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十三杯め 新しいスキルを試しなさい

俺たちは、森の中央にあるゴブリンの集落に来ていた。ロブスと初めて会った場所だ。こっそり新しいスキルの実験をするためだった。


俺は白猪(ホワイトボア)の死体をアイテムボックスから出した。まだ解体していないやつだ。


死屍操作(ネクロマンシア)とテイムを足したようなスキルだと思うんだが」


白猪(ホワイトボア)の死体に手をかざし、「亡骸従属(リーク・スカルコーネ)」と言ってみた。


地面に横たわっていた白猪(ホワイトボア)の体が起きて、後ろ脚で地面をかき始めた。


「おお……」アラビカ、ロブス、リベリーが、声をあげた。

「あの木に突っ込め」と俺は命じた。白猪(ホワイトボア)は広場の脇に生えていた木に突っ込んでいった。木が揺れ、鳥が飛び立った。

「戻ってこい」


白猪(ホワイトボア)が戻ってきた。実験はこんなものでいいだろう。


「収納」


アイテムボックスにしまった。


「予想通りだったけど、なんか微妙だな、このスキル」と俺は言った。「ノーリスクでテイムできるのはいいんだが、俺たちが倒せる魔物、つまり俺たちより弱い魔物しかテイムできないってことだよな」

「ミィたち3人でようやくやっつけられるような魔物なら戦力になるんじゃねぇの?」とロブスが言った。

「そうだな」

「解体済みの魔物はどうなるのでしょうか」解体担当らしく、アラビカが言った。

「ほう、肉をテイムするのか、おもしろい」とリベリーが言った。

「一応実験するか」


きれいに精肉された魔物肉を出して「亡骸従属(リーク・スカルコーネ)」と唱えたが、何も起きなかった。


「肉が走り出したらおもしろかったのによ」とロブスが言った。

「さすがにここまで原型をとどめていないと駄目のようですね」


俺は白猪(ホワイトボア)の死体を出した。さっき亡骸従属(リーク・スカルコーネ)をかけたのとは別のやつだ。


アラビカが剣で皮をはいだ。「亡骸従属(リーク・スカルコーネ)」と唱えると、皮をはいだ白猪(ホワイトボア)が立ち上がった。


「あの木に突っ込め」と命じると、皮のない白猪(ホワイトボア)は広場の脇に生えていた木に突っ込んでいった。それを見て、ロブスはげらげら笑っていた。リベリーは「悪趣味じゃな」と言った。

「マリオネットとして動かせるだけの骨格と筋肉が必要とアラビカは愚考します」とアラビカが言った。


その時。


さっき「亡骸従属(リーク・スカルコーネ)」をかけた精肉から四本の足が生え、地面に立った。


「「「「え?」」」」


俺は試しにその肉に向かって「あの木に突っ込め」と命じた。肉は走り始めたが、足が短いので途中で石につまづいて転んでしまった。肉が走っている様子を見て、ロブスはさっき以上に笑い転げていた。


「起きて走れ」と命じたが、それ以上は動かず、ただの肉に戻ってしまった。

「謎が深まったようじゃな」とリベリーが言った。

「アラビカの仮説もひっくり返されました」とアラビカが言った。

「あー、笑った笑った。腹が痛ぇぜ」とロブスが涙目で言った。「死んでる強そうな魔物を見つけたらまた実験しようぜ」

「それもありだな」と俺は言った。


亡骸従属(リーク・スカルコーネ)の使い道は、


①あまり強くない魔物の死体(食肉)を眷属にする(戦力というよりは陽動程度)

②3人が倒した強い魔物をノーリスクでテイムして戦力にする

③もともと死んでいる強い魔物をテイムして戦力にする


の3つくらいだろう。


肉に足が生えた事例もあったので、もっといろいろ試してみる必要がありそうだ。


俺はいったん、皮をはいだ白猪(ホワイトボア)や、足の生えた肉などをアイテムボックスにしまった。


ロブスとリベリーは食材確保のために狩りに行った。俺とアラビカは近くの河原に行った。アラビカは解体を始めた。以前は、解体中はロブスに見張りをしてもらっていたが、アラビカがパワーアップしたので、その必要もなくなった。


