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十一杯め 進化しなさい

ひたすらに肉を食っていた炎虎(バーニンタイガー)のロブスの体が白く輝き始めた。


アラビカとリベリーは肉を食うのをやめ、ちらっとロブスを見た。そしてまた「がっがっが」と肉を食べ始めた。


ロブスの体は完全に光に包まれ、一度、ぎゅっと球体の形に縮まった。そして光が弾け──


そこに立っていたのは、虎耳、虎尻尾の獣人女性だった。


「よっしゃ、進化したぜ!」


発する声は、もはや念話ではなかった。しかし気にすべきはそこではなかった。


手先や足先は虎毛で覆われていたが、デリケートな部分には毛がなかった。


「なんだよカフィ、ミィの体をじろじろ見やがって。……ははあ、さてはミィに発情したか?」


そう言ってロブスはセクシーポーズを取った。


「やめろ。前を隠せ」

「えー、その態度、気に食わねぇな。うれしいくせに。ほれ、うりうりー」


肘で俺の胸をぐりぐりしてきた。


「収納」


俺はロブスを収納した。


(おーい、いきなりしまうなよ。まだメシの途中なんだよ)


アイテムボックスの中から念話を飛ばしてきた。アイテムボックスの中から念話してくるのがすっかりデフォルトになってしまった。


まあいい。


通話終了。


俺はステータス画面を開いた。


ロブス:

炎虎(バーニンタイガー)から進化した獣人種の雌。高潔なる魂の持ち主。攻撃力が高い。爪を使った近接戦闘や奇襲攻撃を得意とする。親を冒険者に殺されたため、人間を憎んでいる。獣人種となり、身体能力、魔力が向上した。(趣味:笑うこと)[スキル:爆炎魔法、身体強化、気配操作、毒無効][状態異常:テイムト]


火魔法が爆炎魔法になり、身体強化、毒無効が追加された。気配察知が気配操作に変わった。「気配操作」をタップしたら、「気配察知の上位互換。気配察知能力が向上。自分の気配を消すことができる」と説明が出てきた。


いいじゃないか。


と、思っていたら、今度はアラビカの体が白く輝いた。


体が大きくなり、人間の成人女性になった。……さっき人間になるのを見たばっかりだからそんなに感動しないな。


と思ったが。


膝丈だった服が超ミニスカートになってしまっていた。革の鎧もパツパツだった。


「ご主人さま!」と言って抱き着いてきた。「アラビカも成長しました!」


抱きつかれた時の絵面が、よろしくない気がする。


「収納」


猥褻物はしまってしまうに限る。


(ご主人さま、ひどいです。もっと私を見てください!)


通話終了。


ステータス画面を見てみた。


アラビカ:

・ハイゴブリンから進化したゴブリンクイーンにして人間。高潔なる魂の持ち主。アルバフォリア王国の王女。現国王シェセル5世の妹。兄を補佐するため、姫騎士として育てられた。闇魔導士バジラ・イグニフェリオスの呪いによりゴブリンに姿を変えられていたが、イグニフェリオスと再会したことで記憶を取り戻した。イグニフェリオスの呪いがなくなり、人間に戻った。ゴブリンクイーンとなり、身体能力、魔力が向上した。「趣味:剣術の鍛錬、ご主人さまの命令に従うこと」[スキル:聖騎士魔法、身体強化、狩猟魔法、気配操作、念話、毒耐性][状態異常:テイムト]


さっき人間に戻ったばかりで、大きな変化はないようだが、全般的に能力が向上したらしい。毒耐性と気配操作が増えた。


(次は妾の番じゃな。あまり期待するでないぞ)


俺はリベリーのためにせっせと肉を焼き続けた。


(次は口直しに首切り兎(ギロチンバニー)がいいの……むぐむぐ……もう一度白猪(ホワイトボア)じゃ……もぐもぐ……赤角鹿(レッドホーンディア)はまだあるかの?……)


リベリーは体がでかいだけあって、食う量がハンパではない。在庫が足りるだろうか、と心配になってきた時──


リベリーの体が輝き始めた。


(カフィ殿、見ないでたもれ)


というので、俺は後ろを向いた。


(はあぁぁーん)という艶めかしい声が聞こえた。


背後で白い光が、光ったり消えたりしていた。


どれだけの時間が経っただろうか。


「もうええぞ」という、念話ではない声に振り向いてみると、


そこには青い着物を着た、黒髪で目が金色の妖艶美女が立っていた。


「妾も、一糸まとわぬ姿でおぬしの前に立とうかと思っていたのじゃが、龍種ともなると、そんなはしたない真似もできんじゃろ?」

「服までできるとは、どういう仕組みなんだ」

「これはウロコじゃ。カフィ殿がどうしてもというなら脱ぐこともできるぞ」

「やめろ!」

「この姿でも防御力はそのままじゃ。老魔導士の攻撃さえ、防いでみせようぞ」


俺はステータス画面を開いた。


リベリー:

