二十一杯め 地龍を攻略しなさい
横穴の中には広い空洞があった。地龍は尻尾で地面を叩き、後ろ脚で踏み固めていた。そのたびに地面が揺れ、岩壁が崩れた。
「おそらく、ここは奴の寝床なのでしょう」とスナが言った。「わたしたちが遭遇したのは、もっと広い穴でした。私の地図には載っていない別の通路でつながっているようです」
地龍は後ろ脚を曲げ、腹を地面につけ、短い前足の上に顎を載せ、目を閉じた。スナのいうとおり、ここは奴の寝床らしい。
「とにかく、奴が死の呪いを放った時に、ぜったいに奴の目を見ないようにしてください。必ず死にます」とスナが言った。
「見るなと言われるとますます見てしまいそうだ」と俺は言った。
「どうすんだ、カフィ?」とロブスが言った。
「スナ、奴の戦闘スタイルは?」
「最初の一撃はだいたい長距離からのブレスです。それから、間合いを詰めて尻尾の一撃。強烈です。それらが効かない場合、死の呪いを出してきます」
「それならルアックを出す」と俺は言った。
「え?カフィさん、やめておいた方が……」
「作戦を練るにしてももう少し相手の情報がほしい。ルアックだって龍殺しと呼ばれるほどのやつだ。簡単には負けないだろ」
俺は小瓶を出し、ヒラミ草の煎じ汁を小分けにし、ロブスとスナに渡した。「念のために渡しておく」
俺はルアックを出した。
「ルアック、ちょっとあの龍の様子を見てきてくれ」
(ぱぱー るーたん がんばる)
「よし、行ってこい」
しゅるしゅると横穴からルアックが入っていった。その途端に地龍が目を開け、
グギャゴァァァァァァッ!
と吠えた。岩壁が震えるほどの声だった。
そして地龍が大きく口を開け、口の中で光球が膨らんだ。
「ブレスが来ます」とスナが言った。
地龍の吐き出したブレスを、しかし、ルアックのスキル、鏡防返呪がそれを弾き返した。
「よし、いける!」と思った時、
地龍が、自分に跳ね返ってきたブレスをサッとよけた。巨体に似合わぬ、すばやい動きだった。
地龍の左目が赤く光り始めた。
「死の呪いが来ます!」とスナが言った。
「ルアック、絶対に奴の目を見るなよ!」と俺が言ったら、「るーたん め ないの」とルアックが言った。そうだった。ルアックは俺が魔核から復活させた死屍森大蛇であり、目玉がないのだった。
地龍の邪眼から、赤い波動が飛んできた。その目を見なかったのに、その余波だけで、俺は吹き飛ばされ、後ろの岩壁に激突した。後頭部を強打して気を失った。ロブスがすぐにヒラミ草の煎じ汁を飲ませてくれて、俺は意識を取り戻し、急いで穴の中を見た。
ルアックの鏡防返呪が赤い波動を弾き返したのが見えた。しかし、地龍はまたしても赤い波動をサッとよけたのだった。
そして、ルアックめがけて突進し、尻尾をふるってきた。
「収納!撤収!」
俺はルアックをアイテムボックスにしまい、ロブスの背中に飛び乗った。背後で、地龍の尻尾が岩壁を叩く、ものすごい音がしていた。
俺たちは蜘蛛の洞窟に戻った。リベリーにもアイテムボックスから出てきてもらった。
「たしかにあれは化け物だな」と俺は言った。「手が付けられん。やり過ごすことはできないか」
「ここから第4階層に続く階段に行くには、地龍の縄張りを通るしか道がありません」とスナが言った。「わたしだけならそーっと通ることもできるんですが」
「スナのアイテムボックスに俺を入れられないか?」
「無理です。わたしのアイテムボックスは、生き物を入れると死にます」
