フレッシュをゲットせよ
【シンジのアパート 20:00】
その部屋は、まるで人間の尊厳を断捨離したあとだった。
コンビニ弁当のカラ、底に茶色い液が溜まったペットボトル、ティッシュが絨毯のように広がる床。
テレビは砂嵐を流し、カーテンは締め切ったまま、空気はやや酸味がかったカビの香りが漂っていた。
布団の中で転がっていたシンジが、ぬぅっと上半身を起こした。
シンジ(髪ボサボサで目ヤニ付き)「……う、うぅ。よく寝たな……って、うわ! もう20時じゃねぇか!! 3日しかねぇっつってんのに、1日目がまるっと終了じゃねぇか! バカかオレ!!」
額に手を当て、天井を睨む。
シンジ「この前金の5万……あの時、スロットで20万に増やしてりゃ……オレ今頃、風呂付きのラブホで琴音と湯船だわ……なんで昼から寝ちまったんだよオレのバカ!」
激しく後悔の言葉を叫びながら、バッと立ち上がる。
下着姿のまま冷えた部屋をウロウロし、ようやくシャワーを浴びにユニットバスへ。
水垢の浮いた鏡に、自分の情けない顔が映った。
シンジ「あぁ〜くそ……でもやるしかねぇ。星野舞ちゃんの“愛の織布”をゲットせにゃあ、次の仕事もねぇ……“愛の織布”て、なんだよそれ。パンティじゃねーか。何を高貴に言ってんだよ。バカか。」
シャワーを浴びながらも口は止まらない。
シンジ「しかも洗濯前て……フェチの暴走が国家レベルでヤバいわ……日本沈没するでホンマ。いや、オレが言うなって? 知ってるわ!!」
シャワーから出ると、ユニクロのヨレヨレTシャツを着て、スマホを手に取る。
Googleマップを開き、野崎から受け取った住所を検索する。
シンジ「ここか……このレディースマンションの9階に、舞ちゃんが住んでるわけね……うーん、顔写真見たけど、めちゃくちゃ可愛かったよな……ハァ……舞ちゃんのパンティ……いや、“愛の織布”……ククッ……」
不気味な笑みを浮かべながら、画面をストリートビューに切り替える。マンションをじっと眺める。
シンジ「なるほど、ここに雨どいがあるな。これ、登れなくもない……が、9階って……命懸けやん。どこの忍者だよオレ……。てか失敗したら即死、成功しても通報。選択肢:地獄 or 地獄。」
視線を移す。マンションの外壁、隣接するビルとの距離、非常階段の位置……まるで泥棒の下見だ。
シンジ「非常階段もロックかかってるっぽいな。ストリートビューじゃ限界あるな……よし、とりあえず現地だ。」
クローゼットを開け、比較的まともな格好を探す。
灰色のパーカーに、2年前に買ったユニクロのスキニー、靴はかかとの潰れたスニーカー。
金はないが見栄は張る男、最後に香水を軽く振った。
シンジ「前金の5万……こいつで今日の足と、必要経費は何とかなる。何の“経費”か知らんけどな……」
小さな肩掛けバッグに財布とスマホ、メモを突っ込んで、夜の街へ出ていく。
──
【電車内(JR神山線) 20:40】
夜のラッシュがまだ尾を引く時間帯。
仕事を終えた人々がスマホに夢中な車内。
シンジは吊り革を握りながら、自分だけが異世界の住人であるような気持ちになる。
シンジ(心の声)「……オレ、何やってんだろな……」
窓に映る自分の顔を見つめる。生気がない。
シンジ「でもよ、これ成功すりゃ次もあるって野崎が……5万が10万になって、10万が……琴音の一晩に変わる。うん、やるしかねえ。」
小さく頷きながら、もう一度気合を入れ直す。
──
【浜町駅 21:10】
改札を出たシンジ。初めての土地ではないが、目的が目的だけに、足取りが重い。
スマホを見ながら歩くその表情には、焦りと興奮、そして微かな罪悪感が同居していた。
シンジ「よし、もうすぐ見えるはず……お、あれか……!」
遠くに、例のマンションが姿を現す。
高層で、夜の照明に照らされたその外観は、まるでラスボスの塔のようだ。
