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凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜  作者: 小林一咲
第3章 凡人は牙を研ぐ

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第86話 仲間の手

「どこに行った!?」


「そう遠くは入っていない。シラミ潰しに探せ!」


 暗闇を掻き分けるように走る。すぐ背後には、王国憲兵団が血眼になって僕を探していた。


 これでは、まるで罪人じゃないか。

 いやまぁ罪人ではあるんだろうけど……。


 執拗に追われる理由は王子の勅命だから。それでも、近衛騎士団からの追っ手が少ないのは騎士団長が留めていてくれているからだろう。


「でも、これではジリ貧だよな」


 オーム領まであと半分といったところ。憲兵団の捜索隊は徐々に増えてきているように感じる。


 ――パキッ。


 はあぁ、と大きく溜息を吐いた時、足元に落ちていた木の枝を踏んでしまった。


 ヤバい……!


 そう思った次の瞬間。


「ここに居たのか。随分探したよ」


 逃げ場なんてない。

 完全に詰んだと、恐る恐る見上げるとそこには懐かしい顔が見えた。


「カイエル……なのか?」


「おっ! 覚えていてくれたのかい?」


 彼は騎士学校時代、寮の同室になったカイエル・クラリスコ。学内での接点はそれだけだったが、何ヶ月も同じ部屋で過ごしたのだ。忘れるわけがない。


「君も、僕を探しに――」


「おっと、ここじゃナンだから場所を移そう」


 そう言って彼は僕の手を取ると、木々の間をスルスルと抜け、やがて小さな池のほとりに連れ出した。


「ふぅ……ここまで来れば大丈夫だろう」


 黒色のフードを取り、「あちぃ」と手で首元を仰ぐ仕草はあの頃と変わっていない。


「カイエル、君は僕を捕まえにきたんじゃないのか?」


「捕まえる? バルトを? なぜ?」


「なぜって……」


「君がしたことは正しい。騎士として、何より人間として、ね」


 カイエルはクールビューティーな笑顔を向けて続ける。


「だから《《オレたち》》は君を守ると決めた。騎士として、友人として」


「カイエル……」


 この笑顔、この言葉。御婦人に向けられたらトキメクこと間違いなし。


 その後の話で、カイエルは騎士学校を卒業して竜翼騎士団へ入団。王国の空を守るべく働いていたが、持病である腰痛が悪化。それもあって、今は憲兵団の事務職へと配置転換されたらしい。


「これはまた変な経歴だね」


「君にだけは言われたくないな」


 こうして笑い合っていると、あの頃に戻ったようで懐かしくなる。


「ところで、さっき俺たちって言ってたのは?」


「ああ、もうすぐ分かるよ――っと、ちょうど来たみたいだ」


 カイエルの指さす先、夜雲に紛れて現れた一体のワイバーンから《《ナニか》》が落ちてくる。

 段々と姿が顕になってくると、ソレが人であると分かった。


「よぉっと……」


 その人は、これまた懐かしい顔だった。


「やぁ、バルトくん。私のこと覚えてます?」


「もちろんですよ! アストリッドさん!」


「嬉しいわぁ。一度会っただけなのにねぇ」


 やや関西訛なまりふうの彼女は、騎士学校Aクラス女性主席で、ダリオンの友人。そして、傭兵ギルド〈血の満月花〉のリーダーである。


 彼女のことはダリオンから聞いていた。騎士学校を卒業した後、騎士の称号を返上し、傭兵ギルドへと戻った。学校や騎士上層部からは相当な“異端者扱い”をされたらしいが、本人は全く気にしてはいないらしい。


「ここからは私がご案内します」


「オレも着いて行きたいのは山々なんだけど、後処理があるからね。残念だけど彼女に任せるよ」


「ありがとう。でも、本当にいいの……?」


 僕の問いに二人は顔を見合わせ、少し口角を上げた。


「そんな事聞く必要無いだろう。オレたちは君に賭けてるんだよ」


「カイエルさんはともかく、私は傭兵として《《とある人》》に依頼を受けただけ。でもまぁ……賭けている、という点では同じかも知れません」


「そう、か……でも言わせて。ありがとう」


◇◇◇


「じゃあ、無事を祈ってるよ」


「私が一緒なんだから、無事に決まってるじゃないの」


 そうして僕とアストリッドさんはワイバーンに乗り、地上で見送るカイエルが見えなくなるまで手を振り続けた。






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