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二十二杯め 邪眼持ちになりなさい

地龍(アースドラゴン)は地面に倒れていた。ロブスがその鼻先を蹴飛ばした。

「おーい、もう死んでるぞ、こいつ」

俺は恐る恐る穴の中に入っていった。

「実は生きてました、とかやめてくれよ」

俺は地龍(アースドラゴン)の鼻先に手を触れ、「亡骸従属(リーク・スカルコーネ)」と唱えた。地龍(アースドラゴン)の死体が光に包まれ、のっそりと起き上がった。腹が爆発したせいで、内臓が飛び出ていた。

龍種(ドラゴン)の血は猛毒だから、お前ぇら触らねぇ方がいいぞ」と言いながら、ロブスは内臓を腹に戻した。ヒラミ草の煎じ汁をかけると腹の穴がふさがるどころか、かえって広がった。

「うわっ、どうなってんだ」

「アンデッド系の魔物にとってポーションをかけることは攻撃を受けることに等しい。それが道理じゃ」とリベリーが言った。「カフィ殿、蜘蛛を出してたもれ」リベリーは氷魔法で大きな針を作ると、蜘蛛の糸を通し、地龍の腹を縫っていった。腹の傷は塞がった。

「とっとと名前を付けちまえよ」とロブスが言った。地龍(アースドラゴン)の肌は薄茶色だった。「じゃ、お前はラテだ」と俺は言った。今まで名付けは慎重にしてきたが、俺は眠気をチタの実でごまかしている状態で、限界寸前だったため、かなりいい加減な名付けになってしまった。


(……ふん)死屍地龍(ゾンビアースドラゴン)のラテは、それだけ言ってあとは黙り込んでしまった。

「ずいぶん無口な奴だな」

「まさか負けるとは思っていなかったのでしょう」

スナに負けて「バカヤロー」と言って逃げ出したロブスの姿を俺は思い出した。かわいそうだったので、俺はラテをアイテムボックスに収納した。


「しかし、ほんとうに地龍(アースドラゴン)に勝ってしまうとは」とスナが言った。「あなたたちはほんとうにすごいです」

「スナ、お前だって活躍してたじゃないか」

「岩から落ちた時は助かったぜ。ミィは人間は好きじゃねぇけど、スナのことは認めてやるよ」ロブスは照れながら言った。「それに比べてカフィはずっと後ろにいたな」

「仕方ないだろ。俺が前に出ても役に立てないんだから」

「カフィさん、あれ」とスナが言った。「宝箱です」


地龍(アースドラゴン)のいた場所に宝箱が落ちていた。


「罠の可能性があります」とスナが言った。「調べますから待ってください」


スナはアイテムボックスからいろいろな長さや形の棒を出して、宝箱のあちこちに入れたり回したりした。そして「罠が解除できました。開けます」と言った。


蓋が開いた。


中には、宝石が山のように入っていた。


「おー、ぴかぴかだな。肉はないのか?」とロブスが言った。

(わらわ)にも見せてたもれ)と言うのでリベリーをアイテムボックスから出した。「ふむ、どれもすばらしい品じゃ。竜の里にもこれだけのものはなかなかない。人間の金の価値はわからんが、金貨にして1万枚くらいかの」


金貨一枚10万円として……。え?10億円?


さすが迷宮のラスボスのドロップ品だ。


「で、どうするのじゃ」

「そうだな、スナ、これはあんたの取り分ってことでいいか」

「え?」とスナは驚いた顔をした。「私はほとんど何もしてませんし、せめて人数割りで……」

地龍(アースドラゴン)本体は俺がもらったんだ。たしか(ドラゴン)は捨てるところなし、だったか。かなりの価値があるはずだ」

「いえ、でも……」

「じゃ、あんたの技を俺に教える授業料ってことでどうだ」と俺は言った。「アイテムボックスを使った攻撃のやり方を教えてほしい」

「あれにはびっくりしたぜ!」とロブスが言った。「へたれのカフィもあれが使えれば少しは強くなれるな!」

「へたれとは何だ」

「スナ殿、受け取ってもらえんかの。婚約者殿との新しい生活のためにも、あって困るもんじゃなかろう?」とリベリーが言った。

「いるのかいないのかわからないようなわたしですが……」とスナは言った。「このご厚意は決して忘れません。このお宝、ちょうだいします!カフィさん、訓練は厳しいですよ」

「望むところだ、スナ師匠」


こうして俺は暗殺術の師匠を得たのだった。


俺はステータス画面を開いて眷属欄を見た。


ラテ:

地龍(アースドラゴン)の雌だったが、亡骸従属(リーク・スカルコーネ)により死屍地龍(ゾンビアースドラゴン)となった。(趣味:昼寝)[スキル:ブレス、邪眼マウンター[死の呪い]][状態異常:テイムト]