上階のどこかで、舞ちゃんが今、部屋で過ごしているのかもしれない。そう思うと、シンジの心臓は急にドクンと大きく跳ねた。
シンジ「……オレ、今、泥棒の心臓してるな……いや、まだ何もしてねぇ。今日は下見だけだ、下見だけ。」
そう言いながらも、冷や汗がにじんでくる。
手のひらにじっとりと汗が滲み、呼吸が浅くなる。
舞の部屋がある9階を見上げる。風が冷たく頬を撫でるが、額には汗。
不意に、エントランスのオートロック扉が開き、住人らしき女性が出てくる。
シンジ(心の声)「うぉっ、ヤバ、普通に緊張すんだけど……てか、この空気、下手なナンパよりスリリング……」
彼女が去った後、少しだけ近づき、エントランスの中をチラリと覗き見る。
防犯カメラ、二重ロック、テンキー。
シンジ「……む、無理ゲーじゃねこれ……いや、オレがやるしかねぇんだ……!」
鼓動は上がり続けていた。
今日のターゲットに会うわけでも、触れるわけでもない。
ただ、そこにいるという事実が、シンジの脳を熱くする。
舞のレディースマンションの下にある小さな公園。
夜の気配がじっとりと降りてきている。
街灯が点々と灯る中、ブランコが風に揺れ、誰もいないベンチにシンジが座っていた。
マンションの9階をじっと見上げるシンジ。
その顔には緊張と興奮、そして…何とも言えない執着じみた感情がないまぜになっている。
シンジ「……9階の5号室、あの角っこだな。電気ついてる。ってことは……」
ポケットから野崎にもらった小さな写真を取り出し、月明かりの下でまじまじと眺める。
そこには制服姿の星野舞。愛想の良さそうな笑顔が貼りついている。
シンジ「うへっ……マジでカワイイな。こんな子が今まさに、あの部屋で部屋着とかに着替えてんのか? あー、想像するだけでゾクゾクしてきやがる……」
そのとき、ふと見上げた窓の向こうに人影が揺れた。
薄いレースのカーテンが無防備に揺れる。
シンジ「うぉっ、いたっ! 動いたぞ! ……あれが、舞ちゃんか? っかしーな、あの遮光カーテンでもないやつ、どう考えても外から見えてるよな。まる見えだって……。これ、バレたら通報案件だけど、でもよ……逆に言えば、外から丸見えってことはチャンスもあるってことだよなぁ?」
口元をぬぐいながら、シンジは地面に足を組み替える。
シンジ「……でもさ、結局オレは、部屋に入って、しかもあの子がパンティ脱いでから、洗濯機に入れるまでの間に、ゲットしなきゃいけねぇんだよな? オーダーは“洗濯前”の“愛の織布”。パンティだ、パンティ。しかも洗ってないやつ。ってことは、舞ちゃんが部屋の中にいる間に、オレも部屋の中にいなきゃいけねぇってことだろ? 無茶苦茶ハードル高ぇぞ、これ……」
ベンチに座りながら、シンジは頭を抱えた。
シンジ「ってか、そもそも、舞ちゃんがいつパンティ脱ぐかなんてわかんねぇし……夜だよ? 寝る前か風呂入ったあとだろ? ってことは、深夜か。しかもさ、女子ってさ、脱いだらすぐ洗濯機に入れるっしょ? だってニオイ気にするだろ。オレみてぇに3日穿きっぱなしとかないよな? ってことは、猶予時間は数分? 数十分? おいおい、タイミング勝負すぎるだろ」
公園の片隅で、さっきから蚊がまとわりついてくる。
シンジはうるさそうに手を振り払ったが、考えは止まらない。
シンジ「いや、待てよ……それだけじゃない。報酬アップ条件は“2枚”ゲット。フレッシュ2枚……ってことはよ、昨日脱いだやつを洗わずに放置してて、そこに今日脱いだやつを重ねて置いてくれないと、達成できねぇってことじゃねぇか。そんな奇跡みたいな偶然、あんのかよ……」
遠くで誰かのスマホの着信音が鳴った。
カップルが通り過ぎて、楽しそうに笑いながら駅の方へ歩いて行く。
シンジの表情は、その笑い声とは対照的にどんよりしていた。
