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十七杯め 闇魔導士に勝利しなさい

闇魔導士バジラ・イグニフェリオスは勝ち誇った顔をしていた。


そりゃそうだろう。俺をゴブリンに変えてしまえば、もうアイテムボックスを使える者はいなくなり、テイムも消え、誰もゴブリンの呪いを解けなくなるのだから。


しかし、俺は待っていたのだ。


バジラ・イグニフェリオスが、「小鬼呪化ゴブル・ハムル・ガルドル」という呪文を唱えるのを。


俺が闇魔導士の背後に出現させたのは、俺だけではなかった。


あらかじめ姿を見えなくしたルアックを俺の前に出現させていた。ルアックのスキル、鏡防返呪(シュピーゲルヴェンド)を使うために。


ルアックの説明をステータス画面で見た時は驚いた。


ルアック:

死霊王(レイス)に進化間近の死屍森大蛇ゾンビフォレストサーペントの雌。別命龍種殺し(ドラゴンスレイヤー)。受けた攻撃をそのまま相手に返し、相手の耐性や無効属性を無効化する鏡防返呪(シュピーゲルヴェンド)のスキルを持つ。(趣味:ぱぱと遊ぶこと)[スキル:鏡防返呪(シュピーゲルヴェンド)、身体強化、気配操作、光学迷彩、毒無効][状態異常:テイムト]


もし、バジラ・イグニフェリオスに対して正面からルアックを出現させていたら、光学迷彩の()()()が闇魔導士にも見えたかもしれない。しかし奴は振り向きざまに俺に小鬼呪化ゴブル・ハムル・ガルドルを撃ってきた。ルアックの存在に気づく暇はなかっただろう。


小鬼呪化ゴブル・ハムル・ガルドルは姿を消していたルアックに当たった。そして、鏡防返呪(シュピーゲルヴェンド)の効果により、闇魔導士が持っていたであろう、呪い無効の効果を無効にし、バジラ・イグニフェリオスに跳ね返っていった。


俺は闇魔導士の顔を見た。その目は驚愕のために見開かれていた。


魔力光が収まり、闇魔導士バジラ・イグニフェリオスがいた場所にいたのは──


一匹の小さなゴブリンだった。


「ぎぎっ?」と言って首をかしげた。


俺は頭ウサギや皮なし猪をアイテムボックスに収納した。


そして、

そして、

そして、


「勝った~!」と叫んだ。


(「「やったー」」)とアラビカ、ロブス、ルアックも叫んだ。


ゴブリンが逃げ出そうとしたのをロブスが捕まえて縄でしばった。


「こいつ、どうすんだ?」とロブスが言った。「テイムすんのか?」


「まさか」と俺は言った。あのひどい吐き気を味わうのはごめんだ。「アラビカ、お前が決めていいぞ」


アラビカは、ゴブリンを見ていた。闇魔導士バジラ・イグニフェリオスだったゴブリンは、涙を浮かべ、「ぎー、ぎー」と小さな声で訴えていた。


アラビカは剣を抜き、ゴブリンの目の前に突き付けた。ゴブリンが「ぎ!ぎ!」と言って、縄から抜けようとしたが、縄はきつく、ゴブリンは地面に転がった。


アラビカは剣を振り下ろした。ゴブリンが目を閉じた。


切れたのは、ゴブリンを縛っていた縄だった。


「殺してしまうのは簡単です。ですが……」


アラビカは剣を収めて言った。「私がされたのと同じように、このヴィアードヴァルトの森に解き放つのがよいとアラビカは愚考します」


ゴブリンは急に自由になった手足を不思議そうに見た。そして、アラビカを警戒しながら、周囲の状況を確認した。


「お前の気は済むのか」と俺は聞いた。

「ええ、私がご主人さまと出会えたように、この者にも、誰かとの出会いがあるかもしれません」

「なんでこいつを殺さないのか、ミィには理解できねぇ」とロブスが言った。「ゴブリンは一匹からでも増えるんだろ?こいつを親にした極悪軍団が誕生するんじゃねえか」


それを聞いてアラビカは微笑んだ。「あの出産の痛みを味わうなら、それもまたこの者にとってよき経験となるでしょう」


「生かしておく方が復讐になるってか?何かの拍子に呪いが解けて、こいつがまた暴れだしたら森の魔物たちがかわいそうだ」とロブスが言った。

「お前はこの森のヌシだったな。じゃあこうしよう。テイム」俺はゴブリンをテイムした。途端に猛烈な悪寒と吐き気に襲われた。立っていられないほどだった。ステータス画面を開き、眷属欄の説明を見た。