死の呪いはそのまま残っているようだった。ロブスがひょこっと横から覗き込んできた。

「それ、いつも見てんな」

「ああ、これは……、あ、ばか、勝手にいじるな」

ロブスはラテの「邪眼マウンター[死の呪い]」という項目をドラッグアンドドロップして、俺のスキル欄に入れた。


「ぐあーっ、目が、目がー」


左目の奥が猛烈にかゆくなった。俺は「死の呪い」をゴミ箱に捨てた。目のかゆみが収まった。


「なんか、このあたりから、あのバジラ・イグニフェリオスとかいうやつの残滓を感じるんだよ」と言いながらロブスはゴミ箱フォルダをタップした。すると、今まで俺がゴミ箱に捨ててきた項目が一覧になって出てきた。

「ちょっと待て、ゴミ箱って開けたのか」

「あった、これだろ、あいつの魔法」

ロブスはゴミ箱に入っていた「上級闇魔法」という項目をドラッグアンドドロップして、俺のスキル欄にあった「邪眼マウンター」に重ねた。


「おぐぅぉ、目がー!」目のかゆみとともに、猛烈な吐き気に襲われた。


(ぱぱー るーたん しんかする)とルアックの声がした。


え?今?


「ルアック、今ちょーっと手が離せないんだ」

俺は「上級闇魔法」をゴミ箱に捨てようとした。

(そのままでだいじょうぶだよ)とルアックが言った。ルアックは、黒い光に包まれていた。その光が輝きを増し、一抱えほどの球形に収縮した。そしてその光が弾けた時──


そこに、古代中国の女帝が着るような服を着た幼女が浮いていた。袖や裾の先がゆらめき、空間と溶け合っていた。


「パパ、ルアックは進化しました」とルアックが言った。

「なんで蛇がこうなるんだよ」人の姿に変わったルアックを見て、ロブスが言った。

「お前だって虎が人になっただろ」

「ルアックはカフィ殿の亡骸従属(リーク・スカルコーネ)死屍森大蛇ゾンビフォレストサーペントになった子じゃからの。アンデッド系の進化をしたんじゃろ」

「これからは、パパの左目に住むことにします」とルアックが宣言し、俺の左目に吸い込まれていった。その途端に目のかゆみも吐き気もすーっと収まった。

(パパ、闇魔導士バジラ・イグニフェリオスの魔法は、ルアックが管理します。後ろから襲われても、ルアックが気づいてパパを守ります)

「ごめん、ルアック、展開が早すぎて俺はついていけてないんだが」

(こういうことです。目からび~む)

俺の左目から、黒い光線が発せられ、洞窟の壁をえぐった。

(ろぶすお姉ちゃん、後ろからパパに襲い掛かってください)

「こうかー?」

ロブスが爪を光らせ、後ろから俺に攻撃を食らわせようとした。

(目からばりや~)

俺の後ろに防御壁が展開され、ロブスの攻撃を防いだ。攻撃も防御も、バジラ・イグニフェリオスが使っていたものだった。


「すげぇな。……あれ、カフィ、ぎゃはははは」とロブスが笑い出した。「おま、お前、目が、目が、ぎゃはははは!」と言って笑い転げていた。

「何だ、どうなったんだ、俺の目は」

「カフィ殿の左目、白目が黒くなっておる」とリベリーが言った。「まさに邪眼じゃな」

「あ、じゃあさっき捨てた死の呪いも入れられんのか、そこに」

(可能だよ、パパ。ルアックが管理します)

「やってみようぜ!」とロブスが言って俺のステータス画面を勝手にいじり始めた。俺はステータス画面を切った。

「あ、何すんだよ」

「何すんだよじゃない!あれは危ないだろ。封印だ」


このようにして、ルアックは死霊王(レイス)に進化し、俺は邪眼持ちとなってしまった。


ルアック:

死霊王(レイス)の雌。地龍(アースドラゴン)に勝利したことをきっかけに死屍森大蛇ゾンビフォレストサーペントから進化した。別命龍種殺し(ドラゴンスレイヤー)。受けた攻撃をそのまま相手に返し、相手の耐性や無効属性を無効化する鏡防返呪(シュピーゲルヴェンド)のスキルを持つ。(趣味:ひみつ(年頃なのでパパには内緒))[スキル:鏡防返呪(シュピーゲルヴェンド)、気配操作、光学迷彩、毒無効][状態異常:テイムト]


「ルアック、お前はそこにいたまま鏡防返呪(シュピーゲルヴェンド)を使えるのか?」

(もちろんです、パパ。ママのブレスも弾き返してみせます)

「おい、ママって誰だ」

「くくく、ルアックよ。今度おいしい肉を食べさせてやろうぞ」とリベリーが俺の左目を見ながら言った。

(うれしい、ママ)

