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凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜  作者: 小林一咲
第3章 凡人は牙を研ぐ

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第95話 守ったものは

 静まり返った部屋の中。

 僕はベッドに身を投げ出し、天井を見つめながら小さく呟いた。


「……もう、疲れたな」


『おやおや、ダンナ。らしくもねえや』


『そうです、元気を出して下さい』


 脳裏に直接響く声。グラウスとバジリ。

 魔物と契約を交わし、その魂を内に抱えているなんて、まともな人間からすれば異常以外の何物でもない。

 だが今は、その異常が唯一の救いに思えた。


「頼むからさ……適当に話し相手にでもなってよ。もう、帝国の兵士やら政治やら、そういうのばっかで……正直、参ってるんだ」


 思わず本音が零れる。

 するとグラウスが大げさに笑い飛ばした。


『ヘイ! お安い御用でさァ! むしろオイラは喋ってねえと死んじまうんでね!』


『グラウスは黙ってても死なないでしょ……』


 バジリの冷静なツッコミに、バルトはつい吹き出した。

 魔物だというのに、どうしてこう人間臭いのか。

 しかし現実は甘くなかった。

 帝国の方針は明確だ――「魔物は徹底排除」。

 どれほど温厚であろうと、理性があろうと、魔物は魔物。

 許される余地などない。



 そんなある日のこと――。


 昼下がりの静けさ。

 狭い客間のベッドに横になったまま、僕はつい浅い眠りに落ちていた。


「……すぅ……ん……」


 そのまどろみを破ったのは、控えめだが切羽詰まった声だった。


「だ、旦那様っ……! 大変でございます!」


 僕は半眼のまま頭を上げる。目の前には、珍しく顔色を変えたバジリがいた。普段は上品で落ち着いた彼女の姿からは想像もつかぬ慌てようだ。


「……どうした?」


「グ、グラウスが……! グラウスの馬鹿が!! 街中へ出てしまいましたの!」


「なっ!?」


 一瞬で眠気が吹き飛んだ。

 慌てふためくバジリは両手を胸の前で組み、肩を震わせている。


「わ、私が止めようとしたのですが……“外の空気が吸いたい”などと……! あの方は本当に、落ち着きがなくて……!」


「くそっ、よりによって今かよ!」


 ベッドから飛び起き、剣を腰に差すと部屋を飛び出す。

 廊下には見張りの帝国兵たちが立ちふさがった。


「何事だ!」


「おい、勝手に出るな!」


「すまない!」


 一瞬の逡巡もなく、体をひねって兵士をなぎ倒す。鉄鎧の音が廊下に響き、倒れた兵が呻く声を背に受けながら階段を駆け下りる。

 扉を押し開き、外の光が視界に差し込む。



 すでに街はざわめきと怒号に包まれていた。


「なんだあの化け物は!」


「兵を呼べ! 魔物だ!」


 人だかりの向こう。

 商人の馬車をひっくり返し、右往左往している巨体――偽装が解け、元の姿へ戻りかけたグラウスの姿があった。


『ちょ、ちょいと待ってくだせぇ! オイラは襲う気なんざ――! って、あああっ! 逃げるなってば!』


 周囲の人々が悲鳴を上げて逃げ惑い、兵士たちは剣を抜いて取り囲む。

 まさに一触即発。


「……最悪だ……!」


  走り抜けた先にあったのは、悲鳴と怒号で埋め尽くされた街路だった。

 人だかりをかき分け、僕はようやくその中心にたどり着く。


 そこには、ひっくり返った馬車と、必死に両手を振り回すグラウスの姿があった。

 

 兵士たちが剣を構え、今にも切りかかろうとする光景に、僕の心臓は一気に跳ね上がった。


『ダ、旦那ァ! すんません! ちょっと外の空気を――って、いやその剣はやめて!』


 馬鹿野郎……!


「待て!」


 気づけば僕は兵士たちの前に飛び出し、グラウスの体を庇って両手を広げていた。

 兵士たちの鋭い視線と剣先が、一斉に僕へと向けられる。


「どけ! そいつは魔物だ!」


「危険だ、退け!」


「危険じゃない!」


 僕は声を張り上げた。


「確かに魔物だ。でもこいつは誰も殺そうとしてない! ただ、不器用で……」


 息を呑むような沈黙が走った。

 群衆のざわめきが耳に刺さる。僕の言葉が届いたのか、それとも余計に疑念を呼んだのか……判断する間もなく、背後から威圧的な声が響いた。


「……やはり、君か」


 振り向くと、白銀の制服を纏った男が現れた。

 鋭い眼差し、背筋の通った姿――エリシアの兄、リュークだ。


「准尉殿!」


 兵士たちが一斉に敬礼する。

 リュークは無言で彼らを制し、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。


「魔物に人生を狂わされた君が、あろうことかその魔物を庇うとはね」


「っ……!」


 僕は何一つ言い返せなかった。


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