青飛竜(ブルーワイバーン)から進化した龍種の雌。高潔なる魂の持ち主。竜族の姫。龍種となり、防御力、身体能力、魔力が向上した。「趣味:なぞかけ」[スキル:ブレス、氷瀑魔法、飛翔、毒耐性、念話、気配操作、人化、ウロコの服][状態異常:テイムト]


氷魔法が氷瀑魔法に進化した。ブレスと人化がスキルに追加されていた。気配察知が気配操作に変わった。


「みんな、すごいな」

「くくく、すぐにでもあやつを返り討ちにしに行くかの?」

「いや」と俺は言った。「まずは買い出しだ」

「買い出しじゃと?」

「調味料がもうなくなった。肉も残りわずかだ。それに服を買わなくては」

「アラビカとロブスの格好か?あのままでええじゃろ。老魔導士を悩殺できるかもしれんぞ」


わーい、ムチムチ美女だー、ってか。そんなエロジジイは昭和マンガにしか存在しない。


「よくない。目のやり場に困る」

「くくく、うぶじゃのう、カフィ殿は」

「街へ連れていってくれ」

「あいわかった」


俺は残っていた肉をすべて焼いた。リベリーは人の姿でお上品にたいらげた。


(あ、またリベリーばかり、ずるいです)

(そうだぞ、ミィたちにも食わせろ!)


アイテムボックスの中から念話が飛んできた。


「街についたらいくらでも食わせてやるから」

(ほんとですね、ご主人さま!)

(その言葉、忘れんなよ!)


俺は魔導コンロをアイテムボックスにしまった。


俺とリベリーは洞窟の外に出た。


「ちと離れておれ」


そういうとリベリーは龍の姿になった。青飛竜(ブルーワイバーン)だった時は翼の生えた恐竜のような姿だったが、龍種となった今、その姿は、まさに(ドラゴン)と呼ぶにふさわしい、気高くも恐ろしいものとなっていた。


(乗るがいい、カフィ殿)


俺が背中に乗ると、リベリーは翼を広げ、一回の羽ばたきで空高くに舞い上がった。


「念のため、バジラ・イグニフェリオスと戦った森は迂回してくれ」

(慎重じゃな、カフィ殿は)

「奴とは万全の状態で戦いたい」

(見つからんように飛んでやるのじゃ。低空飛行がよかろう)

「そうしてくれ。体力はだいじょうぶか?」

(くっくっく、カフィ殿。満タンじゃ)


リベリーは一度、翼をはばたかせた。すさまじい風圧で、森の木々がたわみ、葉が散った。


リベリーは飛び続けた。青飛竜(ブルーワイバーン)だった頃よりも明らかに飛ぶスピードが速かった。その上、静寂性、安定性が増していた。ドリップの練習をしようと道具をアイテムボックスから出していたら、


(あれじゃな)とリベリーが言った。


え?


目をこらすと、遠くに街の外壁が見えた。


「鍛冶の街グリドガルド」だった。


「もう着いたのか」


俺はドリップの道具をアイテムボックスにしまった。


リベリーは森が切れた平原に着陸した。


(ここからは徒歩がよかろう)

「そうしよう。助かった、リベリー」

(お安い御用じゃ)

「街中で護衛を頼むかもしれない。人の姿になっておいてくれ」


 龍の体が光に包まれ、着物を着た人の形となった。


「収納」


俺はリベリーをアイテムボックスにしまい、外壁に向かって歩き始めた。


外壁の門を通る時、ひと騒動があった。


俺がギルドカードを見せると、門番が「冒険者カフィ……?救世主様か!少々お待ちを!」と言って、走っていってしまった。


門は開けっぱなしだった。このまま街に入ってもいいが、面倒ごとはきらいだ。待てというなら待たせてもらおう。


戻ってきた時、門番はドワーフの男を連れてきていた。


「儂は鍛冶の街、グリドガルドの冒険者ギルドのギルドマスター、高き(いただき)のゴルデラスと申す者じゃ」と言って、ドワーフの男が頭を下げた。「救世主カフィ様のおかげで、人さらい組織を一掃することができましたこと、まずは御礼申し上げる」


「人さらい組織?なんのことだ」

「お噂どおりの方じゃな。ご自身の善行はひた隠しに隠されるとか」

「何を言っているんだ。……それで、ギルドマスターが俺に何の用だ」

「おお、そうじゃった。王城よりお達しがあったのじゃ」と言ってゴルデラスは懐から書状を出して広げた。「救世主カフィー様が街に訪れた時には、丁重におもてなしをするように。しかし、カフィ様がそれを望まない時にはその限りにあらず。行動の自由を保証し、干渉しないように」

