第一関門突破
舞のレディースマンションの下。夜風がビル風に乗って冷たく頬を撫でる午後9時40分。
その足元に、ひとつの段ボールが静かに転がっていた。
「Amazon」のロゴが月光を弾く。
シンジがそれを拾い上げる。慎重に、けれども異様な手慣れた様子で。
シンジ
「……よし。これでオレはAmazonの配達員ってことになる。え? なるよな? いや、なるってことにしてくれ、頼むから」
ダンボールの底をコンコンと叩く。空箱。中身は無し。だが、それで十分だ。
演出としては完璧。中身なんて要らない。必要なのは“それっぽさ”だけ。
シンジ
「でもマジで、オレこれから本気で行くんか……? 何これ、映画? ドラマ? バラエティ? っていうか捕まるだろ普通に……オレ、数時間後ブタ箱入ってたら笑えるよな、笑えねえよ」
夜のエントランスは無機質な光を放ち、冷ややかにシンジを見下ろしている。
そこにはしっかりと防犯カメラが設置されていた。入口の天井から、無慈悲な目が覗いている。
シンジ
「呼び出して舞が出てきたら……顔バッチリ撮られるわな。ってことは、オレの証拠が全国デビューやん。『不審者、愛の織布狙う』って見出し付きでさ……いや笑えねぇから」
彼は振り返り、周囲を確認する。
通行人はいない。自販機の灯りだけが道を照らしていた。
そのとき――
ひとりの女性が、カチャリと鍵を回し、エントランスを開けて中へ入っていく。
シンジ(小声)
「キターッ! そうそう、それそれ、それしかねぇよ! 後ろから続いて入る作戦! これなら鍵開けてないから犯罪じゃない! ……多分!」
彼は即座に反応したい気持ちを抑えて、しれっとした顔で少し離れた電柱の影へ移動する。
シンジ(心の声)
「オレ、Amazonの箱持ってるからな。配達員だと思ってくれるだろ……いや頼む、思ってくれ……。でも長時間待ってたらそれも怪しいしな……バランス大事」
待つこと数分。
ようやく、もうひとりの女性がマンション方向へと歩いてくる。ハイヒールの音がコツコツと夜に響いた。
シンジ
「お、ねえちゃん来た。これは……いける! この姉ちゃん、鍵持ってる系! よっしゃ、チャンス!」
気配を消しながら、静かに女性の数歩後ろをついていく。
シンジ(心の声)
「ぴったりくっついたら不審者だし、離れすぎたら自動ドア閉まっちまう。……間合いだ、間合いを読め、シンジ!」
女性がエントランス前で立ち止まり、バッグから鍵を取り出す。
カチャリと回し、ドアが開く――。
シンジ(心の声)
「今だッ!!」
走ると目立つ。シンジは少しだけ急いだ速歩きで、女性の後ろを通過するように自動ドアへ滑り込む。
女性が一瞬だけ振り返る。
女性の視線:「あれ? 後ろから来た人……Amazonの人か」
Amazonの箱を持ったシンジ。
それだけで、女は納得したように目線を逸らし、そのまま奥の廊下へと去っていく。
シンジ(心の声)
「ふぉおおぉおおっっしゃああああ!!! 入れたああああああ!!!」
心の中でガッツポーズ。
声を出すわけにはいかないが、心のボルテージは完全にレッドゾーン。
シンジ(小声)
「オレをAmazonの配達員だと思ってる……マジか。これ、完全に“メタルギアソリッド”やん……“段ボール装備・隠密行動・フレッシュ強奪ミッション”……!」
廊下の向こう、女が見えなくなる。
あたりに人の気配は無い。
シンジ
「……オレ、今……合法的にこのマンションに侵入した……ようなもんだな。すげえ。これが、オレの人生で一番頭使った瞬間かもしれん」
彼は深呼吸を一つして、天井を見上げる。
9階──そこに、星野舞の部屋がある。
シンジ
「よし、9階……行くか。でもさぁ……オレ、舞の部屋のピンポン押して、舞が出てきて、“お届け物でーす”ってAmazonの箱渡して、“あら、ありがと”って中入って……そこで“よし今だ!”って舞の背後から襲ってパンティ奪う? 無理やろ、そんなん無理やろ!!」
彼の声が、だんだん震えてくる。想像だけで、胃が痛い。
シンジ
「やっぱ、傷つけたくないんだよな……舞ちゃん。てか、“人にやさしく、金にやさしく”がオレのモットーだし……って、なに偽善ぶってんだオレ。あああああもう!!!」
段ボールを足元に置きながら、頭を抱える。
シンジ
「このAmazonの箱……意味ある? いや、ないやろ! 中身も空やし、舞に渡しても“なんですかこれ”って言われて終わる! っていうか、部屋の中に入らなあかんのに、どうやって入んねん……鍵なんか持ってるわけないし……!」
しばらく沈黙。
薄暗いマンションのロビーで、段ボールの横でうずくまる30代無職男。
シンジ(心の声)
「オレ、こんなとこで何してんだろな……愛の織布、2枚……フレッシュ……たったそれだけが、オレの今の希望ってどうなん……」
彼の視線は、やがて静かにエレベーターへと向かう。
行くべき場所は、決まっている。
だが、その先の手段は、霧の中。
シンジ
「……参ったな、こりゃ」
エレベーターのボタンに指を伸ばす、その手は微かに震えていた。
