることになったのだった。話を聞きつけたバルグリムが「儂らにも観戦させてくれ」というので了承した。


そして今に至る。


「おおっと!ラテ選手、いきなりブレスだ」ラテは大きく息を吸いこみ、髭槌牛(ベアドハンマーブル)に向かってブレスを放った。

「ブル選手、いなした!」ブルは、ラテのブレスを角で弾いた。弾かれたブレスは観客席に飛んだが、フィールドと観客席とのあいだに防御壁が展開された。

「ご観覧の皆さま、ご安心ください。円形闘技場(コロッセオ)の自動防壁により、フィールド内の攻撃は観客席には届かないようになっております!」

ブルは、身を低くし、ラテに向かっていった。ラテは尻尾でブルを攻撃した。当たったか、と思った瞬間、ブルが真上に飛んで尻尾を交わした。そして空中に巨大な岩の柱が何本も出現し、ラテに襲い掛かった。ラテは巨大な岩の柱の直撃を食らい、「グギャァ!」と声をあげた。

「ここまでの戦いはいかがでしょう、解説のカフィさん」

「そうですね、ラテのブレスが効かない一方、ブルの土魔法攻撃は有効です。ブルが一歩リードというところでしょうか」

ブルは再度身を低くしてラテに向かっていった。鋭いブルのツノが光った。ラテは今度は回避せず、ブルのツノを腹で受け止めた。ラテの腹から、黒く腐った血が噴き出した。そしてラテが口を大きく開け、その鋭い牙がブルの首筋に襲い掛かった。

「ブモォッ!」ブルが暴れたがラテは口を離さなかった。巨大な岩の柱が空中に現れ、ラテを直撃した。たまらず、ラテは口を開き、横倒しになった。ブルは立っていたが、首から激しく出血していた。

「グギャァ!」

「ブモォッ!」

二匹の巨大な魔物が互いを威嚇した。ブルはラテに突進した。しかし、動きにさっきほどのキレがなかった。ラテの尻尾がブルを真横から捕らえた。ブルは吹き飛ばされ、円形闘技場(コロッセオ)の壁に激突した。のし、のし、のし、とラテが近づき、ブルの首筋に噛みついた。「ブモッ、ブモォッ!」とブルは抵抗していたが、その声はだんだんと小さくなり、ブルは絶命した。


「グギャゴァァァァァァッ!」とラテが吠えた。


「そこまで!ラテの勝ち!」と俺は審判として宣言した。円形闘技場(コロッセオ)のバックスクリーン上の掲示板にラテの姿が浮かび、「Winner!ラテ選手」の文字が現れた。


ラテがブルを食い始めた。飛び散る血しぶきを見て、観客のドワーフ達が興奮していた。

(こんな感じでよかったかい、飼い主殿)とラテから念話が飛んできた。

(ああ、上出来だ。よくやった、ラテ)

(あたしはこの迷宮のヌシだった。今は飼い主殿、あんたのしもべさ。こういうご褒美がもらえるなら、いくらでも見世物になってやる)


ラテは、ブルの死骸を咥えたまま1塁側のゲートに消えていった。地面に引きずられた血の跡は、瞬きをする間に消えてしまった。これも円形闘技場(コロッセオ)の機能なのだろう。


「続きまして、本日のメインイベント、カフィ杯争奪女子バトルです!」とスナが言った。

「カフィ杯というのは初耳です。賞品を用意していないのですがいいのでしょうか」と俺は言った。

「そのあたりは運営にお任せください。さ、ルールの説明です。相手を戦闘不能とするか、場外に押し出せば勝ちの勝ち抜き戦です。試合順は、厳正なるくじ引きの結果、こうなりました!」

掲示板に対戦表が映し出された。

「1回戦はロブス選手vsルアック選手、2回戦はその勝者vsリベリー選手です!」


観客席からは「儂は狂戦士(バーサーカー)の姐御に金貨1枚じゃ」「本命は酒豪殿であろう」「あたしは酒の妖精様に金貨5枚だ」などという声が聞こえていた。よい子は真似をしないようにしなくてはならない。


