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二十四杯め ドワーフの腕を生やしなさい

夢を見ていた。夢の中で俺はアラビカと話をしていた。ぐるぐる巡るような、わかったようなわからないような話だった。目を開けたら──きれいさっぱり、内容を忘れていた。


上下反転したリベリーの顔が見えた。


「お、目が覚めたか、カフィ殿」


俺はリベリーの(もも)を枕にして寝そべっていた。リベリーの後ろに青空が見えた。


「なあ、リベリー」と俺は言った。「救おうとしないことで救える世界があるのか?」

「目覚めて早々、なぞかけか?」とリベリーが言った。「……ん?カフィ殿。おぬしなんで泣いておるのじゃ?」

「え?」

俺の頬を涙が一筋流れた。リベリーが指でぬぐってくれた。

「これはあくびだ」と俺は言った。

「あ、起きたのか、カフィ!」とロブスの声がした。「肉出す前に寝やがって、何考えてんだ!」

そう言って爪を振り下ろしてきた。俺とロブスの間に防御壁が展開され、ロブスが弾き返された。

「ありがとな、ルアック」と俺は言った。

(バカなパパはルアックに話しかけないで)とルアックは俺の左目から言った。

「はいはい」


俺は起き上がった。目の前に森林が広がっていた。

「わ、カフィ!なんだその目は」とロブスが言った。「左目!白目が黒くなってんぞ。気色悪ぃな!」

「昨日からだろ」

「そうか」

「昨日は笑い転げてたじゃないか」

「あのー……」俺の横から突然声がした。

「わ、びっくりした。すまん、いたのか、スナ師匠」

「いるのかいないのかわからないようなわたしですので、そういうリアクションには慣れています。気にしないでください」

「どうした?」

「お目覚めのところ、さっそくで恐縮なのですが、食べ物を出していただけないでしょうか」スナはロブスを見た。「わたしのアイテムボックスの中にあった食料は全部ロブスさんが食べてしまいましたので」

「お前何やってんだ、ロブス」

「ミィは悪くないぞ。食い物も出さずに寝てたカフィが悪い」

「ロブスさんがわたしを食べ物を見るような目で見ていたのでずっと気配を消していました」

「んな話はいいから、メシ!」


俺はアイテムボックスから屋台で買った料理を出した。まだ湯気が出ていた。みんなもりもりと食べていた。ルアックも俺の目から出てきて肉を食っていた。死霊王(レイス)に進化したはずだが、日の光は気にならないらしい。屋台メシの在庫がかなり減ってきた。そろそろ食材を調達した方がよさそうだ。


その前に。


「みんな、食いながらでいいから聞いてくれ。昨日はすまなかったな。傷のせいで熱が出ていたのと、寝不足と、チタの実を食ったせいでテンションがおかしくなってた。変なことを口走った。悪かった」

「ん、なんかあったのか?」とロブスが言った。

リベリーはやさしく微笑んで座っていた。

「せっかくみんなスルーしてくれてるのにわざわざそんな話を持ち出すなんて、パパはやっぱりバカ」

「辛辣だな。でもそのとおりだ」と俺は言った。「俺は今まで、コーヒーだけを求めて旅をしてきた。問題が見つかっても見ないふりをして歩いてきた。そんなやり方は、問題の先送りに過ぎず、長続きはしないだろうと思っていた。実際、フライナ・フラインヴァルグが現れ、アラビカがいなくなって、俺は問題と真正面から向き合わざるを得なくなった。その上で言うんだが……」

俺はみんなの顔を見まわした。

「俺はこれからも、コーヒーだけを求めて旅をする。問題が見つかっても見ないふりをして歩いていく。したいことをして、したくないことはしない。そんな風に旅を続けようと思う。それが敵の一番嫌がることだと思うから」

「ミィは肉さえ食わしてくれたらなんでもいいぜ」

「アラビカさんのことはどうするの」とルアックが言った。

「アラビカのことは救わない。それがあいつを救う一番の近道だ」

「わけがわからない。でもそんな不合理で理不尽なことを言うパパは、バカなパパより少しマシ」そう言ってルアックは俺の左目に戻った。

「リベリーはどう思う?」

「前にも言った通り、(わらわ)はカフィ殿の行くところについていくまでじゃ」とリベリーは言った。「で、次の一手はどうするのじゃ?」

「ゴブリンの気配を探してくれ」と俺は言った。


ゴブリンの集落はすぐに見つかった。ロブスが見張り用の鐘楼を爆破すると、その音を聞きつけて大勢のゴブリンが出てきた。100匹くらいいるだろうか。

「テイム!」

特にダメージもなく、群れ全体をテイムすることができた。


俺はゴブリンたちを2つの班に分けた。一つの班にはタフラシュ草、ヒラミ草を探させた。もう一つの班には近くの河原まで案内させ、肉の解体用の道具を渡した。俺はアイテムボックスから未解体の白猪(ホワイトボア)赤角鹿(レッドホーンディア) を大量に出した。

