爆淫のマリアージュ ~東名に香る20億の風~
東名高速・大井松田IC付近。時刻は17時5分。
ミラVANの車内に沈む沈黙は、焦りと緊張の匂いすら孕んでいた。
夕焼けがリアウィンドウを赤く染める中、車内にはただ一つ、時間の重みだけが支配していた。
約束の18時まで、残り55分。
その約束は、元々はたった一つの手渡しに過ぎなかった。
だが今、それは“取引”という名の新たな化け物へと変貌を遂げつつある。
彩香の指が、スマホの画面を忙しなく叩いている。
助手席であぐらをかき、フレッシュ10袋に囲まれながら、眉一つ動かさず静かに言った。
「……交渉相手、探すわよ」
シンジが不安げに身を乗り出す。
「お、おい彩香、何やってんだ?そんなの探してるヒマあんのかよ…!」
「これ?“愛の織布.net”。ここに出品すれば、あっという間に男どもが群がってくるわよ」
彩香の唇がわずかに上がる。「最低取引金額は15億から。私たち、10袋あるんだから…妥当でしょ?」
そして、彼女は躊躇なくスマホを構えた。
パシャ、パシャ、とフラッシュの光が車内を切り裂く。袋の外観、ロゴ、密封の結び目。全てが記録された。
「さあ、ちょっと今から……激しくなるわよ。鼻の奥、焼かれる覚悟して」
彩香が最初のフレッシュ袋の結び目を解く。
――ブゥオン……
まるで重油の霧が立ち込めたかのように、爆淫香が爆発するように車内へ広がった。
「す、すげえ!これ……最高濃度だ!もう匂いだけで出ちまいそうだぜ!!」
シンジの目が泳ぐ。鼻孔全開、呼吸も忘れ、陶酔の表情に落ちていく。
彩香はそんなシンジに構わず、袋の口をさらに開き、中身をカメラで撮り始めた。
そのたびに炸裂する、淫靡すぎる爆淫香。
しかもそれは1袋だけじゃない。2袋目、3袋目と次々に口が開かれていく。
車内の酸素が、明らかに変質していく。
「ちょ、ちょっと待って彩香!もう私、鼻から脳みそが出てきそう!次の袋開ける前に、口を結ばせて!」
運転席から身を乗り出したすずが、必死に袋の口をギュッと縛る。
だがその拍子に、スカートの裾がふわりと舞い上がった。
そのスースーの奥を見逃すまいと、シンジの目がハンターのように光る。
「ちょっと何覗いてんのよバカシンジッ!!」
すずの声は怒りと羞恥でわずかに震えたが、パンチは容赦なく飛んでくる。
「痛っ!おいおい、ちょっとくらい見せてくれてもいいじゃねぇか…!もうちょっとだったのによ…!」
シンジは顔を押さえながらもニヤニヤが止まらない。
だがその間にも、彩香は着実に“撮影”を進めていた。
10袋すべて。口を開け、爆淫香を撒き散らしながら中の“愛の織布”たちを一つ残らずスマホに収めていく。
「――準備完了。さあ、今から出品するわよ」
彩香がスマホを高く掲げる。
「男を惹きつける、最高の説明文。考えられる?」
「ヨシ!それならオレに任せろ!」
シンジが鼻を拭って、スマホを受け取る。文字を打ち始めるその顔は、なぜか真剣そのものだった。
⸻
シンジが考えた出品説明文:
「この10袋に封じられしは、淫魔の夢か、天女の吐息か――。
女優、アイドル、アナウンサー、伝説のセクシー女優たちが、己の肉体から最後に絞り出した熱と香り。
一度吸えば魂が震える。二度吸えば現実が崩れる。
※開封注意※
一発で膝から崩れ落ちる可能性があります。
今宵、貴方の性に革命を。
スタートは15億。さあ、誰がこの香りの覇者となる?」
⸻
「よし…投稿するわよ。出品ッ!」
スマホの画面をタップする彩香。
「おい、そんなすぐに相手見つかるのかよ?」
「舐めないで。フレッシュの流動性ってのは凄まじいの。……ほら、もう“イイね”が付いた」
――わずか10秒の間に、53件の“イイね”が並ぶ。
すずが、思わずスマホを覗き込む。
「本当だ……すごっ」
「さあ、金額も上がり始めたわ」
最初の入札は、ピタリ15億。
だが、10秒ごとに数千万ずつ上昇し始める。
17億、17.4億、18.1億、18.9億……
「もっと来い!もっとよッ!」
彩香の瞳はギラギラと輝いていた。まるでこの瞬間に生きる女。
一方、すずはその香りにやられて理性がぶっ飛んだのか、スカスカの下着なし状態で、横目でスマホを覗き込み続けていた。
スースーの奥が完全に丸見えだというのに、本人はまるで気づいていない。
シンジの心の声が響く。
「……取引金額も気になるが、そのスースーの中身も気になってしょうがねぇ……!具、出てんじゃねえのか……?」
残り10秒。
「すごい!すごいすごい!!20億行くわ!!!」
――取引、終了。
「……やった!20億ちょうどよ!!」
すずの声が歓喜に震える。
「す、すげえ……本当に20億……!」
顔を覗きこもうとしたシンジに、すずの拳が飛ぶ。
「ボケ!!何見てんのよ!」
「い、痛え!だから言っただろ、もう少しだったのによぉ……!」
その中で、彩香が平然と告げる。
「これで、野崎に提示した15億より5億上乗せできたわ。交渉、かなり有利になる」
シンジがぼんやりと、改めて彩香を見つめた。
「……お前、何者なんだよ……」
「ただの女よ。でも、“女”ってのは、手札の出し方ひとつで世界を動かせるの」
「カッケェ……」
すずが言う。
「でも、問題山積みでしょ?こんなにエロい匂いしてるのに……」
「それが刺さるんだよ、ズボッとな。変態どもにはこの香りがジャブジャブのクリティカルなんだ」
その時――
シンジのスマホが鳴る。
ディスプレイに映った名前は――野崎。
ここで、場面は静かに幕を下ろす。続く緊張、さらなる火種は、次のページへと委ねられた。




