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海老名サービスエリア

東名高速・下り線。時刻は19時20分。


ネオンの明かりがやや湿ったアスファルトににじみ、夜の海老名サービスエリアは、旅人と物見遊山でにぎわっていた。


駐車場の奥まった位置に、一台のくたびれた白いミラVANが停まっている。あらゆる匂いに鈍感なドライバーたちでさえ、近づけば「……なんか、甘い匂いがしないか?」と足を止める程度には、車内から強烈なフレッシュガスが漏れていた。


助手席にはすず。スマホでスイーツの投稿をスクロールしながら、ぐう、と腹を鳴らしていた。

後席には彩香。頬杖をつきながら、車内にほのかに香る“桃に似た何か”に、ため息をついていた。


そこへ、駐車場の向こうから、フラフラと歩いてくるシンジの姿があった。


両手には、それぞれ4袋ずつのスーパーのビニール袋が食い込むように提げられている。肩にもひとつ、腕にももうひとつ、持ち手を絡めてぶら下げていた。


「うぉ……重てぇ……おい、買ってきたぞォ!」


車に近づくなり、勝ち誇った顔で袋を掲げるシンジ。


「ちょっと早く見せなさいってば!」

「うわっ、いい匂い!」


すずと彩香が反射的に叫ぶや否や——

ふたりはシンジの顔めがけて紛失していたパンティをぽいっと投げつけた。


「うおっ!? ちょ、おま、フレッシュ投げんなよ! しかもまだ匂いするじゃねーかっ!」


顔に命中したのは、洗濯前のリアルピーチ系。しかも純度高めの爆淫香を閉じ込めた一枚で、シンジは一瞬、天に召されそうな恍惚の表情を浮かべた。


が、それも一瞬。


袋の中身を確認しようと、ふたりが後部スライドドアを乱暴に開けた瞬間——


「おぉぉおおお!!!」


歓喜の悲鳴。

車内に広がる香りは、もはやフレッシュエアーと飯テロのカオス空間であった。


【シンジが海老名サービスエリアで買ってきたもの】

•メロンパン専門店の「限定焼き立てメロンパン」3種(クラシック、カスタード、抹茶)

•「えびえびまん」:海老名名物。ぷりっぷりの海老が皮を突き破りそうなほどギュウギュウに詰まっている。

•牛タン串(塩)と(タレ)各3本

•炭焼き牛カルビ丼(大盛)

•厚切りベーコンステーキサンド

•ミニ鯛めしおにぎり4個

•鳴門金時の大学芋

•湘南ゴールドサイダー2本

•ホットミルクティー(コラーゲン配合)1本

•大粒たこ焼き(6個)

•焼きとうもろこし(ハーフ)

•デザートに「ほうじ茶ロールケーキ」


「あっ!これ、テレビで見たやつじゃん!」

彩香は牛タン串を片手に、思わず座席を立ってしまいそうな勢いで叫んだ。


「しかもこのメロンパン!カスタード溢れすぎでしょ!うわうわ……あんた、マジ使えるじゃん!」

すずは鼻にクリームをつけながらメロンパンを貪り食う。


シンジは鼻先に残ったフレッシュの匂いを吸い込みつつ、腕をだらりと下げて言った。


「オレか?オレはもう、じゃがバター明太チーズ+チュロスの組み合わせで先に軽く食ったからよ。お前らの残りでいいわ」


「は?残ると思ってるの?バカじゃないの?」

すずが、カルビ丼をかきこみながら睨んだ。


「……10点プラス。いや、11点プラスよ。よくやったわね」

彩香が焼きとうもろこしの芯を持ったまま、微笑んだ。


「な、何ならご褒美にさ。お前らの上の……フレッシュ、くれねえか?」

やや得意げなシンジの提案は、完全にスルーされた。


ふたりは食後に湘南ゴールドサイダーで「プハーッ!」と喉を鳴らし、さらにホットミルクティーでホッとひと息ついた。


「サイコー!」

「言うことなしだわ!」


「おいおい……本気で全部食いやがったのか、お前ら……」

シンジは思わず後退りしてシートに腰を落とした。


「え?何が変?問題ある?」

彩香は真顔で言う。


「普通よ、普通。女子の“標準的な量”」

すずも口元にタレをつけたまま答えた。


シンジは呆れを通り越して、笑いそうになった。


「オレが買い出し行ってる間、誰か寄ってきたりしてないだろうな?」


「うーん……行きと違って、フレッシュ10袋がないから、幾分匂いも薄れてるのかもね」

すずが鼻をクンクンと鳴らした。


「それに、今回は駐車場のいちばん奥に停めてるしね」

彩香がウィンクした。


「よし。そろそろ行くぞ。いいか?」


「うん。風通しも良くて、いい感じだわ」

「はははっ。こんなに食べてスースーしてるって最高よね!」


「風通しって言えば……トイレは大丈夫か?」

念のための問いに、彩香が「あ」と声を上げた。


「行っとこ。さすがに牛カルビ丼は効くかも」

「私も。ちょっとだけね」

ふたりは連れ立って車を降り、海老名の光のなかへ消えていった。


数分後、戻ってきたふたりの顔はスッキリしていた。


「さ、出発しましょ」

「バッチリよ。全身が」


「……何がバッチリなんだよ」

そうぼやきながら、シンジは古びたミラVANのエンジンをかけた。


キュルキュル……ボボボン……

エアコンが一度むせ、車内にフレッシュエアーの残り香が舞う。


ライトがゆっくりと夜の道を照らし出す。


ミラVANは海老名を離れ、西へ、西へと滑り出した。


気づけば、助手席と後部座席から、小さく寝息が聞こえてきた。


「……ったく、奔放なやつらだよな……」


シンジはハンドルを握りながら、ほんの少し口元を緩めた。


彼の愛車——いや、爆淫香を乗せた移動香炉は、ゆっくりと東名高速を走り続ける。


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