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十二杯め 服を着なさい

俺は「人化」したリベリーを連れて、「鍛治の街グリドガルド」の冒険者ギルドに行った。魔物とバレないように、リベリーは気配を消している。


「人の街を歩くのは初めてじゃ」リベリーはワクワクとした表情で、店で売っている物を眺めたり、街を歩く人々の様子を観察したりした。「高い空の上から見たことはあったが、このようになっておるとはの」

「一応、俺たちは命を狙われている身だ」と俺は言った。「あまりはしゃぐのはどうかと思うぞ」

「それはそれ、これはこれじゃ。カフィ殿だって、命を狙われているこの状況で、アラビカとロブスに服を買ってやっているではないか。余裕があるのお」

「あれは、次の戦闘に備えての準備じゃないか」

「あられもない姿の方が戦意が高まっていいのではないか、カフィ殿」

「気が散るだけだ」

「若いのお」


などと話しているうちに冒険者ギルドに到着した。


冒険者ギルドの受付でタフラシュ草二千束とヒラミ草二十束を買い取ってもらった。森の中を歩いている時、アラビカが「手が勝手に抜いてくる」とか言って、溜め込んでいた分だ。これだけ買い取ってもらっても、アイテムボックスの中にはまだたくさんの在庫があった。


タフラシュ草十束で銀貨一枚なので、銀貨二百枚(二百万円)、ヒラミ草は一束金貨一枚なので金貨二十枚(二百万円)、合計四百万円分の買い取りになった。


これだけあれば、買い出しや服の支払いには足りるだろう。


俺たちはギルドを出て雑貨屋に行った。塩、スパイス、火の魔石、水の魔石など、どれも大量に必要だ。


リベリーが「カフィ殿、これもいいかの?」と言って唐辛子の粉末を指さした。

「いいけどめちゃくちゃ辛いぞ」

「いい匂いがするのじゃ」

「なら買うか」


唐辛子の粉末も多めに買った。


市場に行き、肉、野菜などを大量に買った。屋台が並んでいたので、串焼きや肉料理を買い占めた。


リベリーはアクセサリーを並べた露店の前でしゃがみこんだ。


「きれいじゃの……」

「欲しかったら買ってやるぞ」

「いいのかえ?じゃあ、これとこれとこれ」


リベリーが指さしたのは、黒瑪瑙ブラックオニキスのペンダントと指輪、ルビーのかんざしだった。俺は金を払い、リベリーにペンダント、指輪、かんざしを渡した。リベリーはさっそくそれらを身につけた。陽光で指輪が光っていた。

「きれいじゃのお」リベリーは頬を染めていた。「とてもうれしいのじゃ」

「龍の姿になる時はどうするんだ」と俺は聞いた。

「その前に外すからカフィ殿が持っておいてたもれ」

「さすがに指輪やペンダントがウロコの一部になるわけじゃないのか」

「それはムリじゃ」


俺たちは買い物を終えて、「カルマイア婦人服店」に向かった。


「お待ちしておりました!」


店に入ると店主のカルマイアに出迎えられた。エルフ族の女性だ。


「今しがた、着付けが済んだところです。ささ、こちらへ」


カルマイアがドアを開けた。アラビカとロブスがお茶を飲んでいた。


「ご主人さま!」


アラビカが立ち上がった。その姿は──


まさに「姫騎士」だった。美しい金髪、青い目。首と肩を強調した、白と青のドレス。腰には剣を提げるための革ベルトを締めていた。足元は短靴だった。


「美しいな」と俺は言った。

「ああ!うれしい、ご主人さま!」とアラビカが言った。「そうでしょう!」とカルマイアが言った。

「しかし、これで戦えるのか?」と俺は言った。

「心配はご無用です」とカルマイアが言った。「このドレスは迷宮蜘蛛の糸で編まれており、強化魔法が付与されております。強度はミスリルの鎧と同等です」

「……すごいな」支払いが心配になってきた。

「ミィも着たぞ!」と言ってロブスが立ち上がった。「メシを食わせてくれよ!」


ロブスは虎柄のビキニの上に、袖なしの丈の短い上着を着て、腰に短いスカートを巻いていた。ブーツも虎柄だった。

「素材は同じものを使っております」

「露出が多いな」と俺は言った。

「下着だけで良いとおっしゃったのですが、何とかここまで着ていただきました」とカルマイアが言った。その顔に疲れが見えた。

「苦労をかけたようだな」と俺は言った。

「はい、たいへんでした」


リベリーがアラビカの服の生地を触ったり、ロブスのスカートをめくったりしていた。


「いくらだ?」と俺は言った。金額次第では、冒険者ギルドに行ってまた薬草を売ってこなくてはならない。

「金貨二十枚でございます」とカルマイアが言った。二百万円か。それなら手持ちの金で足りる。服代としては高いが……。

「俺には服の相場はわからないが、伝説級の素材を使っているにしては安くないか?」

「はい、ほぼ材料費のみの金額となっております」とカルマイアは言った。

「それじゃ赤字だろ」と俺は言った。「金貨三十枚くらいなら払えるぞ」

「まあ、お噂どおり欲のない方。割引分は、救世主カフィ様に助けていただいたお礼と思っていただければ」

「俺は助けてなどいない」

「謙虚さも度を越すと嫌味ですよ。……ではこういたしましょう。またこの街にお越しの際は、ぜひご利用いただくということで」

「わかった」


俺は金貨二十枚を支払った。

「メシはまだか!」とロブスが叫んだ。

「はしたないですよ、ロブス」とアラビカが言ったが、唾液を飲み込む音が聞こえた。

「食事を取りたいんだが、いい店を知らないか」と俺は言った。


カルマイアは「それでしたら栄福亭(えいふくてい)がよろしいでしょう」と言って、便せんにさらさらと文字を書いて封筒にしまい、俺に渡した。「紹介状がないと入れませんので」