「そうか。じゃ、リベリーの回復を待つのがいいか」
「カフィ殿、妾はもうすぐ戦えそうじゃが、龍と龍が戦えば、下手をすると迷宮が崩壊するかもしれん」
「穴全体を氷漬けにすればいいんじゃねぇか」
「奴も龍のはしくれじゃ。大暴れして氷を壊すじゃろ。その衝動で迷宮が壊れると言っておるんじゃ」
「生き埋めは勘弁だな。あの素早い動きさえ封じられたら何とかなりそうなんだが」
「蜘蛛を使えばいいんじゃねぇの?」とロブスが言った。「蜘蛛どもを何匹も出せば、糸でやつの足を止められんじゃねぇかな」
「毒噛蜘蛛の糸ですか。……あの糸は粘着性もありますし、強度もありますから、いけるかもしれません!」
「おお、ロブス!お前冴えてるな!」
「ミィをほめるがいい!」と言って、ロブスは得意げな表情になったが、スナを見てテンションが下がった。さっき何度も負けたことを思い出したのだろう。そして「さっきは、悪かった」と言った。
「気にしてませんから」と笑顔でスナが言った。大人の対応で助かる。
「よかったな、ロブス」
「ミィは、別に、その、もにょもにょ」ロブスは珍しく語尾を濁し、横を向いて困ったような顔をしていた。
俺はロブス、スナの顔を見た。
「で、具体的にどうやるかだが……」と俺が言ったら、「蜘蛛どもの指揮はミィに任せてくれよ」とロブスが言った。「蜘蛛どもの動きは戦ったミィが一番よくわかってる。地龍の尻尾が来たって、ミィならよけられる。それに何よりミィが役に立つことをカフィに知ってもらいたい」
「ロブス、さっきも言ったが、お前が役立つことは俺にはちゃんとわかってる」と俺は言った。「役立ちたいとか、そういう動機で突っ走るとロクなことにならないぞ」
「それだけじゃねぇんだ。ミィたち、ゴブっ娘を取り戻すんだろ?あのとんでもなく強ぇ白い奴から。だったら地龍くらいでビビッてられねぇじゃねぇか」
「ロブス……。無茶はしてほしくない。でも、お前がそこまで言ってくれるのなら、その気持ちにも応えたい。……わかった、お前に任せよう」
「よっしゃ!」とロブスは手のひらを拳で叩いた。「待ってろよ、トカゲ野郎!」
俺たちは念のため生きている毒噛蜘蛛を捕まえることにした。死体を俺のスキル、亡骸従属でテイムするよりも、多少、イキがいい気がするからだ。作戦の成功確率を少しでも上げるためだった。群れがいたのでロブスとスナが無力化し、テイムしてタフラシュ草の煎じ汁で治療した。
俺は毒噛蜘蛛を整列させた。総勢50匹ほどだった。このほかに100匹くらいの死屍蜘蛛が俺のアイテムボックスに控えていた。
俺とロブスは並んで蜘蛛たちの前に立った。
「いいか、お前ら、この獣人のお姉さん、ロブスの命令で動け。わかったな!」
(((((((((((ぐぎょ!)))))))))))という感じの念話が飛んできた。どうやらわかってくれたらしい。
準備は整った。「出撃だ!」
俺たちは地龍の横穴に向かった。俺はロブスの背に乗り、スナがその横を走った。リベリー、ルアック、蜘蛛たちはアイテムボックスの中だ。
横穴に着くと、地龍は穴の中で目を閉じて眠っていた。
俺はロブスを見た。ロブスはうなずいた。
「作戦開始だ」
ロブスが地龍の洞窟に入り、地龍の尻尾がとどかないあたりに陣取った。合図があったので、俺はアイテムボックスから蜘蛛軍団を出した。蜘蛛たちは次々に穴の中に入っていった。
地龍が目を開けた。そして立ち上がると、
グギャゴァァァァァァッ!
