彩香とすず
国道23号線──。
桑名市小貝須付近。朝の6時30分。
東の空がじんわりと薄橙に染まり、長かった夜がようやく明けようとしている。
助手席のポリ袋が、こぽ…と微かに鳴った。
袋の口はシンジが結んだことで封じられているが、内部の空気圧に押され、まるで生きているかのように少しずつ漏れ出している。
シンジの鼻腔に、“爆淫香”がぶわっと届いた。
それは目玉を覚ます芳香──いや、衝撃。
脳に直接、快楽のトリガーを引く純度100%の女の匂い。
「ぐはっ…! こ、こいつぁ…濃すぎる…ッ」
背中に汗がじっとりと滲む。
夢うつつだった意識が、瞬時に戦闘モードに切り替わった。
ミラVANは赤信号で停止中。
フロントガラスの向こう、左手に見えるのは──
《ギロチン工場》
血の気の引くような、どす黒い赤文字の看板が、廃墟ビルのような建物に掲げられている。
「はぁ? ギロチン工場? ふざけんなよ、朝っぱらから縁起でもねぇ…」
心なしか、首元がゾワッとする。
「まるでオレの末路を暗示してるみてぇじゃねえかよ…」
そんなことをボヤいていた時だった。
コツン──。
「ん? 今の何だ…?」
小さな衝撃を感じて、バックミラーを覗くと、後ろの車──日産ノートが近づきすぎていた。
そして、その運転席から女性が降りてくる。
細身で、スッとしたワンピース姿。
アッシュグレーのロングヘアが朝日を浴びて煌めいた。
「すいませーん! ちょっとボーっとしてて、当たっちゃいました〜」
シンジの眉が跳ね上がる。
「うそだろ…よりによって今…オレ、フレッシュ輸送中なんだぞ!? 何で今なんだよ!」
「すみません、もしよかったらお車、確認してもらえますか?」
まずい。
ドアを開ければ、あの芳香が一気に車外に漏れ出す。
「…くっ、でも応じねえと怪しまれるか…!」
シンジは意を決してハザードを点けた。
そして、奇跡的なタイミングで光速ドア開閉──車内の圧を利用し、なるべく“フレッシュエアー”が漏れないよう、職人技で出る。
だが、ポリ袋のひとつがフワッと揺れた。
中の淫香が、焼酎を燗した時のように、白くゆらゆらと浮き上がり──
「ッ…やばい…鼻の粘膜やられる…ッ!」
しかし、女性はまるで気にした様子もなく、申し訳なさそうに言った。
「本当にすみません。気付いてブレーキ踏んだんですけど、ちょっとだけ当たったかもしれなくて」
(おお…わりと可愛いじゃねぇか。目元ぱっちり、胸もけっこうあるな…)
(これワンチャン…首痛いとか言って、ラブホ誘って…『あっ、横になったら治るかも』なんつって…くくく)
シンジは、芝居がかった表情で首を押さえる。
「けっこうドーンと来たぜ、おい…。なんか首がジンジンして来たしよぉ…」
すると女性は、パチンと表情を変えた。
「わかりました。警察と救急車、今呼びますね」
「へっ…? いや、それはちょっと…」
(警察はマズい、救急もヤバい。車の中にアレが…!)
「そ、そんなに痛くねえから! 呼ばなくていいからよ、な? 代わりに…そ、添い寝でもしてくれたら治るっつーか…」
女性はまったく取り合わず、車の後方へ向かい──
「ちょっとこの辺、確認してもらえます? そんなに目立った損傷じゃなさそうですけど…」
しぶしぶ、シンジもミラVANの後部フェンダーを覗き込む。
「まあ…元々ボロだしよ、気にしてねえけどさ…いや、それよかやっぱり首痛ぇし、吐き気もしてきたし…どっか静かなとこで介抱してもらえねぇか──」
その瞬間だった。
──ブウゥゥゥン…!