シンジ「もうこれ、ただの下着泥棒じゃねぇな……なんか、“芸術的犯罪”ってレベルじゃねぇの? っつーか、普通の下着ドロは、干してるやつ盗るんだろ? そっちのほうがよっぽど簡単だよな……。オレが狙ってるのは、脱ぎたてホヤホヤの“生もの”。いわば……“魂のこもった布”……。あれか、これ、もはや戦だな。パンティ戦争だ……パン戦……くくく……って、なに笑ってんだオレは……」
薄ら笑いを浮かべかけて、ふと我に返る。
シンジ「でもよ……冷静になれ、シンジ。まずは部屋に入るルートだ。正面からは無理。裏口もレディースマンションだからセキュリティがガチガチ。非常階段は途中でロックされてるって野崎が言ってたし……雨どい登るか? 9階まで? ……死ぬわ」
マンションを見上げる。
あの小さな窓の向こうに、確かに舞はいる。電気はまだついたまま。
カーテン越しにまた人影がふわりと揺れた。
シンジ「……くそ、あんな可愛い子が、あんな部屋で……オレが手に入れなきゃいけねぇのは、ただの布じゃない。“少女の鼓動の残り香”ってやつだ……くぅぅ、ヤバイ、言ってて自分でもキモい……でも! でもよ! オレは今、人生の岐路に立ってんだ。フレッシュ織布を2枚ゲットすりゃ、ボーナス10万! それがあれば琴音に指名3連発いける! ……そのためなら……オレは……!」
叫びかけて、慌てて声をひそめた。
通行人が振り返る。
シンジ「っは、落ち着け……今日は偵察だけだ。まだあと2日ある。焦るな、オレ……そう、オレは冷静な大人。やるべきことは、まずは“ルートの確保”だ。あとは“タイミングの見極め”。そして“実行”。任務は慎重かつ大胆に……なっ!」
夜の闇の中、公園のベンチに佇むその姿は、まるで特殊部隊のスカウトマン――などではなく、ただの無職男。
だけど今だけは、自分をスパイ映画の主人公と重ね合わせ、勝手にミッションの鼓動を高鳴らせていた。
シンジ「……よし、今日はここまでにしとこう。あの部屋、窓が狙えそうかもう少し近づいて確認してから……飯、食って帰るか。あ、松屋まだやってるよな……」
その足取りは少しだけ軽く、それでいて不穏な闇に沈むマンションを、再び振り返ってシンジは歩き出すのだった。
(つづく)
◾️◾️◾️◾️◾️
ここからは、
清楚系、松山弁コメンテーターなっちゃん
ピチピチ系、関西弁インフルエンサーカナちゃんの振り返り番組“なっちゃんカナちゃん”
タイトル:なっちゃん・カナちゃん 今夜もフレッシュトーク全開! ~地獄OR地獄のシンジ劇場~
(テーマソングがキュルキュル〜ッと鳴って、スタジオの明るい照明がパッと点く)
なっちゃん
「はいはい!始まりました〜っ、清楚系松山弁インフルエンサー、なっちゃんと〜!」
カナちゃん
「大阪弁可愛い系コメンテーター、カナちゃんで〜っす!今日もゆるさゼロ、悪ふざけMAXで行きましょかぁ〜!」
なっちゃん
「って、いきなりやけど…シンジの部屋、キッツない? あれ、ゴミ屋敷も白旗あげるでほんま!」
カナちゃん
「うんもう、ゴミとホコリの総合商社! もはや床が見えたらプレミアもんやで! てか、あのティッシュの山、絶対やばいやつ!」
なっちゃん
「“絶対中身に触れたらあかん箱”のナンバーワンやわ! ウチ、涙出そうなったもん…いや別の意味で!」
カナちゃん
「ていうかさ! 3日でやる仕事やのに、1日寝て終わったって何?! しかも寝過ぎて夜の20時やん?」
なっちゃん
「1日目がすっぽ抜けてるって、シフトのバイトが2日目に来たみたいなもんやけん!」
カナちゃん
「で、前金の5万をスロットやろ? 完全に“借金生む機械”に放り込んどる! アホの王様やん!」
なっちゃん
「琴音ちゃんとラブホでイチャコラ妄想しとるヒマあったら、履歴書書け〜い!」
カナちゃん
「ルパンやないねん! 妄想界の不二子ちゃんストーカー!」
なっちゃん
「んでさ、『日本沈没や』とか抜かしとったけど、あんた自身が沈没船やけんね!」
