ゾンビに囲まれて
新東名高速道。
岡崎市赤峯付近。時刻は午前11時。
舗装された道を、古びたミラVANが喘ぎながら疾走していた。後部から吹き上がるエンジン音はやけに騒がしく、それでも――その姿を追っていた“あの男”の影は、とうとうルームミラーから消え去った。
ハンドルを握るすずが、息を詰めるように言った。
「やったわ…撒いた…撒いたわよっ!」
後部座席で身を縮めていた彩香も、ようやく胸を撫で下ろす。
「本気でヤバいかと思った…もう全部脱がされる覚悟までしてたわ…」
「よし、もういいぞ」
シンジが、後席で半身を起こしながら言った。「エアコン入れて構わん」
けれど、すずがスイッチを捻っても、VANのエアコンはまるで気の抜けたビールのように頼りなかった。生ぬるい風が吹くばかり。
だがそれでも、この短い時間だけは、車内に久しぶりの“平穏”が流れていた。
彩香が眉をひそめた。
「ねぇ…そろそろ私たち、降りてもよくない?あんた、フレッシュも取り戻したし、ガソリンも満タンなんだから」
すずも重ねる。
「そうよ。これは元々あんたの任務だったじゃない。私たち、奪うのに失敗した。それに……もう邪魔しないわ」
一瞬、車内に沈黙が落ちた。
シンジは黙ってフロントガラスを見つめている――ように見えたが、その頭の中では別の計算が巡っていた。
(でもなあ……こいつら、いてくれた方が何かと使えるしな…運転もできるし、荷物も持たせられるし、フフフ…)
「ダメだ」
シンジが冷たく言い放つ。「お前らは俺を怒らせた。最後の最後まで付き合ってもらうからな」
その声には、どこかねっとりとした湿度があった。
自分で言った言葉に、シンジの脳裏にイヤらしい映像が浮かぶ。
(最後の最後って……もちろん任務の後の“ラブホ”って意味だよなぁ?グシシシ……)
彩香がたまらず抗議する。
「ねぇ、もう勘弁してよ。謝ってるじゃない。ねぇ?」
シンジの唇が歪んだ。
(へへっ……少し脅してやるか。ビビらせりゃいいだけだしな)
「そうか……じゃあどうしても許してほしいなら……今から俺の隣に来な。そしたら解放してやるよ。たっぷり“味わった”あとでな? ギヒヒヒ……」
その一言に、車内の空気が瞬時に凍りついた。
彩香の顔から血の気が引く。声は震えていた。
「わ、分かったわよ……言う通りにするから、お願い、イヤらしいことはやめて…お願いだから……!」
(へへへ、ちょろいもんだな。ちょっと脅しただけでこれよ……)
シンジの心の声はニヤついているが、すずも彩香も、本気で震えていた。シンジの発言が、どこまで本気か分からない――だからこそ、怖い。
その瞬間、すずがハンドルを握る手を強張らせた。
「ちょっと待って……なに、あれ。前……ハザード出してる車があるわ!」
彩香もすぐに顔を上げた。
「ほんとだ……あれ……なに?」
シンジもようやく身を起こし、前方を確認した。
「……うわっ!マジかよ……渋滞だ!」
「はぁ!?こんなとこで!?」
彩香が思わず絶叫する。
ミラVANの速度がじわじわと落ちていく。クラクションは鳴らず、ただ重苦しい沈黙と共に、列を成す車たちが前へ進まぬまま動きを止めていた。
そして――
すずが、目を細めた。
「えっ……うそ……ちょっと待って、後ろ……さっきの店員じゃないの……!?」
急いでフェンダーミラーに視線を向けると、はるか遠くに“点”のような影が見えた。バイクかと思った――けど、違う。人影。
人間が……走ってきている。両手をダランと下げたまま、口元に涎を垂らし、虚ろな目で一直線にミラVANを目指して。
「ヤバいヤバいヤバい!」
彩香が悲鳴を上げる。「また追いつかれちゃうって!逃げられないわよ!」
「渋滞してるからどうしようもないっつーの!!」
すずが涙目で叫び返す。
やがて“あの店員”が追いついた。
汗と欲望に濡れた表情のまま、VANの助手席側の窓にピタリと張りついた。
「うっ……」
彩香の声が震える。「いやっ!気持ち悪いっ!!」
「刺激すんな!窓、割られるぞ!」
シンジの声に怒気が混じる。
しかし、事態はそれだけで終わらなかった。
すずが異変に気づいた。
「ちょ、ちょっと待って……おかしい……!周りの車も……」
ミラVANの周囲――停車している車から、ゆっくりと人影が立ち上がってくる。
