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彩香とすずの献上

ポリ袋を前に、二人の男女が確認作業をしていた。

ユアは素顔。冷たく整った顔立ちに、目元だけが鋭く動いていた。片手にタブレット、もう片手でフレッシュを開封しては確認する。

その隣で、ケンが無言で袋を漁っていた。異様なまでに大きなガスマスクをつけており、表情は読み取れない。ただし、その手つきからは緊張と警戒がはっきりと滲んでいる。


二人は何かを確かめるようにヒソヒソと話し出した。細かく、重い空気。やがて視線が、ゆっくりとシンジたちの方へと向けられた。


ユアの声が響いた。

「……3枚、足りないわ」

ケンも低い声で続けた。

「どういうことだ、これは?」


シンジは、まるで唐突にナイフを突きつけられたかのような表情で首を振る。

「え、なにが? ちょっと待ってくれよ……こっちのセリフだよ、なにが足りねえって?」


ユアはスッとタブレットの画面をこちらに向けた。表示されていたのは「愛の織布.net」の出品リスト。

「あなた達がここに掲載していた画像と比べて——」

タブレットのスクロールが止まる。

「3枚、少ないの」


「おいおい、マジかよ……」とシンジは手で額を拭い、後ろを振り返る。

「誰かどっかに置き忘れたとか、落としたとか、そういうのないか?」

彩香がむっとして言う。

「あたしらがそんなミスするわけないでしょ。あんた、まさか自分のコレクション混ぜて、その中の3枚……“確保”したとか?」

「いやいやいやいや、欲しいのは山々だが、やってねえってば!」

シンジは両手を広げて否定する。が、声に焦りが滲んでいた。


3人は焦りながらも改めて袋を開け、確認する。「愛の織布.net」の画像と見比べて、数と内容を一枚ずつ突き合わせる。

目の前に広がるのは、色とりどりのパンティとブラ、匂い立つそれらの記憶。だが——確かに、3枚足りていない。


ケンの動きが止まる。次の瞬間、ゆっくりと懐から拳銃を取り出し、無言でシンジに向ける。金属音と共に、安全装置が外された音がした。

シンジは思わず飛び退いた。

「ちょっ……待て待て待て!そんなつもりじゃねえって!こっちだって今知ったばかりだ!」

ユアは静かに言う。

「でも、足りないのは事実よ。20億円の取引。その内の3枚がなければ、不成立よ」

ケンが銃口を下げないまま、一歩踏み出す。

「命で支払ってもらうしかないな。3枚の価値ってのは——そういうことだ」

「やめろよ!オレの命がパンティ3枚分なのかよ!? バカかよ!」


緊迫する空気。その時だった。


彩香が、一歩前に出る。唇を強く結び、胸を張る。

「ちょっと待って……!私たちは騙すつもりなんてないわ。もし、3枚足りないのなら……私ので埋め合わせできないかしら」

ユアの眉がわずかに動いた。

「……は?」

「ブラは着けたままよ。24時間ノンストップで、今日も動いてたから、状態は完璧。パンティは……実は、もう穿いてないの」

その場が静まり返る。

「このスカートの下、スースー状態。何も履いてない。これを差し出すから——それで、どうかしら?」


シンジの目が見開かれる。

「彩香……お前、そこまで……」


沈黙を破るように、すずも前に出た。顔を赤らめながらも、力強く言う。

「私も、出す。私は上下スースーで、今穿いてるのはこのスカートだけ。けど……さっきからちょっと汗ばんできてるし、状態は良いと思う。匂いも……しっかりある」

「すず……お前まで……」


ユアとケンは顔を見合わせ、またヒソヒソと話す。しばしの沈黙の後、ユアが頷いた。

「……いいわ。それで成立としましょう。じゃあ、脱ぎなさい」


「待てよ」

シンジが制した。真剣な目で彩香とすずを見る。

「そのまま脱いだら、完全に見えっぱなしになっちまう。だから……これを使え」

自分のシャツを脱ぎ、彩香に手渡す。

「彩香、これを腰に巻け。ギリギリだけど、前隠れるはずだ」

彩香は、そっと受け取って頷く。

「ありがとう……」


さらにタオルを取り出し、すずに差し出す。

「すず、お前にはこれ。ちょっと小さいけど、キュロットスカートだと思ってくれ」

すずも、涙目で受け取る。

「……ありがとう、シンジ……」


二人はミラVANの裏手へ回る。

「シンジ、覗いたら殺すからね!」

「覗かねえよ!さっき死にかけたばっかだぞ!」


しばらくの沈黙と、かすかな布の擦れる音。戻ってきた二人の姿に、思わず息を呑む。


彩香はブラとスカートを手に、シンジのシャツを腰に巻いている。その下はスースー。上はTシャツだけで、中は空っぽ。

すずはスカートを手に、タオルを腰に巻いているが、それは短すぎてもう見えそう。体温と湿気で、タオルに染みが浮かんでいる。


ユアはそれらを受け取り、フレッシュとしての最終チェックに入る。鼻に近づけて、目を細める。

「……いいわね。皮脂がしっかり乗ってて、発酵も始まってる。香りもフローラル系と動物系が混ざって、非常に高評価」

彩香とすずは顔を真っ赤にして、下を向く。


「じゃあ、金は積んでいいか?」とシンジ。

ユアは頷いた。

「ええ。これで取引成立」


ミラVANのリアゲートが開く。彩香とすずも加わり、三人で金のカバンを積み込む。ずっしりと重く、ずっとかがんでいなければならない。そのたびに、巻いた布がずれて見えそうになる。ユアは手で顔を覆った。


ユア(心の声)

「ちょ……具チラじゃないの……これ……」


最後のカバンが積み込まれ、ようやく作業が終わる。息を切らしながら、シンジが呟いた。

「これ、全部で200キロだぞ……こんなん、新幹線乗れねえよ」

すずがタオルを握りしめながら言う。

「カバン一つで10キロ。20個あるもんね……」


取引は完了した。だが——彼らの知らぬところで、ひとつだけ。金のカバンの下に、3枚の“フレッシュ”が潰れて隠れていた。それらがさっき落としたものだったことに、誰もまだ気づいていない。


ケンが無言でトレーラーの扉を開く。

ミラVANは、荷重に軋みながらも、ゆっくりと発進する。


——次の目的地は、未定。

でも、たった今ここで、命とパンティと金が、確かに交錯した。


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