と吠えた。岩壁が揺れた。
ロブスは「蜘蛛ども、奴の右足を狙え!」と言って、指を差した。蜘蛛たちはいっせいに糸を吐き出し、その糸が地龍の右足に絡みついた。地龍は地団太を踏んで蜘蛛の糸を引き剥がした。そして蜘蛛たちに突進した。蜘蛛たちは地龍の後ろにさっと回り込み、そこから糸を吐いた。地龍の右足が地面に固定された。
「よし、次は左足だ!」
そうロブスが叫んだ時、地龍の尻尾が、ロブスの乗っていた岩を砕いた。間一髪、ロブスは別の岩に飛び移った。その間にも蜘蛛たちは地龍の左足を固めにかかっていた。
「これは、行けるんじゃないか?」と俺が言った時。
ばぎゃばぎゃばぎゃばぎゃ……とものすごい音がして、地龍の右足が、地面の岩ごと持ち上げられた。周辺にいた蜘蛛が巻ぞいを食って何匹もつぶれた。俺たちのいる穴の外まで石礫が飛んできた。ロブスの頭にでかい石がぶつかり、ロブスが岩の上から落ちた。ロブスを抱きかかえ安全圏まで連れてきたのはスナだった。スナはヒラミ草の煎じ汁をロブスに飲ませた。ロブスは意識を取り戻し、俺の元に来た。
「糸が足りねぇ。カフィ、増援だ」
俺は「あの獣人のお姉さん、ロブスの言うことを聞くんだぞ」と言いながらアイテムボックスから死屍蜘蛛たちを出した。
死屍蜘蛛たちは地龍を取り囲み、一斉に糸を出し始めた。地龍は尻尾を振り回して大暴れした。死屍蜘蛛たちが何匹も弾き飛ばされた。
「カフィ、一瞬でいい、奴の気を引いてくれ!」とロブスが叫んだ。俺はルアックをアイテムボックスから出した。その姿を見た地龍は、口を大きく開き、ブレスの態勢を取った。それが隙となった。
「蜘蛛ども、奴の尻尾に一斉掃射!」
蜘蛛たちの糸が地龍の尻尾に絡みつき、地面や岩壁に縫い付けていった。
地龍がブレスを放った。ルアックの鏡防返呪がそれを弾き返した。
弾き返されたブレスを地龍はよけようとしたが、尻尾と左足が固定されていたため、よけきれず、ブレスは地龍の右前足を粉砕した。地龍が叫んだ。
地龍の左目が光り始めた。死の呪いだ。
俺たちは地龍から目を逸らした。赤い波動が来て、それをルアックが弾き返した。赤い波動は跳ね返され、地龍を直撃した。体中のウロコから「ぴしっ」という音がした。しかし、地龍は倒れなかった。
「ルアックの鏡防返呪は、呪い無効を無効化するんじゃなかったっけ?」と俺は言った。
(たとえ死の呪いを浴びようとも、一度で死なないのが龍種じゃ)とリベリーがアイテムボックスの中から言った。
生きていた毒噛蜘蛛たちは、地龍の死の呪いを受けて死んでしまった。しかし死屍蜘蛛たちはまだ動いていた。最初から死んでいるものに、死の呪いは効かないのだろう。
ロブスは、死屍蜘蛛たちに「まず右足を固定だ!それからグルグル巻きにしてやれ」と命令した。死屍蜘蛛たちは地龍を糸で巻いていった。地龍は苦し紛れにブレスを放った。ルアックの鏡防返呪に跳ね返され、腹に当たり、腹のウロコが砕け散った。
「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ、爆烈パーンチ!」
その腹の穴に、ロブスが渾身の右を叩き込んだ。焔をまとったそのパンチは、その名のとおり、腹の穴に突き刺さり、龍の腹の中に大爆発を起こした。地龍は「グギャゴァァァァァァッ!」と断末魔の叫びをあげた。
こうして俺たちは地龍を倒すことに成功したのだった。
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