阿波座カーブ
──深夜1時45分、生田川ランプ。
神戸の都心部を抜けたミラVANが、老体にムチ打つかのように唸り声をあげ、急なランプの坂道をもがくように登っていく。
車内の空気は異様に重い。いや、正確に言えば濃密だ。なにしろ後部座席には、愛の織布──それも“フレッシュ”仕様のものが、ポリ袋に小分けされて10袋も鎮座しているのだから。密閉されているはずなのに、漂うのは何ともいえない甘やかでかつ妖艶な匂い。どこかで嗅いだことがあるような……いや、ない。これは禁断の何かだ。
ハンドルを握るシンジの顔は、ランプの街灯に照らされ、若干引きつっている。
シンジ「そういやこの車、ETCちゃんとあるんだろうな?……え?ない?……マジかよ!どこにもねえじゃねえか!おいおい、今どき……窓開けるとか、マジで勘弁してくれよ……!」
頭を抱えたのも束の間、ミラVANは料金所のゲートの前にぴたりと止まる。真夜中のため、他の車はない。無音の中、シンジの独り言がやけに響く。
シンジ「やべぇな。窓を開けたら……このフレッシュの匂いが……ドバァッといっちまうだろ……?いやいやいや、通報とかされたらアウトだろ、これ。かといって突破する勇気もねえしな……」
決意したように、シンジは窓を1cmだけ開ける。その隙間から、折り曲げた一万円札をねじ込む。料金所の係員が、怪訝な顔で近づいてくる。
係員「……? あの、どうされました……?」
その瞬間だった。係員の顔がピクリと動いた。鼻がわずかにヒクつき、目が見開かれる。
シンジ(心の声)「あっ……やべぇ……このわずかな隙間だけで……もう気づきやがった!なんだよその顔!驚きすぎだろオッサン!」
係員は無言で釣り銭を用意するが、視線は一切ミラVANから離れない。ガラス越しに、中の袋たちを凝視している。
シンジ「ちょっ、オイ!札ならこの隙間でいいけど、小銭は無理だって!オッサン!もうそれはいいから、受け取っといてくれ!!」
係員の手が釣り銭を差し込もうとした瞬間、香りの波がフワリと押し寄せた。まるで、古都の白梅が開いたかのような濃密な匂い。係員の表情が一変し、恍惚とした微笑みに染まる。
係員「……(クンクン)……これは……何とも言えない……極上の……」
シンジ「オイ!やめろ!吸うな!変態か!」
堪らずシンジは、アクセルを踏み込んだ。ミラVANは急発進し、料金所を飛び出す。背後に残された係員は、まるで夢から覚めたように、その場にうずくまり、名残の香りをクンクン……クンクン……。
その瞬間、ミラVANの後部で袋が転がった。破裂こそしていないものの、結び目が緩んだ袋から、新たなる“波”が放たれた。
シンジ「うわやべぇ!さらに発酵が進んでねえか!?濃くなってる……!これは完全に、熟成系だろ!シャトーブリアンか!」
阪神高速3号神戸線を、ミラVANは東へ疾走。左に港の明かり、右に高層ビルの灯り。遠くには、天保山の観覧車がぼんやりと浮かぶ。
やがて、名神高速との分岐点──西宮JCTが迫ってくる。
シンジ「このまま名神入ったら……ガス欠、間違いねえ……しかも高速で止まったら警察沙汰か……ってことは、このフレッシュたちも没収だろ!バカか俺は!名神回避だ、阪神高速で大阪市内に突っ込むぞ!」
シンジは車線変更し、阿波座カーブを目指す。コンクリートの左湾曲が続く阿波座カーブを、ギリギリのスピードで曲がる。重心がぐらつくたび、袋がコロコロ……。
シンジ「やべっ!また転がった!頼む!頼むから破れるなよ……!これ以上、放出されたら俺の理性がもたねえ!!」
大阪市西区のビル群が視界に入った頃、阿波座出口を降りる。朝の静けさが訪れる直前の、濡れた路面と点滅信号が、どこか不穏な気配を漂わせている。
シンジ「よし、ガソスタ……あったあった。セルフだ。こんな時間、誰もいねえ……これはラッキー!」
車を止め、ドアを開けた瞬間。
ボワッ──。
夜の空気に、一気に解き放たれたフレッシュの熟成香。まるで花開く蜜のような、あるいは舞い上がる夜桜のような……人智を超えた芳香が、周囲に広がる。
そのときだった。どこからか、野良犬の吠え声が響く。
ワン! ワンワンワンワン!!
