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逃げない琴音

――ホテル・フェロモン 22:30


入り口の自動ドアが静かに閉まると、外の喧騒はすっと遠ざかり、代わりに室内の落ち着いた照明と、わずかに甘い芳香がシンジと琴音を包み込んだ。部屋の中は清掃が行き届いていて、ホテル特有の少し湿ったリネンの香りと、備え付けのアロマの匂いが微かに漂っている。


琴音はドアを閉めるなり、ふわっと脱力するようにベッドへ倒れ込んだ。


「ふわぁ〜……ちょっと酔っちゃったかも……」


とろけたような声を出して、琴音はうつ伏せに寝転がり、ベッドに頬を埋める。そのまま、くるりと仰向けになると、シンジの方をチラッと見てニッコリ笑う。


「シンジさん、琴音、先にシャワー浴びちゃうね?」


「お、おう……!」


シンジの声が一瞬、裏返る。表情は努めて平静を装っているが、その目はわずかに泳いでいる。


――こ、琴音……マジでその気なのか……?シャワー……って、これ、そういう流れなんだよな?


琴音はバスルームのドアを開け、ゆっくりと中へ。ドアの向こうで照明が灯ると、すりガラス越しに彼女のシルエットが浮かび上がる。肩のライン、腰のくびれ、すらりと伸びた脚。曇ったガラスの向こう、シャンプーの泡を流すたびに肌が光を帯びて、影が揺れる。


シャワーの音が静かに、だがはっきりと聞こえてくる。


シンジは立ったまま、動けない。


――落ち着け……オレ……。今までソープ行った回数、両手両足じゃ足んねぇぐらいだろ?慣れてんだろ、こういうの……!


だが、全く違った。金で買った関係とは、空気の重さも、胸のざわめきも、何もかもが別物だ。


琴音の気配が、部屋の奥から消えていくたびに、鼓動が強くなる。


――やべぇ……あの琴音が、あの琴音が……。シャワー浴びてる……マジでオレと……。


バスルームのドアが再び開き、湿気を含んだ暖かい空気とともに、琴音が戻ってくる。肩にかかる髪の毛がしっとり濡れていて、頬にはうっすらと赤みがさしていた。彼女は白いバスローブを羽織っていて、その胸元は、動くたびに柔らかく開いたり閉じたりする。


「はいっ、シンジさんどうぞー」


軽やかに言って、ベッドへトンと座る。


「お、おう。……わ、分かった」


シンジは必死に冷静を装うが、顔がこわばっているのは隠しきれない。琴音はそんな彼をじーっと見て、クスッと笑う。


「なに?もしかして緊張してるの〜?」


「し、してねぇよ!」


声がワントーン高くなる。琴音は楽しそうに首をかしげるが、追及はせず、雑誌を手に取りページをめくり始めた。


シンジはその隙にバスルームへ逃げるように入る。


シャワーを浴びながら、彼はぶつぶつと独り言を漏らす。


「ちょ、ちょっと待てよ……これマジなのか?夢とかじゃねぇよな?浴室から出たら、いきなり怖い兄ちゃんとか立ってんじゃねぇだろうな?“オイ、ウチの琴音に何しようとしてんだコラ”とか……やめろよそういうの。今だけはマジでやめてくれ……!」


顔を洗いながら何度も確認するように目を閉じ、そして開ける。冷水を手に取り、何度も顔に打ちつけた。


「大丈夫、大丈夫だ……オレは今、夢じゃねえ……生きてんだ。達成するんだ……人生目標……!」


意を決して、バスタオルで身体を拭き、バスローブを羽織ってドアを開ける。湿気の中に琴音の甘い香りが混じり、ふわりと鼻をくすぐる。


部屋は薄暗く、ランプの明かりが柔らかく天井を照らしていた。


ベッドの上には琴音。雑誌を見ていた彼女が、音に気づいて顔を上げる。バスローブの裾がわずかに開き、足のラインが美しく浮かび上がる。


「さ。シンジさん……」


その声は、どこかくすぐったく、優しく、少しだけ挑発的だった。


シンジの胸がギュウと鳴る。


――ま、マジで逃げてねえ……琴音……オレの目の前にいる……!


足がじんわりと震えてくる。


シンジの視界がぐらりと揺れた。


そして次の瞬間、彼の脳裏をよぎったのは――

「彩香とすずがこれ見たら、なんて言うだろうな……」


しかし、その考えをすぐに振り払い、彼はベッドに向かって一歩、また一歩と歩み出した。


◾️◾️◾️◾️◾️

ここからは、

清楚系、松山弁コメンテーターなっちゃん

ピチピチ系、関西弁インフルエンサーカナちゃんの振り返り番組“なっちゃんカナちゃん”


なっちゃん:

ちょ、ちょっとぉぉぉ!!琴音ちゃん逃げへんやん!!


カナちゃん:

うわぁ!マジかいな!今まであんなに“クール系ミステリアス美人”でスカしてたのに!?どないしたん急展開!?