「前哨戦の興奮も冷めやらぬ迷宮内円形闘技場(コロッセオ)よりお送りしております。さて、解説のカフィさん、第1戦の注目ポイントを教えてください」

「ロブス選手の持ち味は、爪と爆烈魔法を使った近接戦闘ですが、それがルアック選手にどこまで通用するかでしょうね」

「というと?」

「ルアック選手は死霊王(レイス)であり、物理攻撃がどこまで効くのか未知数です。加えて、鏡防返呪(シュピーゲルヴェンド)による魔法攻撃へのカウンター、闇魔導士から奪った攻撃と防御、光学迷彩による隠ぺい行動など、多彩な技があります。しかも……」

「しかも?」

「最近わかったのですが、見えざる指(インビジブル・タッチ)という力場操作の魔法まで使えます。さっきの髭槌牛(ベアドハンマーブル)をつかまえてきたのは何を隠そう、ルアック選手です」

「えー?あの重そうな巨体を運べるほどの腕力も兼ね備えているんですね。そうなるとルアック選手有利でしょうか」

「そうですね。ただ、ロブス選手には、ここ一番というところで奇策を繰り出す柔軟性があります。その辺にぜひご注目ください」

「了解です。さ、選手入場です。まずは赤コーナー、体重154パウンド、虎猫狂戦士(バーサーカー)にして心臓破り(ハートブレイカー)、ロブス選手ぅぅぅっ!」

3塁側のゲートが開き、ロブスが入ってきた。右手の拳で左の(てのひら)を叩き、気合充分の顔をしている。

「いけ、姐御!」「ぶちかませ!」観客席が湧いた。

そして「青コーナー、体重21グラム、酒造り界の至宝、アンデッドの頂点、死霊王(レイス)にして腐敗の王、酒の妖精、ルアック選手ぅぅぅっ!」

古代中国の女帝が着るような服を着た幼女がふわふわと浮いて登場した。

「妖精様、おいしい酒をありがとう!」「いてこませ!」観客たちが拳を振り上げた。


ロブスとルアックが円形闘技場(コロッセオ)の真ん中で向き合った。

「いくぜ、おとッつぁん&おかッつぁん!3、2、1、試合開始!」とスナが叫んだ。


カーン、とゴングが鳴った。先手を出したのはロブスだった。


「おっと、ロブス選手いきなり炎の攻撃だ!」ロブスの頭上にいくつもの焔の球が浮かび、超高速でルアックに襲い掛かった。ルアックは鏡防返呪(シュピーゲルヴェンド)を展開し、すべて弾き返した。弾き返された焔の球は、さらに加速してロブスに向かっていった。直撃か、と思った時、ロブスが跳んだ。

「ロブス選手、カウンター攻撃をよけた!」

しかしルアックはそれを読んでいた。黒い光線が空中にいたロブスに向かって飛んだ。空中でロブスは腕を交差させ、その光線を受けたが、弾き飛ばされて地面に落ちて転がった。

「これは、ダメージが入ったか!」

ロブスの両腕から、煙が上がっていた。

「ルアック選手の鏡防返呪(シュピーゲルヴェンド)には耐性を無効化する機能がありますからね。炎攻撃無効を持っているロブス選手もダメージを受けたと思いますよ」と俺は言った。「しかしロブス選手は平気な顔をしていますね」


ロブスが無造作に間合いを詰めた。ルアックは見えざる指(インビジブル・タッチ)でロブスの足を掴み、何度も地面に叩きつけた。

「ぐはっ!」

ロブスが血を吐いた。革ベルトからポーションの瓶を抜き、飲みほした。ロブスのダメージが回復した。

「ポーションを飲んでようですが、あれはありなのでしょうか」と実況のスナが言った。

「ええ、ポーションを使ってはいけないというルールはありません。一方、アンデッド系であるルアックには回復手段がありません。長期戦になるとルアック選手が不利でしょう」