(つづく)
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ここからは、
清楚系、松山弁コメンテーターなっちゃん
ピチピチ系、関西弁インフルエンサーカナちゃんの振り返り番組“なっちゃんカナちゃん”
カナちゃん
「うわあ!出たでえ、出たでえぇ!シンジ、ついに…ついに舞ちゃんのレディースマンションに侵入やあああ!!」
なっちゃん
「ほんまやー!なんちゅう無音のメタルギアソリッド!Amazonの段ボール持っただけで、配達員フェイク完了って……」
カナちゃん
「もはや合法ちゃうやろ!自分で“侵入”言うてるやん、口がゲロってるねん!」
なっちゃん
「うちも見ててゾクゾクしたわ~。あの感じ…ピンポン押すかと思って心臓止まるか思たわ。ピンポン鳴った時点で、あれは任務終了ボタンよ!ファミコンのリセット押すのと一緒やけん!」
カナちゃん
「うん、それな。あのAmazonの箱、最強のカモフラージュアイテムやったけど、よくよく考えたら“配達先”になんの荷物も届けん男っておるかーい!!」
なっちゃん
「しかも中身カラッポよ!?そのダンボール、中身よりも罪が詰まっとるけん!まるで“罪の重箱”や!」
カナちゃん
「ほんで後ろから入って行く作戦、ようあるやつやけどさ。ドア閉まる寸前にスススって…もはやアサシンや!町娘になりきった忍者!」
なっちゃん(松山弁で)
「シンジの動き、まるで夜の猫よ!あんなん、母ちゃんが夜中に冷蔵庫開けに来た時と同じ足音やけん!」
カナちゃん
「しかも、住人のねえちゃん、配達員や思って通してくれるって…え!?え?え? そんなんアリ!?って一瞬、視聴者全員なったやろ!」
なっちゃん
「だって目的が、“脱ぎたてのパンティ”やけんな?冷静に考えてよ、いまマンションに入ってるこの男、目指してるの下着よ?!」
カナちゃん
「えげつなっ!!でもあの人、妙に誇らしげに“人にやさしく、金にやさしく”言うてるからなあ(笑)」
なっちゃん
「もうキャッチコピーやん!“舞ちゃんに傷つけずに、気づかれずに、脱ぎたてをゲット”て、そんなセンチメンタルスナッチ、聞いたことないけん!」
カナちゃん
「いやいや、傷つけんって言うてるけど…盗られた舞ちゃんのメンタル、ズタズタやからね!?『あたし、なんで…』って朝から洗面所で泣いてるやろ、絶対!」
なっちゃん
「メンタルにトドメ刺すミッションインポッシブルやけん!」
カナちゃん
「次どうするんやろ?部屋に入らんと“フレッシュ”手に入らんし、でも舞ちゃんはおるし…」
なっちゃん
「でももうやめてほしいわー!ドアの外で“やっぱやめとこかな…”ってなるくらいの人間味出してええのに!……出さへんのがシンジやけどな!」
カナちゃん
「ほんで最後、“参ったな”って!え?参るんそっち?そっちに参ってる場合ちゃうやろ!言いながら絶対鼻の下伸びとる!!」
なっちゃん
「もう視聴者も突っ込むどころの話じゃなかったけん!」
――SNS実況コーナー――
投稿1:「ぬれせんべいLOVE」
「シンジ、Amazonの箱で堂々侵入て!段ボールの使い道、人生で初めて見直した!」
カナちゃん
「使い方が…犯罪予備軍や!!」
投稿2:「舞推しの洗濯機」
「舞ちゃんのパンティに“愛の織布”って名付けたやつ、正気か!?ロマンチスト変態にもほどがある!」
なっちゃん(松山弁)
「詩心は感じたけん!でも詩心で盗られたら舞ちゃんブチギレるわな!」
投稿3:「パンティは神聖」
「“人にやさしく、金にやさしく”言うとるけど、やっとること全部逆ぅうう!」
カナちゃん
「その矛盾、ビルの屋上から投げ捨ててええレベル!!」
投稿4:「シンジ観察日記」
「真剣にパンティを求める男に、涙しました。でも通報もしました。」
なっちゃん
「二刀流かっ!?感動と正義の合わせ技や!」
投稿5:「段ボール信者」
「Amazonの箱を背負った時点で、人は神になる。そう、配達の神に。」
カナちゃん
「その人、多分違う宗派やで!!」
投稿6:「まいまい応援団」
「舞ちゃん逃げてーーー!!!て、テレビに向かって叫んでました。てか舞ちゃん部屋におるって怖すぎ!」
なっちゃん
「うちも“後ろ後ろぉおお!”って言いかけたけん!」
――
カナちゃん
「このドラマ、変態のくせに妙に詩的やねん…なんでやろな」
なっちゃん
「そこがクセになるんよ~。変態と詩人のハーフ、それがシンジ!」
カナちゃん
「はよ次回見たいな~!部屋に入るんか?思い直すんか?いや、思い直したらこのドラマ終わるやん!!」
なっちゃん
「次回予告のナレーション、“あなたの知らないパンティの世界が、今ここに…”とか言いそうで怖いけん!」
カナちゃん
「視聴者の皆さんも、パンティは盗らんようにな!!自分で稼いで買いましょ!」
なっちゃん
「うちらからのお願いやけん!ではまた来週も、変態とパンティと情熱の狭間からお届けします~!」
二人
「ほな、またなー!!」
(エンディングテーマと共に幕)




