神様の加護を貰えるはずが、貰ったのは『神の籠』でした
私は死んだ。
高速道路での事故だった。
私は安全運転していたつもりだったが、向こうが突っ込んできたらどうしようもない。
何を思う暇もなく、意識が暗転した。
そして……。
「抽選で選ばれた幸運な魂よ。そなたに神の加護を授けましょう」
なんか気づいたら神様の前にいた。
ここは天国だろうか。
地獄じゃなさそうなのはホッとしたけど、状況が掴めない。
それに抽選とは?
寿命が残ってたのに神様のミスで早死にしてしまって、そのお詫びに……とかいう話をどこかで読んだ記憶はあるが。
「ちなみにそなたの死亡事由に関して我々には一切責任がありません。完全に人間同士の事故です」
「あ、そうなんですね」
「神の加護は信者に対して平等に与えられます。信者でない魂には抽選で配られます。そなたは信者以外の抽選枠で選ばれました」
「それはどうもありがとうございます」
「そなたに適した籠を与えましょう。神への感謝を忘れぬように。これを機に入信することをお勧めします」
「はあ、考えておきます」
「ではそなたの転生後の人生に幸多からんことを……」
お祈りメールみたいなことを言われて、私は新たな人生へと送り出された。
端的に言えば、異世界に転生したのである。
新たな両親のもとに生まれ、そして知った。
信者用の加護と抽選枠の加護との違いを。
ハッキリ言えば、私がもらった加護は異質だった。
「籠だわ」
「籠だ」
「籠ですね」
分娩直後、母と父と助産師が異口同音にコメントした。
まだへその緒がついている私の手がしっかりと握っている物を見て。
それはどう見てもピクニックバスケットだった。
私は『神の籠』を持って生まれてきたのである。
……なんだそりゃ。
この世界、ほとんど全ての人々が神様から加護を与えられている。
それは魔法だったり、身体強化だったり、毒への耐性だったりと、目に見えない形での異能として現れる。
私みたいに生まれた時から手にピクニックバスケットを持っているなんて、例外中の例外である。
幸か不幸か、このバスケット、私にとっては実体だが、私以外の人にとっては目には見えるけど手では触れない非実体だった。
「……そこにあるように見えても、幻のようなものなのね」
「実害はなさそうだな」
赤ん坊である私が手を振り回すと、バスケットもブンブン振り回されるが、非実体なので父と母にはスカスカ素通りして痛くもかゆくもない。
着替えや抱っこの邪魔にもならないのだが、他人の好奇の視線を集めてしまうのが問題と言える。
「……偽装するか」
「それがいいわね」
両親はそれまで営んでいた稼業を畳み、田舎に引っ込むことにした。
父は籠作りの職人になり、母は父が作る籠を販売する店の経営を始めた。
こうすれば家中に大小さまざまな籠が溢れているわけで、私が籠を手放せなくても違和感は少ない。
父親手作りの籠型玩具がお気に入りで常に持ち歩いている娘……そんな微笑ましい姿に見せかけて、私はすくすくと成長した。
私、十二歳、健康な美少女。
二つ年下の弟、四つ年下の妹がいる。
弟と妹に与えられた加護はこの世界の常識の範囲内で、父と母が胸をなでおろしていたことを私は知っている。
かといって非常識な加護持ちの私を疎んじるわけではなく、ちゃんと愛情注いでくれてることも知っている。
そもそも愛がなかったら私のために転職までしないよね。
父が作る籠は軽くて丈夫で使いやすいと評判だ。
大儲けはできないけれど、信頼のおける職人一家として、我が家は地域に溶け込んで暮らしてきた。
私も常に籠を持っているせいで『バスケットちゃん』とあだ名がついたくらいで、排斥されることも利用されることもなく、普通に平和な少女時代を送れている。
本当に父と母には頭が上がらないわ。
この恩はいつかそのうち返すからねー。
「バスケットちゃん、今日はお出かけ? どこに行くの?」
「森の向こうのおばあちゃんの家までお使いに行くのよ~」
知り合いに軽く手を振り、私は森の中の小道を進む。
見通しが悪い森だが、通いなれた道だから不安はない。
途中にあるお花畑で適当に花束を作り、時間を潰して、頃合いを見計らって再び歩き出す。
しばらくして目的地に到着した。
「こんにちは、おばあちゃん。お見舞いに来たわ」
「よく来たねえ、バスケットちゃん。こっちにおいで」
「ケーキとぶどう酒を持ってきたのよ。おばあちゃん、食欲は?」
「ちょうどおなかが空いたところだよ。さあ、もっと近くにおいで」
「おばあちゃんの耳はどうしてそんなに大きいの?」
「バスケットちゃんの声がよく聞こえるようにだよ。さあ、もっと近くに」
「おばあちゃんの目はどうしてそんなに大きいの?」
「バスケットちゃんの可愛い顔がよく見えるようにだよ。もっともっと近くに」
「おばあちゃんの口はどうしてそんなに大きいの?」
「それはね……おまえを食べるためさ!」
変身を解除して襲い掛かってくる人狼。
のけぞって回避し、バスケットの蓋を開く私。
バスケットの中から出てきたのは、ショットガンを構えた父の上半身。
ズドンと一発。
人狼の頭部が半分吹き飛んだ。
続けて胴体に向けてもう一発。
更にダメ押しの一発。
人狼は完全に沈黙した。
仕留めた?
仕留めたよね、お尋ね者の『人食い黒狼』、賞金額5,000,000ゴールド!
バスケットからよいしょと出てきた父は人狼の死体を見下ろした。
「やっと正体を現したな。クソ狼が」
「念のため銀のステッキで殴っとこうか」
私はバスケットから銀の握りが付いたステッキを取り出し、父に手渡した。
念入りに叩き潰し、確実に息の根を止める父。
「……ったく、旅人やら村人やら何十人も食い殺しやがって。正体掴むのに苦労させられたぜ」
「これでこの森も少し安全になるね。我が家の経済も潤うし」
誰もが神の加護を持つこの世界。
中には異能を悪事に用いるやつもいる。
この人狼は変身能力を悪用した連続殺人鬼だ。
こういうのがいるから、賞金稼ぎを引退したはずの両親が復帰を余儀なくされてしまうのだ。
まったく物騒な世界だね。
「バスケットで帰る? 入れようか?」
「歩きでいいよ。一緒に帰ろう」
私のバスケットは他人が触れると非実体だが、私が入れようと思えば入れられる。
重さも大きさも関係なく、何でも入れて持ち運べて、自在に取り出せる便利なバスケットだ。
ゲームでよくあるアイテムボックスやストレージみたいなものだが、生きた人間でも入れられる優れものだ。
ただし時間停止はない。
ナマモノの輸送には向かないが、こうして少女一人だと油断させておいて奇襲するのには使える。
生まれた時は変な加護を貰ってしまったとガッカリしたが、こうして使い道を開拓できると神に感謝してもいいかな、と思えてくるね。
他人に気づかれずに武器を入れて持ち運べるんだから。
銃でも、弾薬でも、うちの父でもね!
「お父さん」
「何だい?」
「私、このバスケットでじゃんじゃん恩返しするからね」
「それはこれからもお父さんをバスケットに潜ませて容疑者宅を訪問するってことか? 気持ちだけで十分だよ」
私と父は仲良く手を繋いで帰る。
仕留めた人狼の死体をバスケットに入れて。
綺麗な野の花が咲き乱れる森の小道を抜けて。
<完>




