悪魔のささやき
【神戸 午前1:00】
夜の神戸。
歓楽街の通りには、すでに人影もまばら。
ネオンだけが、滲んだ光で道を照らしている。
ふらつく足取りでシンジが歩いていた。
黒いコートの裾を引きずりながら、頭の中は怒りと後悔とアルコールでぐちゃぐちゃだ。
「クソ……琴音のやろう……まんまとハメやがって……」
吐き捨てるように言葉が漏れる。
「本当はオレが、ハメるつもりだったのによ……」
酔いのせいか、声が裏返った。
スマホを何度も確認する。
スクリーンには、返事のないLINEの履歴。
「なぁ、今からどっか行かね?」
「まだ飲もうぜ」
「オレ、今日いろいろ入れたよな?」
既読すらつかない。
琴音の影は、完全に闇に溶けた。
「……ふざけんなよ」
地面を蹴りたくなる衝動をこらえて、ヨロヨロと歩き続ける。
重い頭を抱えながら、途切れ途切れに自分を呪う。
「このままトボトボ帰れるかよ……でも……金が、ねえんだよ」
財布を開ける。
カスみたいな小銭しか入っていない。
ポケットに手を突っ込んでも、レシートとガムの包み紙が出てくるだけ。
「せっかくスロットで10万も勝ったのによ……」
口の中が乾いて、舌がくっつきそうだ。
「それだけじゃねえ。働いて稼いだ一万も……ぜんぶ……消えた」
頭がぐるぐる回る。
「なんで最初から……ソープ行かなかったんだ、バカヤロウが」
呟きながら、足を止める。
横に、24時間営業のサラ金ATMがぽつんと光っていた。
機械の青白い照明が、シンジのやつれた顔を浮かび上がらせる。
「……クソ、ここで2万借りたら……立ちんぼぐらい行けるだろ」
ぼそっと独り言。
だが、すぐに苦い記憶が蘇る。
「でもなぁ……前にたった3万借りたときだって……死ぬほど返済苦労したしな」
あの時の、自転車操業の地獄。
給料日には利息で消え、また借りて、また減って……。
「結局3万借りて、6万返した……バカだろ、マジで」
ATMに手を伸ばしかけ、拳をギュッと握る。
「今、返すあてもねぇ……仕事もねぇ……もうあんな思い……ごめんだ」
乾いた笑いが漏れる。
「金さえあればなぁ……金さえ……」
再び歩き出したシンジは、知らぬ間にソープ街へ迷い込んでいた。
全ての店はシャッターを下ろし、看板の明かりも消えている。
ただ、あちこちの電柱に、妙な張り紙だけが残されていた。
ふと、その一枚に目が留まる。
《男性スタッフ募集》
《高額支払い可能》
《月収200万以上可》
シンジは、立ち止まった。
「……おいおい、月200万とか……あり得ねぇだろ」
声に出して、鼻で笑う。
そんなうまい話があるはずがない。
でも、今のシンジには、それがどんな胡散臭い話でも、妙にリアルに見えた。
「なんなんだよこの仕事……」
張り紙には、電話番号と《24時間電話可》の文字。
シンジはスマホをポケットから取り出すと、ちらちらと画面と張り紙を見比べた。
「でもなぁ……月200万……稼げたらすげぇじゃん」
ポケットの中の財布が、ペラペラと音を立てる。
現実が冷たく突き刺さる。
「どうせ、危ない仕事だろ?法のギリギリ……」
それでも、迷う。
「でもなぁ……仕事もねぇ……金もねぇ……」
誰もいない夜の街。
風が吹き抜け、シンジの髪を乱す。
「失うもんなんて、もうねぇんだよな……オレ」
スマホをぎゅっと握りしめる。
親指が、電話アプリのアイコンに滲む汗で滑った。
張り紙の番号を、じっと見つめる。
まるで、魔法にかかったみたいに。
そのまま、動けなくなった。
◾️◾️◾️◾️◾️
ここからは、
清楚系、松山弁コメンテーターなっちゃん
ピチピチ系、関西弁インフルエンサーカナちゃんの振り返り番組“なっちゃんカナちゃん”
(オープニングジングルのあと、スタジオには可愛い衣装のなっちゃんとカナちゃんが座っている)
カナちゃん「ヘッ!見たぁ?シンジのやつ、無一文でヨロヨロ歩いてやんの!」
