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打ち解け合う三人

深夜0時10分。


天井の薄暗い蛍光灯が、天井をぼんやり照らしている。

ダブルベッドの上には、バスローブ姿の彩香と、Tシャツに腰巻きタオルのすず。

すずのタオルは、少し動けば落ちてしまいそうな危うさで巻かれている。

シンジは、そのすぐそばの合皮のソファーに寝転がっている。


静けさの中で、彩香がぽつりと口を開いた。


彩香

「ねえ、シンジ。あんた……彼女とか、いないの?」


シンジ

「は?……見りゃ分かるだろ。こんなオッサンに、いるわけねえじゃん」


すず

「どれくらい……いなかったの?」


シンジ

「……ずっと。オレに彼女なんて、できたことねえよ」


彩香

「じゃあ……まさか、童貞?」


シンジ

「バカ言え。……プロとはバシバシやってっからな。……あ、いや、なんなら今日ノンプロデビューでも――」


言いかけたシンジが、二人の無言の視線に気づいて黙り込む。

目だけで、冷たくもどこかあきれたように見られていた。


シンジ

「……嘘だって。冗談だってば」


すず

「……誰か、好きな人とかいないの?」


その問いに、シンジの脳裏に浮かんだのは、

キャバクラ「ぺぺ」で微笑む、琴音の姿。


シンジ

「……まあ、いないこともないけどな。相手はプロだ。……キャバ嬢だよ」


彩香

「えー、またそっち系?」


シンジ

「……あいつがオレに笑いかけてくれるのは、オレが金払ってる時だけだ。……分かってんだよ、ちゃんと。向こうにとっちゃ仕事だって」


すず

「でも、アンタのこと……好きになった人って、本当にいなかったの?」


シンジ

「……いたのかもな。でも、そう思いたいだけかもな」


彼の言葉が、部屋の空気を少しだけ変える。

数秒の沈黙が流れたあと、シンジは言葉を継ぐ。


シンジ

「……今日さ。織布同盟との取引で、フレッシュが3枚足りなくなって、オレ……ケンに拳銃突きつけられたろ?」


ソファーに仰向けのまま、天井を見つめている。


シンジ

「その時……お前ら、オレを助けるために、自分のブラとスカート、アイツらに差し出したじゃねえか」


言いながら、喉が詰まりそうになる。

あの時の光景が、妙に鮮やかに脳裏に蘇る。


シンジ

「……あれ、すげぇ嬉しかったんだ。……金払ってない女が、オレのために何かしてくれたの、初めてだったから」


彩香とすずは、黙って聞いている。

視線だけが、彼の方へ向けられている。


シンジ

「……オレ、お前らにフレッシュ盗られた時は、本当にムカついてた。でもさ、取り返してから……ずっと一緒に走ってきただろ、ミラVANで」


部屋の壁時計が静かに秒を刻む。

その音の合間に、彼の言葉がぽつぽつと落ちていく。


シンジ

「くだらない話して、飯食って、眠くなって、また走って……そんな時間の中でな。なんか……お前らのこと、可愛いなって、思うようになったんだよ」


彩香

「……そのわりには、エロい目ばっかしてるじゃない」


シンジ

「それは……お前らが、いいオンナだからだよ。……ほんとに」


すず

「ふふ……私、最初はアンタのこと、クズ以下だと思ってたんだよ」


シンジ

「で、今は?」


すず

「……もっとクズ」


シンジ

「ちょ、おい!後退してんじゃねえか!」


彩香

「本当最低よね。隙あれば覗こうとするし、匂い嗅ごうとするし」


シンジ

「ち、違ぇよ。……愛情表現だろ、ああいうのは……な?」


シンジ(心の声)

《ま、実際……見たいのもあるけどな》


彩香

「ふふ……ほんっと、バカなんだから」


彼女の笑みは、どこか柔らかい。

それは、さっきまでとは違う温度を持っていた。


彩香

「……ねえ、そろそろ寝ようか。今日は疲れたわ」


すず

「明日って、何時起き?」


シンジ

「野崎には明後日までに金を持ってけばいい。……だから、明日はずっとここにいても、いいんだ」


すず

「えー……あんたと一日中?」


シンジ

「ダメか? 三人で……のんびりしても、いいだろ?」


彩香

「……またなんか、いやらしいこと考えてるんでしょ」


シンジ

「いやいや、純粋な気持ちだってば……マジで!」


すず

「もう、早く寝てよ……」


シンジ

「はいはい、おやすみだよ、お姫さまたち」


電気がふっと落ちて、部屋が静寂に包まれる。

遠くで、車の通る音が一瞬聞こえたかと思うと、すぐにまた静かになる。


疲れ切った身体が、それぞれの場所で少しずつ沈んでいく。

ゆっくりと寝息が重なって、柔らかい夜が包み込む。



シンジが彩香とすずに出会ってから、まだ24時間も経っていない。

朝6時半。三重県桑名市のギロチン工場の前でミラVANを奪われてから――

逃げて、奪って、撃たれそうになって、笑って、少しずつ信じて。


たった一日の出来事が、三人の距離を、静かに変えていた。


やがて眠りの中、誰もが知らないところで、心が寄り添っていく。

陽炎のような夜が、そっと終わりに近づいていた。


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