俺はアラビカのためにアイテムボックスから魔物を出すと、お茶を淹れることにした。「栄福亭」で教わったおいしいお茶の淹れ方を自分でも試してみるためだった。


「栄福亭」といえば、俺たちはさんざん飲み食いしたのだが、店主の犬獣人ヴァルガスとその妻の獅子獣人クンディラは「救ってもらったお礼だから」と言って、なかなか代金を受け取ろうとしてくれなかった。仕方がないので、二人がいなくなった隙に、店の獣人たちに金貨一枚ずつチップとして渡してきた。もっとスマートなやり方があったらよかったのだが仕方がない。俺はこの世界で無銭飲食がしたいわけではなく、コーヒーを飲みたいだけなのだ。


そしてもう一つ。「栄福亭」から宿に向かう道で、俺はある技を身につけていた。酔っぱらっていたからこそ身につけた技だと言える。急に俺の姿が見えなくなって、アラビカもロブスもリベリーも、めちゃくちゃ慌てていた。


そんなことを考えながら、魔導コンロにドリップケトルをかけて湯を沸かしていたら、「ご主人さま、伏せて!」という声とともに、アラビカが覆いかぶさってきた。そして──


どごーん、というすさまじい音とともに、俺の座っていたすぐそばの地面の土が真上に吹き飛び、魔導コンロとドリップケトルも土砂といっしょに吹き飛ばされるのが見えた。スローモーションのようだった。


「がはっ!」


俺は地面に叩きつけられた。


「ご主人さま、お怪我は?」


胸を打ったショックで横隔膜が痙攣を起こしていた。俺は地面を這った。その先には──


銀色のドリップケトルがあった。元いた世界から持ってきた唯一の所持品。


そして俺の魂の象徴。


そのドリップケトルの注ぎ口がもげてしまっていた。


「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!」


俺は叫んだ。


ドリップケトルの本体に、取れてしまった注ぎ口を押し当て、アイテムボックスから出したタフラシュ草を押し当てた。擦り傷、切り傷、火傷に効能がある万能薬だ。


俺はドリップケトルをそっと持ち上げた。くっついたか?しかし──


ポロっと、注ぎ口は取れてしまった。


「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!」


ならばヒラミ草だ。タフラシュ草の上位互換で中級ポーションと同等の効果があるこいつなら──


「ご主人さま」といってアラビカが俺の手を止めた。そして悲しそうな顔で首を振った。「そんなことをしても、元のとおりにはならないのです」


「う゛あ゛あ゛あ゛っ、誰だこんなことをしやがったのは!!殺してやる!!」俺は叫んでいた。


そこにロブスとリベリーが戻ってきた。


「でけぇ音がしたから戻ったぜ。……うおっ、カフィ、どうした?!」

「カフィ殿のそんな形相は初めてじゃ」


そこに第二撃が来た。砲弾のように放物線を描いて飛ぶ、黒い光線だった。


リベリーが着物の袖で払いのけた。軌道をそらされた黒い光線は、森の中に突っ込み、木々を弾き飛ばした。


「ほう、龍のウロコか」


声とともに現れたのは、闇魔導士バジラ・イグニフェリオスだった。


「ふぉっふぉっふぉっ。近くを通った時におかしな気配を感じての。こっそり近づいてみれば、我が弟スネフェルの仇、冒険者カフィではないか」


俺の前にアラビカ、ロブス、リベリーが並んだ。


バジラ・イグニフェリオスはそれを見て「(メス)ばかりはべらせおって。助兵衛な奴じゃ」と言った。

「ご主人さまは助兵衛などではありません!」

「そうだぜ、こーひーばかり追いまわしてる変態だ」

「妾の尻も追いかけてほしいのじゃ」


ロブスとリベリーには後で説教をしよう。しかし今はそれどころではない!