「肉の匂いを嗅ぎつけて魔物が集まってくる可能性がある。誰か護衛をしてほしいんだが」

(あの子にやらせればいいじゃない)とルアックが言った。


俺は死屍地龍(ゾンビアースドラゴン)のラテをアイテムボックスから出した。右前足のない、腹に大きな傷跡のある、巨大なティラノサウルスが出現した。森中の鳥がいっせいに飛び立った。そばにいたゴブリンは泡を吹いて倒れてしまった。遠くにいたゴブリンたちも怯えていた。

「こいつは俺の眷属、ラテだ。怖がることはない。作業を続けろ」と俺はゴブリンたちに命令した。気絶したゴブリンは、別のゴブリンが介抱した。

俺は皮を剥いだ白猪(ホワイトボア) をラテに与えた。

「ここで見張りを頼む。と言っても、お前に近づこうという奴はあんまりいないだろうがな」

(ふん。あたしは今じゃあんたのしもべさ、飼い主殿。何でも命じるがいい。このブタはありがたくいただくよ)

そう言って、ラテはバリバリと白猪(ホワイトボア)を食い始めた。自動車くらいの大きさがある白猪(ホワイトボア)を、フライドチキン感覚で食べていた。俺はもう一匹、白猪(ホワイトボア)を出して、ラテの前に置いた。


「スナ師匠はどこにいった?」

「はい、目の前にいます」

「ああ。この階層で塩は手に入るか?」

「ええ、森の北にある湖が塩湖ですので、結晶がごろごろ転がっていますよ。ただ……」

「問題があるのか」

「ドワーフの採掘場がすぐそばにあるので、見つかると一悶着起きるかもしれません」

「悶着?なんでだ」

「警戒心がとても強いんです。もともと頑固者が多い種族ですが、わざわざ迷宮で暮らすなんて、その中でも特に偏屈者の集まりなのでしょう」

「ふーん。ドワーフ達がいるなら、おもしろいものが手に入るかもしれない。とにかく行ってみるか。ロブス、背負ってくれるか」

(その必要はない)と俺の左目の中でルアックが言った。俺の体が浮き上がり、ものすごいスピードで森の中に突っ込んでいった。「ちょ、ちょ、ちょ、ルアック、止まれ!」ルアックは止まらなかった。太い木の枝が目の高さにあった。ルアックは防御壁を展開し、その枝をへし折った。猛烈な勢いで障害物をなぎ倒しながら進み、気が付くと、湖についていた。後ろから、スナを背負ったロブスが追い付いた。

「闇魔導士が使ってた移動用の風魔法か」とロブスが言った。「帰りはどっちが速いか勝負しようぜ!こんなお荷物さえ背負ってなきゃ、ミィは負けねぇけどな」

「お荷物……」どこからかスナの声がした。

「リベリーは?」

「ここじゃ」後ろから声がした。「カフィ殿の裾をつかんでおったのじゃ。言ったじゃろ、カフィ殿の行くところ、どこにでもついていくと」


スナの言った通り、湖の騎士にはピンク色をした岩塩の塊がごろごろ転がっていた。俺は念話で、近くで薬草探しをしていたゴブリンを何匹か呼び寄せ、岩塩を拾わせた。

ロブスは「水の上を走る訓練をする」と言って、服を脱いで湖に飛び込み、「しょっぺぇ!」と言って舌を出していた。

リベリーは乾いた丸太に座り、その様子を見ていた。

スナの姿は見えなかったが、きっとその辺にいるのだろう。

俺は石臼を出して岩塩を挽いてみた。粒子の細かい、いい塩ができた。もう少し粗目でもいい。薬草の煎じ汁を作る石臼とは分けた方がいいかもしれない。


等と考えていたら。


ドワーフ達が現れた。


「よそ者がここで何をしておる」先頭にいたドワーフが言った。鉄兜をかぶり、斧を構えていた。

「冒険者だ。商売をしないか」と俺は言った。

「お前らに売る物はないぞ。儂らは金貨など欲しくない」

「上級ポーションがあると言ったらどうする?」と俺は言った。

「嘘をつくならもっとましな嘘をつけ」先頭にいたドワーフの表情が険しくなった。

「試してみるか?」

俺たちの上空を鳥型の魔物が飛んでいた。

「落とせるか、ルアック?」

(目からビ~ム)

俺の左目から黒い光線が出て、鳥型の魔物の翼の根元に当たった。鳥型の魔物が落ちてきた。翼を広げれば3メートルくらいありそうな、鷹のような魔物だった。片方の翼が完全にもげていた。俺はアイテムボックスからヒラミ草の煎じ汁を出し、鳥型の魔物にかけた。鳥型の魔物の翼が元通りくっついた。ついでなのでテイムしておいた。飛べる眷属がいてもいいだろう。

