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ガス欠

東名高速・岡崎サービスエリア付近 午前10時30分。

カラカラと蝉の鳴くようなエンジン音の断末魔を響かせながら、すずの運転するミラVANが、緩やかに傾斜を下りつつあった。


エアコンは停止。

窓も開けられない。

理由はただ一つ——フレッシュガスの放出が、即通報案件だからだ。


車内は灼熱の蒸し風呂。

額からは玉のような汗。

フロントガラスにじわじわと染みてくる湿気。

そして空間を支配するのは、10袋分のフレッシュガス。

清楚、濃厚、激辛、スモーキー、熟成、柑橘系、バブリー、ミステリアス、汗だくリッチ、そして女神級。

全種が混ざり合って、異常な化学反応を起こしていた。


「ちょっともうダメ! 窓開けさせてよ!」

彩香が叫ぶ。鼻をつまみながらも、声はすでに震えていた。

「気が狂いそうなんだけど!」

手が無意識にドアに伸びる。


「ダメだ! 開けるな!」

後席の床に寝転がったまま、シンジの野太い声が炸裂する。

「今ここで窓を開けてみろ…! 熱されたフレッシュガスが一気に外気に放出される!」

「ちょっと何その”蒸気爆発”みたいな扱い…!」


「通報されちまうぞ……」

呻くように言ったシンジの額にも、流れ落ちる汗。

目だけがギラついている。

「ククク……この暑さでお前らのフレッシュ、だいぶ価値が上がってるんじゃねぇか?」

「おい! ぶっ飛ばすわよ! 変態野郎!!」

彩香の拳が震えたが、殴れない。

シンジは床にべったり張り付いていて、まるで香りに溺れるトカゲのようだ。


「あと、どれくらいなんだ?」

シンジが天井を見ながら言う。

「分からない……」すずの声も疲弊している。「さっき『岡崎まであと5km』って看板あったから、もうすぐだと思うんだけど……」


だがそのとき。

「……えっ?」

アクセルを踏んでいるのに、スピードがみるみる落ちてくる。


「ちょっと待って、アクセル踏んでるのに!」

「なに!?」

彩香が叫ぶ。


「おい! ギアをニュートラルに入れろ!」

「えっ、えっ! ちょっと待って!」

すずが慌ててクラッチを踏み、ニュートラルへ。


その瞬間、タコメーターが0を指す。

「エンジンが……止まった……?」

「そうだ、ガス欠だ。ギア入れたままだと止まっちまう。惰性で進め!」

「惰性って……!」

すずの両手がステアリングを握りしめる。

「ブレーキは絶対に踏むなよ!」

シンジの声に緊張が走る。


視界の先に、看板。

『岡崎SA あと400m』


「……あれ! 見えた! サービスエリア!」

すずの声が明るくなる。


「よっしゃ! なんとかなるかも!」

彩香も叫ぶ。


左にウィンカーを出し、車線を移動しようとしたそのとき——

「うっ……ちょっと! ハンドルが重い!!」

「エンジン止まったからパワステ効いてないんだ! 気合いで回せ!」

「気合いで!? これ、アームレスリング級なんだけど!?」


ギリギリの車線変更。

惰性だけで、ミラVANは岡崎SAの入り口に吸い込まれていく。


後部座席ではシンジがむくっと起き上がる。

フレッシュ袋に首まで埋もれたまま、まるで海中から顔を出すカッパのように頭だけ突き出す。

「よし! ガソリンスタンドが見えたぞ!」

「はぁ、はぁ……」

すずは疲労困憊。顔色は蒸し上がった小籠包のようだ。


だが、速度は落ちていく。

じわじわと、まるで夢から醒めるように。

あと15メートル。


「だ、ダメだわ……届かない……!」

「嘘だろ……!」

彩香がハンドルを支えるすずを横目で見つめる。


ミラVAN、停止。


ガクンという感触と同時に、静寂が訪れる。

フレッシュの香りだけが生きている。

そして視線の先——ガソリンスタンドの店員が、こちらを凝視している。


「おい!」

シンジが前に身を乗り出す。

「お前ら、手を振るんだ! オレは出られねえ! 外出た瞬間にフレッシュガスが漏れて警察が来る! 地上最大級の放出になる!」


「何その人体放射能みたいな扱い……」

すずが乾いた笑いをもらしつつ、手を振る。

彩香も続く。

「おーい! すみませーん! 助けてくださーい!」

半ばヤケ気味の叫び声が、蒸し暑い空に響いた。


ミラVANの中。

全員、汗だく。

ぐにゃぐにゃと香りが立ち昇り、脳が焼けそうになる。

まるで高温サウナの中で、芳香剤を爆破したような状況だった——。

◾️◾️◾️◾️◾️

ここからは、

清楚系、松山弁コメンテーターなっちゃん

ピチピチ系、関西弁インフルエンサーカナちゃんの振り返り番組“なっちゃんカナちゃん”