ルアックは、ポーションによる回復のチャンスを与えないため、見えざる指(インビジブル・タッチ)と黒い光線でロブスを攻め続けた。最初、ロブスは見えざる指(インビジブル・タッチ)による見えない攻撃をさばけず、ダメージを食らっていたが、徐々に対応できるようになってきた。

「ロブス選手、見えざる指(インビジブル・タッチ)を攻略したのでしょうか」

「ロブス選手の魔力を感知する力はすぐれています。見えていなくても、魔力のゆらぎでどこに攻撃が来るか予測できるのでしょう」

「なるほど!おっと、攻めあぐねていたルアック選手がここで動いた」

ルアックは少し宙に浮き、ロブスを見降ろした。ロブスがルアックをにらみ返した。その時、


赤い波動がロブスを襲った。ロブスはその赤い波動を真正面から受けた。ロブスの体中から血が噴き出した。


赤い波動は円形闘技場(コロッセオ)のフィールドと客席を隔てる防御壁に当たったが、吸収しきれず、何人かのドワーフが吹き飛ばされた。


「これは……!わたしが所属していた冒険者パーティを全滅させた『死の呪い』ではありませんか!」

「禁呪ですね。ゴミ箱に封印していたはずですが、ルアック選手はどうやって持ち出したのでしょうか」

「ロブス選手は呪い無効を獲得していたはずですが」

「呪い無効の者にすらダメージを与える。それが死の呪いです」

「観客席の皆さま、危険ですからルアック選手の目を直視しないようにしてください!」

「ドワーフの皆さんも呪い無効になってるはずですが、注意した方がいいですね」


ロブスは円形闘技場(コロッセオ)の真ん中に倒れていた。ルアックがふわふわと浮きながらロブスに近づいた。


「ロブ姉、降参するならここまでにしておいてあげる!」

「おっと、ルアック選手、勝利宣言か?」

「ロブス選手は……立ちましたね」


ロブスは立ち上がり「まだにゃ」と言った。そして次の瞬間、ルアックの首を後ろから掴んでいた。

「これはどういうことだ?霊体である死霊王(レイス)を、ロブス選手はなぜ掴めるのか!」

「ロブスはアイテムボックスの中でエネルギー体になっている俺を殴れるような奴ですからね。あれくらいはできるのでしょう」


ロブスは左手でルアックの首を掴み、右手でルアックの背中を殴打し始めた。どごっ、どごっ、という鈍い音が円形闘技場(コロッセオ)に響いた。ルアックは防御壁を展開したが、ロブスの殴打の前に、何の効果もなかった。


「これはまずいですね」と俺は言った。

「どういうことでしょうか」

「ルアック選手には回復手段がありません。霊体を殴られる、とは、すなわち魂への直接攻撃です。これはきついですよ」

「やめて……」ルアックのか細い声が聞こえた。しかしロブスは手を止めず、ルアックを殴り続けた。「やめ……」


ルアックは完全に動かなくなっていた。


「そこまで!」と俺は叫んだ。「この勝負、ロブス選手の勝ち!」


うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!という歓声が円形闘技場(コロッセオ)を包んだ。掲示板にロブスの姿が映し出され、「Winner!ロブス選手」の文字が現れた。


「酒の妖精様……」発酵所で働くドワーフ女、マルガレッタは観客席でがっくりと膝を付き、泣いていた。


ロブスはルアックの首を離し、ガッツポーズを決めた。


地面に落ちたルアックはぐったりしていたが、はっと気が付くと、「うえぇぇぇぇぇぇぇん」と言いながら俺の左目に飛び込んできた。


ロブスは革ベルトからポーションを出して飲んでいた。「死の呪い」によって受けたダメージが消えていった。


次は第2回戦、ロブスとリベリーの戦いだった。

毎日10時、16時に投稿します。

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