「どうだ?」

「ほんとうらしいな」

「いや、まやかしかもしれんぞ」

疑い深い奴がいた。

「それが本物なら、この腕、生やして見せよ」と疑い深いドワーフが言った。右腕の肘から先がなかった。俺は煎じ汁をその腕にかけた。が、何も起こらなかった。

「古傷には効かぬということか。ならばこうじゃ!」そのドワーフは左手で剣を抜き、自分の上腕部から下を切り落とした。俺はその断面に煎じ汁をかけた。すると。

「おお、50年前、落盤事故で失った腕が生えてきよった!」ドワーフの目に涙が浮かんでいた。「これでまた鍛冶仕事ができる!」

「気高き石の守護者ダーヴォルンよ、よかったな……」

「今日は祝いじゃ。飲むぞ!」

「「「「「おー!」」」」」

と、ドワーフ達が盛り上がっていたら、(飼い主殿、ゴブリンどもの作業が終わったよ。迎えにきておくれ)という念話がラテから飛んできた。


そうだった。解体作業をお願いしていたのだった。生肉を放置しておけば腐ってしまうだろう。


「水を差すようですまないが、少しの間、席を外すぞ」と俺は言ったが、ドワーフ達は聞いていなかったので、俺は「ラテと肉を回収してくる」と言って、ルアックにお願いして、びゅーんと森の中に突っ込んでいった。

「あ、待て、今回は負けねぇぞ!」と言ってロブスがついてきた。

(加速!)ルアックも張り合う気まんまんだった。

「うぉりゃぁぁぁぁぁっ!」とロブスが全力疾走した。もうすぐゴールというところで白猪(ホワイトボア)が進路を横切った。「邪魔だボケがぁ!」ロブスは白猪(ホワイトボア)を殴り飛ばした。河原についたのは俺の方が先だった。「くそ、イノシシがいなけりゃミィの勝ちだったのに」ロブスはさすがに息が荒くなっていた。

河原には精肉された肉が山のように積んであった。薬草班が集めたタフラシュ草も積んであった。ヒラミ草もかなりの量が取れた。俺は肉、薬草、ラテを収納し、ゴブリンたちに肉を与え、解散させた。

「帰るぞ」

俺とロブスは、木々が薙ぎ払われ、すでに道のようになっている直線ルートを弾丸のように突き進んだ。俺は湖の直前で急停車した。「よっしゃ、今回はミィの勝ち!あっ!」ロブスは止まり切れず湖に突っ込んだ。


ドワーフ達はまだ「気高き石の守護者ダーヴォルン」の腕が生えたことで盛り上がっていた。


「あの……」スナがドワーフに声をかけた。いつの間にか5人のドワーフの真ん中にいた。

「うわっ、おぬし、どこから現れた!」

「ずっといましたよ」というお約束のやり取りがあり、「商売の話をしていたはずじゃありませんか?」とスナが言った。

「そうじゃった、すまん」と先頭にいたドワーフが言った。「儂は轟雷のバルグリム。この里の長を務めておる。まずはダーヴォルンの腕を生やしてくれたこと、礼を言う」と言って頭を下げた。「儂らはこれから酒宴……ではなく、あいにく、会議があるから忙しい。明日、改めて来てもらえないだろうか」

「それは構わないが……」


その時。


「たいへんだ、バルグリム!」まだ若いドワーフが息を切らせて走ってきた。

「騒がしいぞ、笑う陽炎(かげろう)のトリフィックよ。今日はおぬしが見張り当番じゃったな。何があった?」

「第5階層のヌシ、地龍(アースドラゴン)が河原で寝てるのが鐘楼の上から見えたんだ」

「バカな!おぬしの見間違えではないのか?」

「見間違えるもんか」

「おい、バルグリム!」

「今度はどうした」

「あんなところに道ができておるぞ」

「何?」

ドワーフ達が一斉に振り向いた。森の中に、河原に通じる道ができていた。

「一体、何が起きようとしているのだ……」

「悪いが両方とも俺たちだ」と俺は言った。

「里の者に知らせよ!」しかしドワーフ達は聞いていなかった。

「武器を持てる者には武器を持たせよ!」

「おーい」

「老人、女子どもは避難所に!」

「聞けって」


仕方がないので、俺はアイテムボックスからラテを出した。右前足のない、腹に大きな傷跡のある、巨大なティラノサウルスが出現した。湖の湖面にたくさんの魚が白い腹を見せて浮かんだ。ドワーフ達は突如として現れた脅威を目前にして、固まっていた。

「でかくて怖ぇよな。ミィもこいつを初めて見た時はビビってチビりそうだったぜ」とロブスが言った。

「ラテ、座ってくれるか」

(ふん。あたしはあんたのしもべさ、飼い主殿。何でも命じるがいい)

伏せの態勢になったラテの鼻先を俺はなでた。「怖がらなくていい。こいつは俺の眷属だ」

「眷属、じゃと?」

「ああ、収納」

俺はラテをアイテムボックスにしまった。


巨大なティラノサウルスはいなくなり、やがて、湖面に浮いていた魚が意識を取り戻し、湖の底に潜っていった。


轟雷のバルグリムは震えていた。そして笑い出した。

「がっはっは、こいつは豪儀だ。酒の肴に聞かせてもらおうか、おぬしの話を」


俺たちはドワーフ達に案内され、ドワーフの里に入っていった。

毎日10時、16時に投稿します。

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