「貴様っ!」と俺はバジラ・イグニフェリオスに怒鳴った。「俺の大切なものを踏みにじりやがって、殺してやる!」

「それはこっちのセリフじゃわい。……ん?儂が姫騎士に付与した呪いが消えておるな。どうやった?」

「貴様と話す口は持たん!」

「そういえば我が弟スネフェルから洗脳のスキルを奪ったのもお前じゃったな、助兵衛テイマー」

「勝手に変な二つ名を付けるな!行け、ロブス!焙煎(ロースト)してやれ!」

「あいよ!ミィの爪を食らうがいい!」


ロブスは炎をまとった爪を伸ばし、バジラ・イグニフェリオスに切りかかった。バジラ・イグニフェリオスはすかさず防御壁を展開したが、ロブスはそれらを切り裂いていった。


「ふん、毒耐性を身につけおったか、こしゃくなやつめ」


ロブスがいくら切り裂こうとも、バジラ・イグニフェリオスは何枚でも防御壁を展開した。息を整えるため、ロブスがいったん距離を置いた時、バジラ・イグニフェリオスは俺に向かって黒い光線を放った。


「それは効かぬとさっきわかったじゃろう」リベリーが光線を跳ね飛ばした。

「アラビカ、細挽きにしてやれ!」と俺は言った。

「はあぁぁぁぁッ!」アラビカが両手に剣を持ち、切りかかった。バジラ・イグニフェリオスは杖で防戦一方だった。「今です、ご主人さま」


俺はバジラ・イグニフェリオスに意識を集中し、「テイム!」と唱えた。「止まれ!」しかし、バジラ・イグニフェリオスの動きは止まることがなかった。


「テイマー対策をしていないとでも思ったか」とバジラ・イグニフェリオスは言って、アラビカに蹴りを食らわせた。アラビカは後ろに跳んで蹴りをよけた。

「奴が首から提げている紋章入りのペンダント、あれは精神干渉魔法への防護じゃな」とリベリーが言った。「あれを破壊せんことにはテイムは効かんぞ」

「やっぱ強ぇな、あのジジイ。パワーアップしたミィたちでも傷が付けられねぇ」


バジラ・イグニフェリオスが詠唱を始めた。それを聞いたアラビカが顔色を変えた。「あれは呪いの詠唱です。あの魔法を食らうとゴブリンにされてしまいます」


「いったん撤収だ!」俺は叫んだ。ちくしょう、ドリップケトルの仇を取ることができなかった。俺はアラビカ、ロブス、ドリップケトル、魔導コンロをアイテムボックスにしまった。


リベリーが指先に魔力を集中させ、指先からブレスを放出した。進化して得た、氷瀑魔法のブレスだ。


前回、バジラ・イグニフェリオスを氷漬けにして、逃走する時間を稼いでくれた魔法よりも、格段に威力は上のはずだった。


しかし。


ブレスの猛吹雪の中を、バジラ・イグニフェリオスは平然と歩いてきた。


「これも対策済みじゃ。同じ手で二度も逃がすか。儂をなめてもらっては困る」


リベリーは、さらに激しく氷瀑魔法のブレスを放出したが、バジラ・イグニフェリオスの杖が光り──


小鬼呪化ゴブル・ハムル・ガルドル!」と闇魔導士が叫ぶと杖から光が迸り、


光を浴びたリベリーはゴブリンにされてしまった。


「!」


こうなったら奥の手を使って逃げるしかない。


俺は「転移!」と叫んだ。俺とゴブリン化したリベリーが宙に消えた。そういう風にバジラ・イグニフェリオスには見えたはずだ。


これにはさすがのバジラ・イグニフェリオスも驚いたのだろう。「一人で魔法陣もなしに転移魔法だと?ありえん」


バジラ・イグニフェリオスは必死に意識を集中し、俺たちの気配を追ったが、見つけることはできなかった。


風魔法を使ってふわりと浮き上がると、そのままものすごいスピードで去っていった。


(……)

(……)

(……)

(……行ったようですね)

(……気配が消えたぜ)

(……もう大丈夫じゃ)

(……おい、カフィ、もういいぞ)

(……ぐぅ)

(……やべぇ、こいつ寝てるぞ)

((ええーっ!))