カナちゃん
「しかも穴あいてるタイプの船な! しかも出航する前から!」
なっちゃん
「ほんでや〜、舞ちゃんのマンション、Googleストリートビューで調査しとるて…もうそれストーカーの入門コースやけん!」
カナちゃん
「“可愛い写真に萌えてクククッ”て、こわっ!! ホラーやん! 深夜にそれ聞いたら寝られへん!」
なっちゃん
「“雨どいで9階まで登る”て、誰がスパイダーマンや! あれやろ、エッフェル塔勝手に登って逮捕されるYouTuberの奴!」
カナちゃん
「ほんであれな! “地獄OR地獄”って、私らのネタやのにパクられてるし!」
なっちゃん
「ちゃんと使用料払ってや〜! 1ボケ300円でいいけん!」
カナちゃん
「で! ついにロケハン行くとか言い出して! お前映画監督かい!」
なっちゃん
「レディースマンションのセキュリティ見てビビってるけど、そらそうやろ! 舞ちゃんレベルの可愛さ守るには二重ロックでも足りんわい!」
カナちゃん
「しかもシルエットで“ゾクゾクする”とか言い出して、もう通報ボタン押す用意したもん私!」
なっちゃん
「で、問題のアレよ。“フレッシュパンティ2枚”て! もう言葉の意味が破壊されとるわ!」
カナちゃん
「ちゃうねん普通、“フレッシュ”って洗った後のことちゃう? でもあいつにとっては“汚れてる方がフレッシュ”て!」
なっちゃん
「ナマもの扱いやん! 市場で“本日脱ぎたて”って言われるレベルやけんね!?」
カナちゃん
「ノーマル下着泥よりミッションハードやで! 通常は留守中に取りに行くのに、これは“舞ちゃん在室中”、しかも“脱いだ直後限定”…」
なっちゃん
「そんなんルパンでも無理やし、言っとくけど峰不二子も絶対ドン引きやけんね!」
カナちゃん
「あたしらのパンツでも無理やで! なっちゃん、ちゃんと履き替えた瞬間持っていかれたらどないする?」
なっちゃん(松山弁が混じる)
「ほやけど、ちょっとでも視線感じたら即座に回し蹴りやけん! “フレッシュ”が“病院送り”に変わるけんね!!」
カナちゃん
“期間限定・命がけミッション”て、バーゲンのPOPみたいや!
なっちゃん
「しかもボーナス欲しさに2枚やろ? もうこれ“人間性のラスボス戦”やけん!」
カナちゃん
「もう一回言うけど、舞ちゃんの部屋の中で、舞ちゃんがパンティ脱いだ瞬間に、気配消してゲットって…それ宇宙人の技術や!」
なっちゃん
「地球人には無理じゃーーい!!」
(観客笑い声SE)
なっちゃん
「さぁさぁ、ここで番組恒例っ、“視聴者のフレッシュな反応”大公開やけんっ!!」
カナちゃん
「まずはコレや!」
(視聴者コメント)
「シンジ、今夜も人間やめてて安心しました」
なっちゃん
「うんうん、シンジは人間界から永久離脱しとるけんね! 宇宙刑務所に送られるレベルやわ!」
カナちゃん
「続いてこれ!」
(視聴者コメント)
「“フレッシュ”って単語、今日から意味変わりました」
なっちゃん
「ほんまそれ!! 八百屋でも『フレッシュ』て聞いたらドキドキしてまうやろがい!」
カナちゃん
「お次は…これ来たで!」
(視聴者コメント)
「シンジ、舞ちゃんのパンティよりまず人生取り戻して!!」
なっちゃん
「いっちゃん正論や! 誰かシンジに届けたって、このメッセージを! 切実すぎる!」
カナちゃん
「そして…最後はこれ!」
(視聴者コメント)
「こんなに笑ってるのに、テーマがパンティってのがどうかしてる」
なっちゃん
「大丈夫! ウチらも分かっとる! でも、そこに笑いがある限り、私たちは突っ走るけんね!」
カナちゃん
「そやで! パンティの先に、きっと明日がある!!」
なっちゃん&カナちゃん
「なっちゃん・カナちゃん、また来週〜〜っ!!」
(テーマソングが流れ、画面がフェードアウト)