あっという間に、近くの影から野良犬が集まり始めた。しかも──すべてオス。
シンジ「ちょ、オイオイオイ!何だよお前ら!?人間だけじゃねえのか!お前らまで嗅ぎつけてくるのかよ!」
ひとまず給油を始めるシンジ。ガソリンのノズルを握りながらも、周囲に集まる野良犬たちをチラチラと確認。
シンジ「やべぇ……完全に目がイっちまってるぞ……しかも全員オス!オイお前ら!盛ってんじゃねえよ!!」
ミラVANのボディに飛びつこうとする犬たち。車体をカリカリと引っ掻き、鼻をドアの隙間に突っ込もうとする者まで。
ようやく給油が完了し、慌ててドアを開ける。
その瞬間、犬たちが一斉に飛びかかってくる!
シンジ「うわああああ!!やめろ!これはな、人間様だけが嗅ぐもんなんだよ!犬畜生が嗅いでいいシロモンじゃねえ!!」
乱戦の中、シンジは車内に転がり込み、ドアをバンッ!と締める。
ボフッ!!
車内の空気圧が一気に変わり、さらに濃密なフレッシュの匂いが噴き出す。野良犬たちはそれに狂喜し、車を追いかけ始めた。
シンジ「うおおおおおい!!来るな!!ちくしょう!!信号?知らねえ!!」
赤信号を突き抜け、深夜の大阪の街を、ミラVANは全速力で逃げていく。
その後ろには、フレッシュの匂いに魅了された野良犬の軍団が、疾走する──。
(つづく)
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ここからは、
清楚系、松山弁コメンテーターなっちゃん
ピチピチ系、関西弁インフルエンサーカナちゃんの振り返り番組“なっちゃんカナちゃん”
(オープニングジングル:チャチャッチャッチャ〜〜ン!)
「なっちゃん・カナちゃん」今夜もはじまるで〜!!
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【スタジオセット:観葉植物とパステルカラーに囲まれたカフェ風。テーブルの上には怪しげなボンベ状の筒。】
カナちゃん(大阪弁):
ちょっとなっちゃん、今日のドラマ……ヤバなかった??
なっちゃん(大阪弁→途中から松山弁):
ヤバかった!!いやもう……今まででいっっっっっちゃんアホやった!
なあ!恋もない!胸キュンもない!あるんは!ただのフレッシュと!ミラVAN!!
カナ:
ほんまそれ!恋も涙も消えて、残ったんが「圧縮された匂い」て何やねん!!
なっちゃん(じわじわ笑いながら):
しかもやで?あれただの「パンツの匂い」やのに、犬が10頭くらい興奮して襲来して来るやん!?
どんだけ生物兵器やねんっちゅう話よ!!
カナ:
あれもう、「メスの本能を超えて来る香り」やで。
「ヒートシークフレッシュ」言うてな、獲物(オス犬)を自動追尾すんねん。
なっちゃん(完全に松山弁):
うちはのぉ……あのミラVAN見た瞬間、「走るパンティ箱」か思たけん!!
もうアホ超えて妖怪やが〜!!
カナ:
妖怪「愛の織布カー」な!?夜道で遭遇したら絶対あかんやつやん!
なっちゃん:
シンジもシンジでさ、「窓開けたら漏れる!!」ゆうて、満員電車の屁くらいビビっとったが〜!