何が起きていたのかと言うと──


俺は「転移!」と言いながら、ゴブリン化したリベリーと()()()()をアイテムボックスに収納したのだった。


ステータス画面を開け、アイテムボックスのアイコンに自分の鼻を付けることによって。


これこそ「栄福亭」の帰り道に酔った勢いで発見した裏技だった。


この技の問題点は、アイテムボックスの中に入ると、感覚がなくなり、意識を持っていかれるということである。


つまり、猛烈に眠くなるのだ。


アイテムボックス内でエネルギー体になった俺を、やはりエネルギー体になったロブスが、猫パンチ(進化前は炎虎(バーニンタイガー)だったので虎パンチというべきか)で往復ビンタし、俺は「はっ」と目覚め、アイテムボックスから手だけ出してアラビカ、ロブス、ゴブリン化したリベリーを出し、最後に自分をタップして自分を出したのだった。


「じゃ、リベリーを元に戻すぞ」と俺が言ったら、(待ってたもれ)と言って、ゴブリン化したリベリーは、黒瑪瑙ブラックオニキスのペンダントと指輪、ルビーのかんざしを外して俺に渡した。(永遠の契りの約束に、せっかくカフィ殿がくださった贈り物じゃ。なくすわけにはいかんから、()()()()()()()()とやらに入れておいてたもれ)


何か気になることを言ったような気がするが、気にしないでおこう。


俺は眷属欄のリベリーの[状態異常:呪い]をゴミ箱に捨てた。リベリーはゴブリンではなくなったが、龍種ではなく、青飛竜(ブルーワイバーン)に戻ってしまった。


「大幅な戦力ダウンだ。どうなってるんだ」

(妾にもわからんのじゃ)


またしてもバジラ・イグニフェリオスに負けてしまった。


アラビカ、ロブスにアイテムボックスに入ってもらった。青飛竜(ブルーワイバーン)に戻ったリベリーに乗って、アジトにしている洞窟に向かった。


また作戦を練らなければならない。


(残念じゃ)とリベリーが言った。(せっかくカフィ殿とまぐわえる形に進化できたのに、またやり直しじゃ)


念話でいかがわしいことを言っている奴がいるが気にしないでおこう。


俺の大切なドリップケトルちゃんをあんな目に遭わせやがって、絶対に許さない!


夕日に向かって飛びながら、俺は再戦を誓うのだった。


* * * * *


その頃、鍛治の街グリドガルドの「栄福亭」では。


「まったく救世主様にも困ったものだ」

「ええ、お金だけ置いて去っていかれるとは」


店主ヴァルガスとその妻クンディラの前に、獣人たちが並んでいた。みんな手に金貨一枚を持っていた。


「その金はお前たちが好きに使っていいぞ」とヴァルガスが言った。「ただし、救世主様がくれたありがたい金だ。つまらないことに使うなよ」

「そのことなんだけどさ」と猫獣人が言った。「みんなと相談したんだ。あたいたち、この金を元手にして孤児院を始めたいんだ」


横にいた獣人たちがうんうんとうなずいた。


「あたいたちも孤児だ。学がないから、旦那と奥さんが拾ってくれるまでロクな職に付けなかった。あたいたちは孤児院を開いて、あたいたちみたいな孤児を集めて、いろいろ教えて、社会に送り出してやりたいんだよ」

「それはいい考えだな。救世主様もお喜びになるだろう」

「私たちも応援するよ。なに、店のことは心配しなさんな。そうだ、服屋のカルマイアに相談したらどうだろうか、ヴァルガス」

「おお、あの人なら貴族にも顔が利くしな。冒険者ギルドのギルドマスター、ゴルデラスにも声をかけよう。力になってくれるだろう」


こうして、獣人種、エルフ種、ドワーフ種、ヒト族が手を取り合って孤児院事業を始め、それが全土に広がっていくこととなった。識字率は上がり、孤児たちが不当に搾取されることもなくなった。種族を問わず、いっしょに育った孤児たちは各界で活躍した。それまで異種族どうしで対立することも多かったのだが、孤児院出身者が人的なコネクションとなり、種族間の垣根を超えた共同事業が可能となり、王国はますます豊かに、人々は幸せになった。こうして、獣人たちが始めた孤児院事業は、後に「グリドガルドの奇跡」と呼ばれた。


冒険者カフィは、このことを知らない。

毎日10時、16時に投稿します。

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