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シンジの優しさ

MOTOR INN 陽炎 4:30


――夜明け前の静けさ。

安モーテル「陽炎」の一室に、風の音と、微かに鳴る換気扇の音だけが漂っていた。


ソファーに沈む身体。

シンジはうなじのあたりをポリポリかいたあと、額に張りついた前髪を払い、眠たげな目で時計を睨んだ。


デジタル表示は「4:30」。

まだ夜。だが、もう朝が忍び寄っている。


ソファーの向こうに置かれたベッド。

そこに、すずが眠っている。彼女の華奢な身体は、シーツからずり落ちていた。

うっすらとした灯りに照らされ、腰から下が無防備に露出している。


シンジ(心の声)

《おうおう……風邪ひいちまうぞ……》


ゆっくりとソファーを抜け出し、足音を殺してベッドへ近づく。

触れれば壊れそうなほど細い腰。

冷えきった空気の中に、フレッシュガスがかすかに残っている。あのミラVANで染みついた香りだ。


そっとシーツを引き寄せ、すずの身体にかけてやる。

それだけのことに、妙な緊張感が走った。


シンジ(心の声)

《今、見えてたよな……? 薄暗くてよくわかんなかったけど……おいおい、こんなシーン、AVでもそう簡単に出会えねえぞ……》


ため息をひとつ。

再びソファーへ腰を下ろし、天井を見つめる。電球の青白い光が天井にぼんやりと影を描いている。


シンジ(心の声)

《……さて。この20億、どう使うかだな。》


思考が巡る。金は、命より重い。だが、どう使うかで命すら買える。


シンジ(心の声)

《まず7.5億は野崎に渡す……残り12.5億。彩香とすずに5億ずつやって、オレは2.5億……それでもいいしな。》


顔の皮脂が気になる。もう三十路を超えてから、やたらテカる。


シンジ(心の声)

《でも……彩香が言ってたみたいに、事業やるってのもアリか。フレッシュを隠れ蓑にした、アンダーグラウンドな新ビジネス。20億円を出資金にして、表向きは古着専門のブランドだとか言ってさ。もちろんフレッシュは裏口から出す。》


少し笑みがこぼれた。あのミラVANが思い浮かぶ。


シンジ(心の声)

《あのボロ、最初は嫌だったけどよ……いまじゃオレたちの“戦友”みてぇなもんだ。だがフレッシュガスが染み込みすぎてて、コンビニ行くたびに警戒されるのは困るな。もっと密封性の高い車にしてくれって交渉すっか……》


視線をベッドに移す。

すずの寝顔。彩香の安らかな寝息。

いまや、フレッシュで繋がった奇妙な三角関係。


シンジ(心の声)

《こいつら、最初は敵だったのにな……。でも今は……悪くねぇ顔して寝てやがる。こいつらの過去なんて、もうどうでもいい気がしてきた。》


思い出す。

彩香が目を輝かせて、事業の構想を語っていたあの夜。まるで少女のような表情で、野崎とのパイプを活かした新たな展望を語っていた。


シンジ(心の声)

《でもな、この20億……まともな銀行には預けられねぇ。下手すりゃ全部凍結だ。ま、野崎が洗浄ルート持ってるから、なんとかなるか……》


天井から吊るされた裸電球が、揺れているように見えた。まるで、時間が静かに流れていることを知らせるように。


シンジ(心の声)

《朝飯……どうするよ。ウーバー? いや、こんなとこ圏外だろ。コンビニ?ねえし。オレが買い出し行くしかねえか……。でもな、あの自販機で買った“あのセット”……変態ブラに紐パンにコスプレミニスカだろ?こいつら着てくれねえんなら、オレが買いに行かねえと……くそ、完全に詰んでるじゃねえか……》


目を閉じた。

もう一度、浅い眠りの底へ沈んでいく。


……


午前7:00。

東の窓から、柔らかな光が差し込む。

モーテルの部屋は、夜の残り香を抱きながら、少しずつ朝へと染まっていった。


ベッドの上――

すずが目を覚ました。寒さで下半身がスースーしている。反射的に自分の腰に手をやる。


すず(心の声)

《やばっ……またシーツ蹴っ飛ばしてた……見られてないよね……?あのバカ、起きてないよね……?》


ソファーをそっと確認する。

シンジは大口を開けてイビキをかきながら寝ている。


すず(心の声)

《ああ良かった……見られてはなさそう……》


慌てて近くのタオルを腰に巻きつける。

ふと彩香のほうを見ると、彼女のバスローブが大胆にはだけている。


すず(心の声)

《ヤバ……これ、アイツが起きてたらスマホで撮られてるところだったじゃん……》


すずはそっと彩香のローブを直し、シーツをかけ直す。

そのタイミングで、彩香が目を覚ました。


彩香「……んん、すず? 今何時?」

すず「7時。バスローブ、はだけてたわよ」

彩香「え? マジで?」

すず「大丈夫。アイツ、寝てたから」

彩香「ふぅ……よかったぁ……」


しばし静寂。二人とも、まだ夢の余韻の中にいるような表情で、部屋の明るさに目を細めていた。


彩香「どうする? 起きる?」

すず「うーん……でも、明るくなってるから、今度はアイツが先に起きて、私らが全開張だったら……もう終わりよ」

彩香「ふふ。そんな簡単には見せるわけにはいかないわ」

すず「見られたら、アイツのも見せさせようよ」

彩香「あいつ、絶対に無条件で見せてくるって」

すず「あー……ありえる(笑)」


ゆっくりと布団から出て、二人は洗面所へ。

脱衣所の洗面台で、歯ブラシを口にくわえながら並ぶ。

すずの腰に巻いたタオルが、ポトリと床に落ちた。


彩香「すず、落ちた」

すず「……ごめん」


二人は、特に動じる様子もなく、黙って歯を磨き続けた。

鏡の向こうに映るのは、過去を背負ったまま、それでも今を生きようとする女たち。


その背後では、まだシンジが、大きなイビキを響かせながら、夢の中で何かしらの交渉をしていた。


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