なっちゃん:

ほんまよ!?シンジがシャワーの音にビビっとる間に、琴音ちゃんの方が完全にリードしよるんよ!バスローブの裾、ふわっとなっとったけんね!?あれはもう、フラグ立ちまくりやろ!?


カナちゃん:

あかん、あのシルエット見えた時点で、もう“逃げ”とかじゃなくて“招き”や!呼ばれとる!愛の呼び込みや!!


なっちゃん:

ほんでシャワーの中で「夢じゃねえよな?」ってブツブツ言よるシンジ、なんか小学生の初恋みたいで可愛いけどさ〜、あれ、40のおっさんが言うたら切なすぎるけんね!?


カナちゃん:

あははっ、わかる!!もう“思春期リターン現象”やん!シンジ、あんた今さら“青春のリベンジ”でもしとるんかいな!


なっちゃん:

ほんで見てやカナちゃん、最後のあの一歩ずつ近づくシーン。心の声で「彩香とすずがこれ見たら」って……。ちょっと現実戻りかけとるんよな。


カナちゃん:

そうやねん、それがシンジのええとこでもあり、悪いとこでもあるねん。結ばれる直前に余計な女の名前出すな!!って思うわ!!


なっちゃん:

ほんまそれ!あそこで“彩香とすず”とか言うた瞬間、全国の視聴者がズコーッてこけたけんね!


カナちゃん:

せやけどさ……あれ、もしかして次回、ほんまに夢達成してまうんちゃう?


なっちゃん:

えっ!?いやいやいや、まさかやろ!?シンジが!?琴音ちゃんと!?


カナちゃん:

ウソやろ〜って思いたいけど、あの流れ……完全に“成功フラグ”立っとるで!?


なっちゃん:

それ実現したらどうするん?放送できんがね!?即BAN案件よ!?


カナちゃん:

ほら出た!またそれや!のぞゆうの時も「BANされる」とか言うて、あれ結局“手前でストップ”したやんか!


なっちゃん:

そうやけどよ〜、あのときとは違う空気があるがね。琴音ちゃん、もう覚悟決めとる目してたもん……。


カナちゃん:

あぁ〜、その表情、“運命の女”の顔やったな……。


なっちゃん:

うん……これはもう、“恋愛ADV史上最大のデッドライン突破”かもしれんね。


カナちゃん:

はぁ〜……でもやっぱり気になるわ〜!この後どうなんの!?


なっちゃん:

わたしも!!続き気になって眠れんがね!!


カナちゃん:

ということで、ここで恒例の――視聴者コメントコーナー!!


なっちゃん:

イェ〜イ!!まずはポストカードから紹介するけん!えーっと……ペンネーム「香川のグリスボーイ」さんから。


カナちゃん:

ネーミング濃いなぁ〜。


なっちゃん(読み上げ):

「なっちゃんカナちゃんこんにちは。毎回楽しみに見てます。今回のシンジ、まるでエンジンかけたはええけど坂道でエンストしてる軽トラみたいでしたね。いつも“行くぞ!”ってとこで止まる。今回もそうなんかなって思って見てます」


カナちゃん:

たとえうますぎる!!ほんまや、坂道発進で半クラッチ焦げる感じ出てたもん!!


なっちゃん:

わかる!あの“ブオオオ”って言いながら進まん感じな!シンジの恋愛も毎回クラッチ焼けとるわ!!


カナちゃん:

でも今回はもしかしたら、坂登りきるかもな〜。琴音ちゃんが後ろから押してくれとるもん。


なっちゃん:

うまい!“押し愛”ってやつね!


カナちゃん:

じゃ、次はX(旧Twitter)からのコメント行こか!ユーザー名「@fleshcollector」さん。こわい名前やけど。


なっちゃん:

内容もこわいかもね……読むよ?「このシーン、ホテルの照明が“蛍の残り火”みたいでめっちゃエモかった。シンジは蛍の最後の光みたいに燃え尽きるんじゃないか?」


カナちゃん:

えっ、ちょっと詩的やん……!


なっちゃん:

うん……確かに、今回のホテル、ただのラブホってより、“人生の終点”みたいな静けさあったけんね。


カナちゃん:

せやなぁ……あの照明は、まるで「一瞬だけ輝け」って言うてるみたいやった。


なっちゃん:

シンジが蛍なら、琴音はその光を見つめる夜風かもしれんな。触れたら消えるけど、離れたら泣いてまう――。


カナちゃん:

うわぁ……出た、なっちゃんポエムモード入った〜!でも今日ばっかりはわかるわ。ほんまにそうやった。


なっちゃん:

なあカナちゃん……これ、笑ってる場合じゃないかもしれんよ。ほんまに、シンジが“夢叶える夜”になるかもしれん。


カナちゃん:

……こわい。けど、見届けるしかないな。次回、“シンジ、覚悟の夜”――震えて待てやな。


なっちゃん:

うちらも正座して見るけんね。


カナちゃん:

いや、ポップコーン用意するけどな。


なっちゃん:

あははっ、それがカナちゃんらしいわ。


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