カナ「いやー今回も緊迫してたなあ!」


なっちゃん「ほんまよ!もう車内がヤバいって、ほんまに蒸し焼きやん!」


カナ「あれな!もう“フレッシュガスサウナ”よ!」


なっちゃん「なぁにそれ、ヤバすぎるネーミングやん!」


カナ「でもこれで商売したらいけるんちゃう?“変態専用サウナ・フレッシュガス風呂”!1時間一万でプレミア席完売!」


なっちゃん「リピーター8割!年商100億、脱税で逮捕されて伝説残すやつやん!」


カナ「女は辛いで!あんな状況で“嬉しくない密着”されてもなぁ!」


なっちゃん「うちらやったら秒でキレるでほんま。いや嬉しない!暑いわ!くさいわ!」


カナ「で、窓開けたらヤバいやん?」


なっちゃん「あれやろ?フレッシュガスが“ドライウェルベント”されてまうんよ!」


カナ「おまっ……原発かいな!!事故起きるわ!」


なっちゃん「サイレン鳴って、サービスエリア封鎖よ、封鎖できませーん!」


カナ「ほんでシンジ出た!変態セクハラ発言連発や!『この暑さでお前らのフレッシュも大分価値が上がってるんじゃねぇか?』ってなぁ!」


なっちゃん「いや上がってそうなのよ、そこがまた腹立つんよ!」


カナ「彩香、ボコりたくても殴れんというジレンマ!」


なっちゃん「床に寝てる変態の正しい使い方がわからん!」


カナ「で、おっと!ついに来たで――ガス欠!」


なっちゃん「すず!ニュートラルにしてクラッチ切って、冷静かつ有能な女!」


カナ「しかもMT車やで?最近の若い女子で運転できるのレアや!」


なっちゃん「あたしならクラッチ踏まずにエンストして終了やわ!」


カナ「で!岡崎サービスエリア見えた!あと400m!」


なっちゃん「も〜見えてるのに届かんのが一番つらい!」


カナ「フレッシュ香を漂わせながら進むミラVAN!遅っっっそ!」


なっちゃん「まるで“性的煮詰まりながら進む戦艦”やん!」


カナ「ちょ、誰が乗りたいねんそれ!」


なっちゃん「で、シンジ!押さんかい!お前が押せや!」


カナ「けど出られへんねんて、フレッシュガスが漏れんのよ!」


なっちゃん「なるほどなぁ〜!あの袋10個分の爆淫香やろ?開けた瞬間、鳥が墜落するって噂やもん!」


カナ「呼吸困難不可避!即通報、救急車、報道ヘリ来る流れや!」


なっちゃん「結果、すずと彩香が手ぇ振って店員呼ぶって!」


カナ「あの場面だけ見たら、可愛い女の子が助け求めてる神展開やけど、」


なっちゃん「実際は“フレッシュ満載バン”の搬入協力要請やからね?!」


カナ「で、問題はそこや!店員が近づいたらフレッシュガスの香りでヤバいことになる!」


なっちゃん「ガソリンスタンド中に匂い充満して、給油口からフレッシュ入れられそう!」


カナ「いや入れんな!」


なっちゃん「それにな、窓開けてお金渡さなあかんやろ?」


カナ「爆淫香開放イベントやん!サービスエリア封鎖される未来見えたわ!」



なっちゃん「さてさて、今回の放送に寄せられた視聴者の反応もご紹介していきましょう〜!」



視聴者A:サウナってレベルじゃねぇ!

カナ「ほんまやで!これもう拷問やって!」

なっちゃん「しかも密閉空間!香り密度98%!」



視聴者B:爆淫香でドーベルマンが気絶しました

カナ「どこで開けたんよ!やめたって!犬やぞ!」

なっちゃん「爆淫香って動物検知不可能やけんね。もう“五感の暴力”やわ!」



視聴者C:すずちゃんに惚れました

なっちゃん「わかる〜!ハンドル重いのにがんばって!しかもあのパニック状況で冷静よ?」

カナ「できる女や。たぶん副業でトラック乗ってるであれ!」



視聴者D:シンジ、マジで出ろ!そして押せ!

カナ「国民の総意やで!」

なっちゃん「あいつ出たら、店員が鼻つまんで逃げるけん!」



視聴者E:フレッシュ運搬って合法ですか?

なっちゃん「合法なわけないやろぉぉお!!!」

カナ「つい出たな松山弁!テンション上がってきた証拠や!」



視聴者F:あの匂い、瓶詰めで売ってほしい

カナ「おるおるおる!絶対こういうの出てくるねん!」

なっちゃん「フレグランス商品として出たら“鼻の倫理”が終わるけん!」



カナ「いやー、今回も最高でしたわ!」


なっちゃん「まだ続くけんね!ミラVAN、東京着くまで何が起こるか分からんけん!」


カナ「次回の“爆香事故”も期待しつつ…この辺でお別れです〜!」


なっちゃん&カナ「ほなまたね〜〜〜!!」

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