料金所のオッサンの鼻ぴくっぴくっ!!犬の吠え方もリアルすぎて腹痛かったわ!
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【小道具登場:机の上のボンベ状の物体を指差して】
カナ:
ちゅうことで!!今日はこれ用意しましたーーー!!
なっちゃん:
えっ、うそやろ?まさかこれって……!!
カナ:
そう!「ミラVAN内部空気、通称:フレッシュエア」でございます!!(爆笑)
なっちゃん:
やばいってこれ!!マジで実在したん!?怖っ!!
えっ、これほんまに嗅ぐん!?
カナ(スタッフに確認):
これ圧縮されてる?……あ、されてない?それは逆に怖いって!!
じゃあこのカフつけてください〜〜
なっちゃん:
ちょちょちょ!!ウチもあんたも女やん!?フレッシュは女に効くん!?あれ!?効かんの!?効くん!?どっち!?
カナ:
それは嗅いだときにわかります!!!(ドヤ顔)
(スタッフ、バルブをひねる)
なっちゃん:
………………あっかぁぁぁぁぁん!!甘い!!酸っぱい!!いや甘酸っぱい!?いやッッくっさ!!!いや、ウチこれ、初恋の匂いじゃなくて、「人生の闇」やわ!!
カナ:
ちょ、おま……大丈夫!?
(クンクン)
うっっわ!これ、シンジあれでまともに運転しとったん!?人間やないで!?もはや「フレッシュ依存症」のゾンビやん!!
なっちゃん:
ていうか、これ、「嗅覚でシンジの人生を感じる」やつやが〜!!脳にフレッシュが直接届いたけん!!
カナ:
あかん今日は終わり!スタッフも鼻押さえてるし、今このスタジオが第二のミラVANやからな!!
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【視聴者の反応コーナー】
なっちゃん(スマホ持って):
はい!じゃあここで、今日の視聴者リアクション紹介しま〜す!
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※ハンドルネーム:「チワワのパパ」さんより
「犬10匹の中にチワワも混じってて、最後だけ震えてたの見逃しませんでした(笑)」
カナ:
やっっっば!!震えるチワワ、唯一の理性枠やん!!
なっちゃん:
「ボクはまだ理性あるで…」って顔してたよなぁ!でも無理やった!フレッシュの匂いには勝てんかったんや〜!!
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※ハンドルネーム:「織布LOVE48」さんより
「愛の織布、今夜から見方変わりました」
カナ:
それな!パンティちゃうで、もはや「魂を封印する布」や!!
なっちゃん:
なんか式神みたいなもんやが〜!陰陽師もびっくりやて!
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※ハンドルネーム:「課長のハンカチがフレッシュ臭」さん
「うちの職場にいるんです、たまに『あっ…これは洗濯前やな…』っていう空気の人!」
カナ:
ヒエーー!!現実におるん!?それもうミラVAN乗って来とるやん!!
なっちゃん:
それ、課長やないで!実はシンジやが〜!?(爆笑)
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※ハンドルネーム:「夜勤明けのシンジ」さんより
「俺も香りに包まれたい…けど生き残れる自信がない…」
カナ:
そらそうや!犬すら正気失ってたのに、人間が耐えられるか!!
なっちゃん:
包まれたら最後よ…人生一回フレッシュ吸ったら戻られんけんのう〜(松山弁)
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カナ:
ほんっま、今回のドラマ、なんちゅうか、「脳がフレッシュに侵される恐怖」やったな!
なっちゃん:
笑いながらも最後ちょっと怖かったけん……ほんまに……
「人生って、匂いで狂うんやなぁ」って思ったわ……
カナ:
名言出ました!!
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(ジングル♪)
「なっちゃん・カナちゃん」!また次回お会いしましょ〜!!
フレッシュにご用心やで〜!!
(スタジオ:ファブリーズ撒きながら大混乱)