カルマイア洋服店のメイドが「栄福亭」まで案内してくれた。立派な店構えだった。メイドがドアを開けてくれた。中に入り、黒服の男に紹介状を渡した。黒服の男は案内状に目を通すと、一瞬はっと目を見開き俺を見た。しかしすぐに気を取り直し、「どうぞこちらに」と言って、俺たちを店の奥の個室に案内した。


部屋で待っていると、立派な身なりの犬獣人の男が入ってきた。

「私はこの店のオーナーシェフのヴァルガスです」と言って、うやうやしく、俺の前で膝を折った。「救世主カフィ様には、ほんとうに何とお礼を申し上げてよいのやら」

またか。

「俺は何もしていない。頭を上げてくれ」

「あなた様のおかげで、私も、この店の従業員も救われたのです。人さらいに遭い、すんでのところで奴隷として売られるところでした。今日はこころゆくまで当店の料理をご堪能ください」

そう言って、犬獣人のヴァルガスは部屋を辞した。


カルマイアは、わざとこの店を選んだのだろう。


と、思っていたら、酒瓶を持った獣人たちがぞろぞろと部屋に入ってきた。獅子、猫、犬、馬、ウサギ、牛、鹿、リス、トカゲなど、いろいろな獣人がいた。

「救世主様!」

「どうぞお飲みください」


獣人たちは俺の周りに群がった。


アラビカが鋭い目つきで獣人たちをにらんだ。

ロブスは「メシ!メシ!」と言いながらフォークとナイフを両手で握っていた。

リベリーは獣人に注いでもらった酒を飲みほしていた。


俺もグラスに注がれた酒を飲んでみた。


「ふむ、うまいな」


ブランデーに似た味だが、さらに味が濃厚で、鼻に抜けるような香りがあった。


「さすが、救世主様、味がわかるね。最上級の火酒(フィレッセンク)だよ」

「次はうちがお注ぎするにゃ!」

「次はあたいだよ」


獣人たちの耳が俺の鼻先をこすってくすぐったい。


「アラビカの前でご主人さまになれなれしくするとはいい度胸です」アラビカが剣の柄に手をかけた。

「おいおい」もめごとは勘弁してほしい。


その時、「お前たち、救世主様の前で何ですか、礼儀をわきまえなさい」ぴしゃりと釘を差したのは、先頭に入ってきた獅子の獣人だった。

獣人たちは「はーい」と言って首をすくめた。

「失礼いたしました、救世主様。この者らは皆、救世主様に命を救われた子らなのです。私はヴァルガスが妻、クンディラと申します」獅子の獣人クンディラは、胸に手を当てひざまずいた。今まで騒いでいた獣人たちも同じ姿勢を取った。


「救世主様、我ら一同の命と人生をお救いいただき、誠にありがとうございました。我ら一同、日となり陰となり、救世主様のためにお仕えする所存です。どうか我らの感謝をお受け取りください」


クンディラも、他の獣人たちも、頭を下げ、身じろぎ一つしなかった。


「わかった。頭を上げてくれ」と俺は言った。どう収拾を付けていいかわからないが、まずは事情を聞こうと思った。「クンディラさん、何があったか教えてほしい」


俺はその後、クンディラから話を聞き、ようやくこの街で感謝される理由を知った。あの時のならず者が誘拐団の一味だったとは。あの時は降りかかってきた火の粉を払っただけで、やはり俺が感謝される謂れはないような気がした。ただ、盛り上がってる皆さんにこれ以上水を差す気もない。


豪勢な料理が次から次へと運び込まれていた。アラビカもロブスもリベリーも、ものすごい勢いで料理を平らげていた。体が輝いていた。


「うほー、パワーがみなぎってくるぜ!」とロブスが言った。虎ビキニの上に短い上着を着ているので、ぽんぽんに膨らんだお腹が丸見えだ。「俺たちばっかりパワーアップしてるけど、カフィもがんばれよ」

「これ、ロブス、ご主人さまに何ということを言うのですか」肉をナイフとフォークで上品に、且つすさまじいスピードで食べているアラビカが言った。

「ロブスの言うことももっともじゃ。カフィ殿にはパワーアップしてもらい、妾にエキスを注いでほしいのじゃ」


少し危ないことを言っている奴が一人いるが気にしないでおこう。


「俺はコーヒーを淹れるスキルさえあがれば、それでいいんだ」


俺がそう言った時、「カフィ殿、体が光っておるぞ」とリベリーが言った。


「ほんとだ」俺の両手が光っていた。ステータス画面を開いた。アラビカ、ロブス、リベリーが俺の後ろから覗き込んだ。


属性欄に「スキル:亡骸従属(リーク・スカルコーネ)」が追加されていた。タップしてみると、


「民衆からの感謝が一定レベルを超え、魂の高潔度が高まったため、追加されたスキル。魔物等の死体をノーリスクでテイムすることができる」


と書かれていた。


感謝されるような行いへのご褒美というところだろうか。それにしては闇っぽいスキルだ。


「さあさあ、どんどん食べて飲んでくださいね」と言って、クンディラが皿を運んできた。


俺はステータス画面を閉じた。


アラビカ、ロブス、リベリーは新しい料理に飛びついた。


俺はおいしい茶の淹れ方を教えてもらったりした。


こうして「栄福亭」の夜が更けていった。

毎日10時、16時に投稿します。

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