バジラ・イグニフェリオス:

・闇魔導士だったが呪いによりゴブリンの雄となった。フライナ・フラインヴァルグの忠実なるしもべ。(趣味:人体改造)[スキル:高級闇魔法、風魔法][状態異常:呪い][状態異常:テイムト]


俺は、どす黒いオーラを出している「スキル:高級闇魔法」をゴミ箱フォルダにドラッグアンドドロップした。悪寒と吐き気が収まった。そしてテイムを解除した。


「こいつは無害化した」と俺は言った。「もう闇魔法は使えない」


アラビカはしゃがんで、静かに、強く、ゴブリンに言った。「行きなさい。そして自分の道を切り開いてみせなさい」


ゴブリンは、転ぶようにして駆け出し、森の中に消えていった。


それを見送ったアラビカは、俺の方に振り向いた。すっきりとした顔をしていた。


そして、「食事にするのがよいとアラビカは愚考します」と言った。


「お、いいね!」とロブスが言った。

(ぱぱー るーたんも おなか すいた)とルアックが言った。


呼び方が変だった気がするが、気にしないことにしよう。異世界でコーヒーを飲むという野望の前では、すべては些事にすぎない。


何か忘れている気もするが、それも気にしないことにしよう。


そう思った時、


(いじわるなのじゃー!)という声がアイテムボックスから聞こえてきた。

「すまんすまん」と言って、俺はリベリーをアイテムボックスから出した。

「ようやく外に出られたのじゃ」と青い振袖の妖艶美女は言った。「せっかく元の姿に戻れたのに、狭いところに押し込めよって!ひどいのじゃー!」


リベリーには、しばらくのあいだ、「死んで」もらっていた。文字通りの意味ではなく、アイテムボックスの中でずっと気配を消してもらっていたのだ。闇魔導士バジラ・イグニフェリオスを欺くためだ。あいつはリベリーをゴブリンに変えたことで、俺たちの戦力が弱体化したと思っていた。それなのにリベリーが、龍種の姿のまま現れると、「あれ、小鬼呪化ゴブル・ハムル・ガルドルって無駄?」みたいに考えて、あいつが小鬼呪化ゴブル・ハムル・ガルドルを使ってくれなくなるリスクがあると思ったのだった。


今回の戦いを振り返ると、そこまでする必要はなかったのかもしれない。


しかし、リベリーを出さなかったことで、あいつの慢心を誘えたことも事実だ。


ああいう強敵に対しては、万に一つの油断も許されない。


だからあえて「龍」を封印したのだった。


「さみしかったのじゃー」と言って、リベリーは俺に抱きついてきた。


そのあいだにロブスが入ってきて、「じゃれてねぇでメシにしてくれよ」と言った。


俺はアイテムボックスに入っていた料理を全部出し、魔導コンロも出して肉を焼き始めた。戦勝会だ。少しくらい豪勢にしてもいいだろう。


俺は北の山脈を見た。これでようやくコーヒー探しを再開できる。


そう思った時。


「ぱぱー うしろからなんか くるよ」と言ってルアックがその身を光学迷彩で隠ぺいした。


「我が忠実なるしもべの気配が消えたので何事かと思って来てみれば──」頭上から声がした。


振り向いて見上げると、俺たちの背後に白いタキシードを着た男が浮いていた。手には白いステッキを持ち、黒い渦の円盤に乗っていた。


「お食事中に高いところから失礼します。私はフライナ・フラインヴァルグと申します。人を探しております」男は丁寧な口調でそう言った。俺たちを見るその瞳の色は、赤かった。