「え?」
エンジンの音がした。
そしてミラVANが、スーッと、まるで幽霊でも乗ってるかのように前進していく。
いや、運転席に人影がある。
「お、おい!? ちょ、ちょっと待てって!! おいぃぃぃ!!!」
シンジは反射的に全力疾走。
呼吸が荒くなり、額に汗が噴き出す。
ミラVANはもう、100メートル先の交差点を右折して消えていった。
「ハァ…ハァ…な、なんだよ…なんでだよ…!」
「くそっ…! ノートの女は!?」
振り返ると、件のノートが自分の真横をスッと通り過ぎた。
運転席の女──先ほどの可愛い姉ちゃんが、ニヤッと口角を上げる。
「………はめられた……!」
崩れ落ちそうになりながら、膝に手をつく。
「オレが…ハメるつもりだったのによォォォ!!! くっそォォォ!!!」
「フレッシュちゃんがああああ!!! 盗られてしまったああああ!!」
──そのころ。
日産ノートの中で、先ほどの女・すずはBluetoothイヤホンで通話中。
「上手く行ったわね、彩香」
電話の向こうから、フレッシュ満載のミラVANを運転する彩香の声が返ってくる。
「ホントね。あんなに簡単にいくとは思わなかった。ほんとバカね、シンジって」
すずが鼻で笑った。
「聞いてた通り、下心丸出し。ラブホに誘ってきたわよ?」
「(笑)あーははっ。ちょっと引くわ、それ」
「でも彩香、その車、匂わないの?」
「うん、まあ……けっこうプンプンするけどさ。私、女だから大丈夫。ムラムラはしない」
「なるほどね。男って、洗濯前の下着の匂いで興奮するんだもん。ホント、どうしようもないわ」
「バカな生き物よね(笑)」
「じゃ、また後で。あの場所で」
通話が切れた。
ギロチン工場の影が、シンジの背中に重く伸びていた。
朝の空は、すでに明るかったが──
シンジの心は、漆黒のままだった。
──つづく。
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ここからは、
清楚系、松山弁コメンテーターなっちゃん
ピチピチ系、関西弁インフルエンサーカナちゃんの振り返り番組“なっちゃんカナちゃん”
なっちゃん「うわああああ!!出た出た出たぁぁぁ!!彩香とすず出てきた!!」
カナちゃん「キターーーッ!!!このドラマの重要人物やんけ!!はよ出んかな思てたら、ここで登場とか熱すぎるやろ!!」
なっちゃん「しかもただの登場やないんよ!彩香ちゃん、ちゃっかりハンドル握っとるやん!シンジの大事なフレッシュごっそり持ってっちゃったんよ!!」
カナちゃん「そうそう!すずもさあ、降りて来てちょっと謝るだけか思たら、ニヤッて…!あのニヤリ、完全に“悪女の口角”やで!!」
なっちゃん「まるで舞台袖で控えとったラスボスが、満を持してドーンって出てきた感じよ!しかも朝焼けの23号線でやけん、余計に映画チックなんよ!」
カナちゃん「せやなぁ!しかも“ギロチン工場”を背景にしとんのもえぐい。縁起でもない看板を背負っての女二人登場とか、もう『こっから首飛ぶで〜!』って宣告みたいやん!」
なっちゃん「うわーほんまや!彩香とすずって、この物語の“運命の双子星”やなぁ。出た瞬間に空気が変わったわ」
カナちゃん「しかもすずが言うやん、『男って下着の匂いで興奮するんだもん』って。そこをサラッと毒づくの、女目線でズバッと刺さるやつ!」
なっちゃん「シンジの“ハメたろ”思とった下心が、全部返り討ちにされとんよ!『はめられたぁぁぁ!!』って叫ぶ姿、情けなさと哀れさと…笑い止まらんかったわ!」
カナちゃん「ほんまやで!男の見栄と欲望がバッサリ切り捨てられる瞬間や。ギロチン工場の前やし、演出バッチリすぎる!」
なっちゃん「これから彩香とすずがどう動くかで、物語が一気に加速するんよ!燃料追加!ブースト点火!みたいな瞬間よ!」
カナちゃん「ほんまほんま!これまでが序章やったら、今からが“本編開幕”やな!!」
なっちゃん「うわぁ楽しみすぎる〜!もう心臓がオメガカーブ並みにぐわんぐわん回っとるんよ!」
カナちゃん「こっちもアクセル全開や!視聴者のみんなも、腰浮いて正座してるんちゃう?」
なっちゃん「ほなここで、視聴者からのはがき紹介していくけん!」
カナちゃん「おっ待ってました!まずは一枚目や!」
なっちゃん「『シンジが叫ぶたびに、うちの飼い犬が一緒に遠吠えします。近所迷惑です。どうにかしてください』」
カナちゃん「おもろいなぁ!シンジの絶叫、犬の周波数にも刺さるんかい!まるで“フレッシュ電波塔”やん!」
なっちゃん「続いてはXのコメントや!『すずのニヤリ、冷蔵庫開けたらプリン取られた時の姉の顔と一緒でした』」
カナちゃん「わかる!あれは“姉ムーブ”や!シンジは完全に弟ポジションやな。プリン取られて泣く弟…哀れすぎるやろ!」
なっちゃん「お次は『彩香の運転シーン、なぜかF1観戦してる気分になりました』やって!」
カナちゃん「せやな!F1どころか“フレッシュ・グランプリ”や!ブンブン匂い撒き散らしながらトップ独走中や!」
なっちゃん「こっちもあるよ!『シンジの“はめるつもりがハメられた”は、まさに平成の男の縮図』」
カナちゃん「ほんまそれ!男の浅知恵がブーメランみたいに首元に突き刺さってるやん!ギロチンやなくてブーメラン処刑!」
なっちゃん「ラストのコメント、『ギロチン工場の看板、あれ絶対伏線やろ。次は首飛ぶんちゃう?』」
カナちゃん「いや〜、ありそうやなぁ!“運命の断頭台”感、プンプン匂っとるし!」
なっちゃん「視聴者も気づいとるんやねぇ!彩香とすずの初登場で、物語はギロチン工場の刃みたいに切れ味増してきたわ!」
カナちゃん「ほんまや!さあ次回、シンジの首が飛ぶんか、それとも別のもんが飛ぶんか、ワクワクやな!」
なっちゃん「以上、なっちゃんカナちゃんの大興奮レビューやったよ!」
カナちゃん「ほなまた次回まで、シートベルト締めて待っといてや!」
なっちゃん「首が飛ばんようにな!」
カナちゃん「せやせや!」