「もてなしなど不要だ。俺は救世主などではない」


干渉しないでいてくれるなら、それに越したことはない。老魔導士バジラ・イグニフェリオスなどという邪魔が入ったが、俺はコーヒーを飲みたいだけなのだ。


王さまは、俺を追いかけるのを諦めてくれた、ということか。


そういえば、王さまってアラビカの兄貴なのか。


一度、アラビカを連れて王城に戻った方がいいのだろうか。


「では、行動の自由を保証いたしますぞ」とゴルデラスが言った。「ようこそ、鍛冶の街、グリドガルドへ」


俺とゴルデラスは門をくぐった。


「お困りのことがあれば、なんでもこのゴルデラスにお申し付けを」

「俺はこの街で買い物をしたいだけだ。そうだ、いい服屋があれば紹介してくれ」

「紳士服ですな?」

「いや、婦人服だ」

「婦人服……」


ゴルデラスは俺の顔をまじまじと見た。


「俺が着るわけではないぞ。……女性にプレゼントするんだ」

(それって、アラビカの服でしょうか。ご主人さま、アラビカはうれしいです!)

(服って何だ?食えるのか?)

(くっくっく、えっちぃ服にしたらどうじゃ?)


アイテムボックスの中から声がした。しょうもないことを言っている奴が一人いるが気にしないでおこう。


「これは失礼した。それでしたら……」とゴルデラスは店に案内してくれた。「カルマイア婦人服店」という看板が出ていた。

「ここまででいい。世話になった」


婦人服店の店主はエルフ族だった。ゴルデラスは、婦人服店の店主に耳打ちをしていた。店主が驚いた顔をしていた。


「くれぐれも失礼のないようにな。では救世主カフィ様、これにて」と言って、ゴルデラスは去っていった。


「救世主カフィ様でいらっしゃいますか」と店主が言った。「実は、私はこのとおりエルフ族でして、人さらい組織にさらわれていたのです。これからは奴隷として生きていくしかないと、夢も希望も失っておりましたのに、カフィ様のおかげで再び自由の身となることができました。この度のことは、何とお礼を申してよいのやら」

「俺は何もしていない」

「噂にたがわず謙虚なお方です。……このカルマイア、誠心誠意、お役に立ちましょう。どんなお召し物をお探しでしょうか」

「こいつに似合う服を見つけてくれ」と言って、俺はアラビカをアイテムボックスから出した。「戦いやすい、丈夫な服がいい」


そう言ってから、俺は店のチョイスを間違えたかも、と思った。この店は、貴族が買い物に来そうな、見るからに高級店だ。まあいい。普通の服があってもいいだろう。あとで武具店に行けばいいだけのことだ。


「ようやく出してくださったのですね、ご主人さま」


アラビカはぷんぷんしていた。突然大きくなり、あられもない姿だったのでアイテムボックスにすぐしまったから、こうして、大人になった顔をよく見るのは初めてのことだった。俺が見慣れていた、ハイゴブリンだった頃の面影があった。あのまま成長したらこうなるんだろう、という顔だ。


「……そんなに見つめないでください、ご主人さま。アラビカは照れてしまうのです」


突然、目の前に現れたアラビカを見て、店主のカルマイアは目を丸くしていた。


それはそうだろう。見慣れていなければアイテムボックスなんて手品みたいなものだ。それに、ぴちぴちのぱつぱつだ。そして体は汚れていた。服を買うなら水浴びくらいさせてからくればよかった。


「何と美しい肌」


カルマイアは、しかし、アイテムボックスに驚いていたわけでもなく、アラビカのかわいそうな格好をあわれんでいたのでもなかった。


「そして豊かに波打つ見事なブロンド。秋の空のような青い目……」カルマイアは頬を上気させ、アラビカを上から下まで舐めるように見た。

「え、えっと……」アラビカも困っていた。

「まず湯浴みをしましょう。さあさ、こちらに!」


湯浴みだと?

かなり時間がかかりそうだ。


俺はロブスもアイテムボックスから出した。


「ようやく出られたぜ」ロブスは伸びをした。すっ裸だ。

「あらあら」と言ってカルマイアはロブスにローブをかけた。

「こいつにも服を見繕ってくれ」

「えー、ミィは服なんて着ねぇぞ」

「服を着ない奴には飯を食わせない」

「ええっ!」

「服を着る奴にはうまいメシを食わせる」

「おお!服着る!」

「俺は買い物してくる」

「では、アラビカがご主人さまの護衛を」

「リベリーに頼むから、お前はここで服を見てもらえ」

「ご主人さま!アラビカを置いていくのですか」

「すぐに戻ってくるよ。二人とも、カルマイアさんの言うことをよく聞くんだぞ。気配も消しておけよ」


カルマイアは手を叩いてメイドを呼んだ。メイドたちがアラビカとロブスの手を引いて奥の部屋に入っていった。


「ご主人さまー!」


アラビカは身をよじって俺を見た。俺は手を振った。


俺は一人、婦人服店の売り場に残された。


買い物に行こう。

毎日10時、16時に投稿します。

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