「なんだ、肉の匂いにつられて来たのか?」とロブスが言った。「肉は全部ミィたちのもんだけど野菜なら分けてやってもいいぞ!何しろ今は勝って気分がいいからな!」

「あいにく、私は消毒済みのものしか口にしませんので、そのような雑菌だらけの肉は食べられないのですよ、ばい菌だらけの獣人のお嬢さん」と白いタキシードの男、フライナ・フラインヴァルグは言った。

「こいつ、気に食わねぇ!」とロブスが言った。

「私が探しているのは、黒いローブを着た魔導士です。汚らしい老人ですが、あれでもきちんと消毒済みなんですよ。どこに行ったか知りませんか?」

「知ってても教えるもんか!」とロブスが言った。

「おや、嫌われてしまいましたか。残念です。おやおやそちらにいらっしゃるのは、国王陛下の妹君ではありませんか。名前はたしか……」

「私はアラビカ!」と言ってアラビカは剣を抜き、俺の前に立った。「ご主人さまにお仕えする騎士だ!」

「名が変わったというのですか。……いいでしょう。さて、姫騎士と行動をともにする黒髪の方、あなたが救世主カフィ殿ですね?ご尊顔を拝し、このフライナ・フラインヴァルグ、光栄の至りと存じます」そう言ってフライナ・フラインヴァルグは黒い渦の円盤の上でうやうやしく頭を下げた。

「話があるなら宙に浮いてないで降りてきたらどうだ?」と俺は言った。慣れない姿勢を続けていると首が凝ってしまうじゃないか。

「これは失礼いたしました。ですが、私は消毒済みの床にしか立たないことにしておりますので平にご容赦を」フライナ・フラインヴァルグは、そうは言いつつも、地表50センチくらいのところまで降りてきた。「時に救世主カフィ殿、なぜ小生の邪魔ばかりなさるので?」

「邪魔?何のことだ」

「おとぼけになっては困ります。国王の洗脳を解き、我がしもべ魔導士スネフェルの処刑のきっかけを作ったのはあなたでしょう?」

「どうもそうらしいな」

「それからあなたのせいで小生が愛用していた奴隷商会もつぶれてしまいました」

「そんなつもりはなかったんだがな」

「小生の忠実なるしもべ、バジラ・イグニフェリオスも倒してしまわれたようで、小生が理想とする消毒済みの世界を作るためには、どれも不可欠なものだったのですが……」

「俺たちは旅を続けたいだけだ。そのために身にふりかかる火の粉を振り払ったに過ぎない」

「ほう?」とフライナ・フラインヴァルグは目を細めた。「正当防衛だったと?」


フライナ・フラインヴァルグは宙に飛び上がり、距離を取った。リベリーが前に出てかんざし、ペンダント、指輪を外した。「持っていてたもれ」俺はそれらをアイテムボックスにしまった。リベリーが龍化した。


「邪龍の姿を小生の目にさらすとは汚らわしい。いいでしょう、死なない程度に痛めつけてあげましょう」とフライナ・フラインヴァルグは言ってステッキを構えた。「その前に姫騎士は回収させてもらいます」


フライナ・フラインヴァルグの姿が消え、俺の前に立っていたアラビカの正面に現れた。アラビカのみぞおちに、フライナ・フラインヴァルグのステッキがめり込んだ。

「がはっ」

アラビカはぐったりして、フライナ・フラインヴァルグの腕の中に倒れ込んだ。

「こんにゃろー!」ロブスが爪を振り上げ、フライナ・フラインヴァルグにとびかかったが、障壁で防がれた。

「いいところなのですから邪魔は無粋ですよ」フライナ・フラインヴァルグの手が光を放ち、その手がアラビカの頭を掴んだ。

「消毒のお時間です。セラ・テイム!」


アラビカの体がびくっと跳ねた。アラビカとの、魂が()()()()()()()感覚が急になくなった。


「きさま、何をした!」と俺は叫んだ。

「テイムの上書きですよ。さ、ここに入るのです、姫騎士よ」


フライナ・フラインヴァルグの横に真っ白な棺桶が出現した。そして宙に浮かんだアラビカの体がその中に入り、蓋が閉じ、「ばたん」という音が無慈悲に響いた。


「未使用で消毒済みの棺桶ですからご安心を。どうです、奪われる気分は?」


リベリーが渾身のアイスブレスをフライナ・フラインヴァルグに向けて放った。それをフライナ・フラインヴァルグは、いとも簡単にステッキで跳ねのけた。


「ぬるいですね。攻撃とはこのように行うのです」


フライナ・フラインヴァルグの周囲に無数の黒い渦が生じた。そのステッキが振り下ろされ、黒い渦から光線が俺たちに降り注いだ。


「ルアック、棺桶に当てないように弾き返せるか」

(るーたん やってみる)