なっちゃん「金目のもん、ICOCAだけやて。しかも、チャージ額300円ぐらいって、何買えるん?駅のジュースすらギリギリやん!」
カナちゃん「琴音ちゃんに怒っとったなー!『ハメるつもりがハメられた』って、何それ、昭和のオヤジギャグか!」
なっちゃん「お下劣なぞかけ爆誕しとるがな〜!あんたハメ技失敗やんか!」
カナちゃん「ほんでLINEフル無視やろ?もう琴音ちゃん、たぶん明日ぐらいに“楽しかったぁ!”とか送ってくるやつやん!」
なっちゃん「うわ〜、『シンジさん寝ちゃったから琴音アフター楽しみにしてたのにぃ』とか言うて、またシンジ騙される未来しか見えん!」
カナちゃん「シンジ、秒速で信用するやろな!」
なっちゃん「スロットで勝った10万も、一瞬で溶かしよった!まさに悪銭身につかず!」
カナちゃん「ほんまそれ!しかも『最初からソープ行けば良かった』って、後悔先に立たずやで!」
なっちゃん「いやいやいや!ぺぺ行くって決めたん、あんたやろが!」
カナちゃん「誰も引き止めてへんしな!自由意志や!」
なっちゃん「おっとここで、サラ金ATMと遭遇!」
カナちゃん「ついに、禁断の果実に手出すんかぁ?!」
なっちゃん「立ちんぼで立ち直るつもりか思たわ〜!」(大爆笑)
カナちゃん「うまいこと言うたなー!」
なっちゃん「いや、たまたまや〜!(松山弁)」
カナちゃん「転んでもただでは起きへん。成功でなぞかけする?」
なっちゃん「やめとこ、放送事故なる」
カナちゃん「で、サラ金踏みとどまったんは意外やったな!」
なっちゃん「理性残っとったんか、シンジ!今さらかい!」
カナちゃん「でも勝手にソープ街進んで行くシンジ……動物か!」
なっちゃん「嗅覚だけで生きとる〜!」
カナちゃん「ほんで何あの張り紙!」
なっちゃん「月収200万?絶対怪しいやつやん!」
カナちゃん「アレやで?地雷踏み放題バイトやで絶対!」
なっちゃん「でもな、シンジもう失うもんないからなぁ……無敵の人モード突入しとる!」
カナちゃん「24時間電話可!シンジ、押すか?押すんか?!」
なっちゃん「ドラマが動き出す気配、バンバンするなぁ!」
(BGMが変わり、「視聴者リアクションタイム」へ)
カナちゃん「ここで、みんなからのコメント大公開やでー!」
なっちゃん「楽しみやなぁ!」
カナちゃん「まずコレ!」
《シンジ、悪運だけで生きてる感ハンパない》
なっちゃん「ほんまや!シンジ、運だけでここまで泳いどる金魚や!」
カナちゃん「次コレ!」
《琴音ちゃん、詐欺師としてプロ》
なっちゃん「詐欺界のニューウェーブやな、琴音ちゃん!」
カナちゃん「これも来てる!」
《サラ金ATM前で哲学してるシンジ草》
なっちゃん「サラ金ATMの前で人生見つめるなっちゅう話やろが〜!」(松山弁)
カナちゃん「次!」
《張り紙に釣られかけるシンジ、もはや深海魚》
なっちゃん「暗いとこで光るもんに飛びつくタイプやな、シンジ!」
カナちゃん「まだまだ来とるで!」
《300円ICOCAで夜の神戸生き残るとか仙人》
なっちゃん「もはや修行僧やん!夜の六甲山でも生き延びそう!」
カナちゃん「こんなんも!」
《立ちんぼで立ち直るとか言ったカナちゃん天才》
なっちゃん「ウチも今夜めっちゃ笑た!あんた今日キレッキレやったな!」
カナちゃん「やろやろ?!」
なっちゃん「テンション上がったら、もう松山弁止まらんかったわい!」
カナちゃん「なっちゃん、地元全開で喋ってたで!」
なっちゃん「ほやけん、しゃーないやん!おもろすぎたもん!」
カナちゃん「いやほんま、視聴者のみんなのおかげやわ〜!」
なっちゃん「こんなふうに、これからもシンジの転落ストーリー、追っかけていくけん!楽しみにしとってな〜!」
カナちゃん「ほな、また次回も見てや〜!」
(エンディングジングル)