「おい、リベリーがママならミィは?」

(ロブ(ねぇ)はロブ(ねぇ)だよ)


冗談で済ますこともできた。でも、何かが引っかかった。


「お前ら、迷宮に落ちてから自由すぎないか」と俺は言った。「迷宮に落ちてから、というか、あれか、アラビカがいなくなってからか。そりゃ、あいつは元お姫様で、あぶなっかしいところもあったから、いっしょにいると少しは緊張させるようなところもあったのかもしれない。しかしだな、いなくなった途端にはしゃぎ出すのはどうなんだ?それだと、まるで……」


そこまで言って、俺は言葉を止めた。リベリーが泣きそうな顔をしていたからだ。


いつもの軽口のつもりだったが、まずいことを言ってしまったらしい。さっきまでのお祭りムードがどこかに消え、冷たい空気になっていた。


(アラビカさんがいなくなったことで、均衡が崩れ、新しい秩序が生まれようとしているのはたしか。でもパパは何もわかってない。パパのバカ)

「おい、何でアラビカだけ他人みたい呼ぶんだよ」

(もう他人でしょ?あのクソ強い奴に捕まったんだよ。二度と戻ってこないし、次会う時はたぶん敵だよ。パパだったわかってるはずじゃん)

「……家族ごっこするならラテも家族に入れてやってくれよ。お前の妹になるんだろ?」

(あの子には名前なんて付けなくてよかったんじゃないの?あんなでかい妹、いらない)

そう言って、ルアックは閉じこもってしまった。閉じこもったと言っても、俺の左目に、なのだが。


なぜ、急に思春期の娘を持った父親のような立場に立たされなくてはいけないのか。ただでさえ、急に仲間を失い、急に死にかけ、急に迷宮に落とされ、急に仲間が増え、急に龍を倒し、急に邪眼持ちとなったばかりだというのに。


俺はただ、うまいコーヒーが飲みたいだけなのに。


俺はヒラミ草の煎じ汁を作る作業に没頭することにした。現実逃避であるが、地龍戦で消費した分のポーションを補うためでもあった。


ロブスとリベリーは何も言わず、魔法を使って葉の乾燥をしてくれた。俺はごりごりと石臼を挽いて粉を作っていった。そしてドリップケトルを使い、ドリッパーに湯を注いだ。ロブスがやりたそうにしていたので、ロブスにやらせてみた。上手だった。俺はドリップをロブスに任せ、瓶詰め作業をした。


「カフィさん」

「わ、びっくりした!いたのか、スナ」

「ええ、ずっといました。いるのかいないのかわからないようなわたしですので、勝手に行けばいいと思うのですが、パーティメンバーの遺品を回収しに行ってもいいでしょうか」

「え?ああ、そうか。パーティの皆さんが戦ったのはここじゃないんだな。みんなで行こう」


俺たちは煎じ汁作業をやめ、道具をしまうて、スナの後について洞窟の中を歩いた。


「ここです」とスナが言った。岩が崩れていたり、ブレスの跡があったり、激しい戦闘だったことがうかがえた。

「まだあった。よかった」スナは地面に落ちていた鎧や剣を拾い上げ、アイテムボックスにしまった。「迷宮は冒険者の死体を飲み込みますが、装備品は食べ残すんです。装備品もやがては飲み込まれ、価値あるものは宝箱に入れられたり、ドロップ品になったりします」

俺たちも地面を探し、落ちていた装備品を拾ってはスナに渡した。

「遺品として遺族の方々にお渡しします。助かりました」とスナは言った。そして「ここまで来たんです。第4階層につながる階段まで行ってしまいましょう!」と言って先頭を歩き始めた。


俺たちは黙って歩いていった。


みんながはしゃいでいたのは、半分は新しい場所に来た高揚感で、もう半分は俺を気遣ってのことだ。アラビカがいなくなったことで、俺は自分でも気づかないうちに落ち込んだそぶりをしてしまっていたんだろう。


新しい出会いや成長に浮かれる気持ち。

なくしてしまったものを悲しむ気持ち。


どっちもほんとうの気持ちだ。俺は両方とも受け容れていきたい。しかしそれは難しいことだった。コーヒーを淹れる時、甘味と苦みを同じくらい程よく抽出するのと同じくらい、難しいことだった。


(あたしはこの迷宮のヌシだった。)と唐突にアイテムボックスの中から念話でラテ──死屍地龍(ゾンビアースドラゴン)が話しかけてきた。

(どうした、ラテ)

(今は飼い主殿、あんたのしもべさ。せいぜい楽しませておくれよ)


それだけ言って、ラテはまた黙り込んだ。


黙々と階段を登り続けていたら()()に出た。それは、地下迷宮の中にある、青空と森林の階層、別名「憩いの層」だった。


青い空を見て、俺は気絶した。もう限界だった。

毎日10時、16時に投稿します。

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