ルアックが前に出て、たくさんの鏡防返呪(シュピーゲルヴェンド)を展開した。フライナ・フラインヴァルグの放った黒い光線を吸収し、弾き返した。そのすべてがフライナ・フラインヴァルグに向かって飛んでいった。


しかし。


フライナ・フラインヴァルグはそれらもすべてステッキで弾き返した。


「自分の攻撃くらいは何とでもなりますよ。では次は弾き返せないくらいの強いので行きましょう」


フライナ・フラインヴァルグの頭上に巨大な黒い渦が出現した。その闇が濃度を増していった。


(あれはダメじゃ!いかに森大蛇(フォレストサーペント)鏡防返呪(シュピーゲルヴェンド)といえど、弾き返すことはできまい!)とリベリーが言った。(皆、(わらわ)の影へ!)


俺はロブス、ルアック、魔導コンロ等、その辺にあったものを収納した。アラビカの入った棺桶を見ながら「収納!」と言ったが、棺桶を収納することはできなかった。


俺は俺自身をアイテムボックスにしまい、エネルギー体の状態で、ロブスに移動させてもらい、フライナ・フラインヴァルグの背後に移動した。後ろから手を触れ、テイムしてしまおうとした。闇魔導士バジラ・イグニフェリオスに取ったのと同じ作戦だ。相手の反撃に備え、ルアックを前面に配した。


しかし、フライナ・フラインヴァルグに俺の手は届かなかった。俺は、俺の後ろから出てきた黒い光の剣に背中から刺し貫かれていた。「がっ」と俺の口から血が飛び出した。


「大技を放つ前の隙を狙ったのはよかったですね。でも後ろから攻撃できるのはあなただけではないのですよ、救世主カフィ殿」とフライナ・フラインヴァルグは言った。「それに、小生に触れていいのは消毒済みのかた限定です」


フライナ・フラインヴァルグは右手で頭上の黒い渦を操作し、左手で、黒い光の剣を前に突き出していた。その先には亜空間の小さな穴があり、俺の後ろの亜空間とつながっていた。


俺は地面に落ちた。地面に血が広がった。死の匂いがした。


フライナ・フラインヴァルグの頭上の黒い渦は極限まで濃度を濃くしていた。リベリーが俺の体をその巨体で覆った。


「小生の渾身の一撃、存分に味わってください」


黒渦から、黒い光の柱がほとばしり、リベリーを直撃した。


「がはっ!」とリベリーの龍の口から鮮血が噴き出た。


彼奴(きゃつ)め、龍のウロコすら貫きよった……。次は耐えられんかもしれん。すまんな、カフィ殿)


俺たちの真下の地面は、攻撃の余波で大きく削られ、空洞になっていた。リベリーは飛ぶことができず、ただ落下した。リベリーの尾は千切れ、両翼も千切れかけていた。ウロコの剥がれたその体は、どこもボロボロだった。奥の手を使うしかない。


「収納!」俺は俺もろともリベリーを収納した。

「バジラ・イグニフェリオスの報告にあった通りですね。窮地になるとアイテムボックスに逃げ込むと。……死なない程度に痛めつけるだけのつもりでしたが、いいでしょう、アイテムボックスのある亜空間ごと消滅してもらいましょう。清浄なる消毒済みの世界のために」


そして、白タキシードの男、フライナ・フラインヴァルグはさっきよりも大きな一撃を放った。それはヴィアードヴァルトの森全体を震わすほどの威力だった。その一撃は、俺が俺とリベリーを収納した座標をも飲み込んだ。食らった空間が歪み、千切れ、ねじ曲がるほどの威力だった。

毎日10時、16時に投稿します。

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