ジャージ姿のオッサン、サラリーマン、運送業者、いずれも口元を半開きにして、目を細め、鼻をクンクンと鳴らしながら、フラフラと歩き出す。
ミラVANから漏れ出た“フレッシュエアー”。
それが、彼らの理性を奪っていく。
彩香が絶叫した。
「ちょっとヤバい!!囲まれるっ!!囲まれるわよ、これ!!」
そして、VANはついに停止。
渋滞の列に完全に飲まれた。
運転席、助手席、後部座席。
すず、彩香、シンジ――三人の顔から、一斉に血の気が引いていた。
淫気に染まった男たちが、一歩、また一歩と、ミラVANへと迫ってくる――。
◾️◾️◾️◾️◾️
ここからは、
清楚系、松山弁コメンテーターなっちゃん
ピチピチ系、関西弁インフルエンサーカナちゃんの振り返り番組“なっちゃんカナちゃん”
なっちゃん(松山弁で呆れ顔)
「いやいやいや……シンジ、ほんまどうしようもないわ……!今のシーン聞いとった?彩香ちゃんに『今から俺の隣に来い』とか言うとったけん!なにが“味わったあとで解放”よ!?ほんま、シンジはクズやなぁぁ!!」
カナちゃん(関西弁で机叩きながら)
「ほんまやで!任務とか言いながら、頭ん中ラブホしかないやん!国防の任務より股間の任務優先するってどういうことやねん!シンジの辞書、“正義”のページ破り捨てとるやろ!」
なっちゃん
「すずちゃんと彩香ちゃんが本気で震えとったんよ!?あれ、ただの冗談で済まんけん!ゾンビよりシンジの方が怖いわ!」
カナちゃん
「しかもさ、渋滞でピタッと止まった瞬間にゾンビ群れ寄ってくるやん?あれもう“外ゾンビ・内クズ”の地獄二重奏やん!どっち向いても絶望しかないやろ!」
なっちゃん(肩すくめて)
「シンジの心の声もゲスすぎるけん!“ちょろいもんだな”とか思っとったけど、そんなん言う男、松山でも出禁レベルやけん!」
カナちゃん(皮肉っぽく)
「いやもう“人としてのエアコン壊れとる”って感じやな。まともな冷風一切出んと、ずーっと生ぬるい下心しか吹かんやん!」
なっちゃん
「ほんまや!ゲスの温風!そら車内サウナ以上に息苦しいけん!」
カナちゃん
「ゾンビに囲まれるより、シンジと二人きりで車内におる方が嫌やなぁ!逃げ道ないもん!」
なっちゃん
「結論。シンジはクズ。ほんまクズ!あんなんと旅するの、耐久レースどころか罰ゲームやけん!」
カナちゃん(うなずきながら)
「いやぁ……“人類最後の敵はゾンビやなくてシンジ”やったんやなぁ。アホほど納得したわ」
――
なっちゃん(台本めくって)
「はい!ここでお便りとXのコメント読んでいくけんね!」
カナちゃん(テンション切り替えて)
「いくで〜!」
《視聴者からのはがき》
・30代男性:神戸
「シンジ、ゾンビよりヤバい。地元の恥です」
→なっちゃん「いやホンマ!兵庫県民泣かすなや!そばメシに謝れ!」
・20代女子:大阪
「ゾンビ怖いけど、シンジのセリフの方が鳥肌立った」
→カナちゃん「せやろ!ゾンビは走って追ってくるけど、シンジは言葉で心えぐってくるからな!どっちもホラーや!」
・40代女性:東京
「渋滞=ゾンビ発生源って新解釈すごい」
→なっちゃん「いやいや!普通はサービスエリアでソフトクリーム買うんよ!なんでゾンビ生産工場になっとるんよ!」
《X(旧Twitter)のコメント》
・@クズ鑑定士
「シンジ=人類のブラック企業」
→カナちゃん「わかる!休みなし、希望なし、未来なしやん!」
・@走るゾンビ60km
「ゾンビが時速60出すなら、シンジの下心は無限大」
→なっちゃん「計測不能やけん!人類史上最大の不快メーター振り切っとる!」
・@彩香推し
「シンジと旅とか罰ゲーム。むしろ勇者やん」
→カナちゃん「ほんまや!彩香ちゃん、精神的マラソン完走しとるで!」
・@車内地獄民
「エアコン壊れてる車内=シンジの人格そのまんま」
→なっちゃん「生ぬるい、息苦しい、誰も乗りたくない!まさにそれやけん!」
なっちゃん
「いや〜今日もシンジに呆れすぎて喉カラカラなったわ!」
カナちゃん
「せやな!水分補給せんとゲスクラッシュで干からびるとこやった!」
なっちゃん
「次回はゾンビかシンジか、どっちが先に倒れるんか、みんなで見届けてな!」
カナちゃん
「ほなまた次回〜!」
(BGM:乾いた風みたいなエンディング♪)




