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凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜  作者: 小林一咲
王都・近衛騎士団編

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第78話 探り

 焚き火の明かりが、冒険者たちの派手な装備に反射してキラキラと光る。確かに目立つが、戦場でこれだと敵に見つかりやすそうだと、つい近衛騎士としての視点で考えてしまう。


「なぁ、バルトってんだろ? 俺はブルワー、こっちがリノとシェスカ。よろしくな!」


 ブルワーと名乗った大柄な男が、豪快に手を差し出してきた。握手に応じると、予想以上にゴツゴツした手に力が込められる。こいつ、見た目だけじゃないな。


「よろしく、ブルワー。リノ、シェスカもな」


 リノは細身で、鋭い目つきの剣士。シェスカは小柄で、腰にぶら下がったポーチから魔法使いらしき雰囲気が漂う。三人とも、確かに冒険者らしい個性的な空気をまとっている。


「で、近衛騎士団がこんな森の奥で何やってんだ?」


 ガルドの質問は無遠慮だが、悪意はなさそうだ。イシュクルテが先に寝てしまった今、僕が対応するしかない。


「調査任務だよ。黒の森で魔族の痕跡が見つかったって話で、様子を見に来た」


「ほぉ、魔族ねぇ……」


 ブルワーが顎を撫でながら、焚き火の向こうで目を光らせる。


「そりゃ面白そうな話だ。俺たちも最近、森の奥で妙な気配を感じてたんだよな」


「妙な気配?」


 リノが口を開く。


「そう、まるで誰かに見張られてるような……でも姿は見えない。魔物の気配とも違うんだよね」


「それ、魔族の可能性もあるってことか?」


 僕は思わず身を乗り出す。


「さぁな。俺たちもまだ確証はないけどよ、黒の森は昔から妙な噂が多いぜ。行方不明になった冒険者とか、突然消えた村とかさ」


 シェスカが少し震える声で付け加える。


「それに、最近じゃ森の奥で光る影を見たって話も……私、怖い話は苦手なんだけど」


 ブルワーが笑いながらシェスカの頭をポンと叩く。


「お前なぁ、魔法使いのくせにそんなんでどうするよ! まぁ、バルト、俺たちも少し興味あるから、よかったら情報交換しねぇ?」


 冒険者たちとの会話は、思ったより気楽だ。だが、ユーア王子の「試されている」という感覚が頭の片隅に残る。彼らがただの冒険者ならいいけど、もし何か裏があるなら……。


「いいよ、情報交換なら歓迎だ。けど、僕も任務中だから、深入りはできないかも」


「はは、堅ぇな! まぁいいさ、じゃあ今夜は一緒に飲もうぜ。ほら、リノ、例の酒持ってこいよ!」


 リノが渋い顔で荷物から革の水筒を取り出す。


「これ、高かったんだからな。無駄にすんなよ」


◇◇


 夜が更けるにつれ、冒険者たちとの会話は弾んだ。ブルワーの豪快な笑い声や、リノの皮肉っぽいツッコミ、シェスカの少し天然な発言が、任務の緊張感を和らげてくれる。だが、イシュクルテが寝ているテントの方向をチラチラと見てしまう。


 翌朝、冒険者たちと別れ、僕とイシュクルテは黒の森の奥へ進む。森は昼間でも薄暗く、木々の間を縫うように伸びる霧が、不気味な雰囲気を醸し出していた。


「バルト、昨夜の冒険者たち、変な感じじゃなかった?」


 イシュクルテが、木の根を避けながら歩く僕の横で呟く。


「変って、どの辺が?」


「なんていうか……あの人たち、ただの冒険者にしては、妙に私たちに興味持ってなかった? 特にあのガルドって人、目が鋭かったわ」


 確かに、ブルワーの豪快さの裏に、どこか探るような視線を感じた瞬間はあった。でも、冒険者なんてそんなものじゃないか? 信用と警戒の狭間で生きてる連中だ。


「まぁ、確かに《《個性的》》だったけど、悪い奴らには見えなかったよ」


 彼女は少し考え込むように黙り、それから小さく笑った。


「そうね、ただの勘違いかもしれないけど……バルトがそう言うなら、信じちゃおうかな」


 彼女の言葉にはどこか無理やり明るく振る舞ってるような響きがあった。


◇◇


 黒の森の渓谷に近づくにつれ、空気が重くなる。鳥のさえずりも少なくなり、代わりに風が木々の間を抜ける音が不気味に響く。イシュクルテが地図を確認しながら進む中、僕は周囲を警戒する。


「ここから先が、魔族の痕跡が見つかったエリアよ。気をつけて」


 彼女の声は落ち着いているが、剣の柄に手をかける仕草に緊張が滲む。僕も剣を握り直し、目を凝らす。


 すると、地面に不自然な足跡が目に入った。人間のものとも、魔物のものとも異なる、奇妙な形状看似の形状。まるで爪の鋭い何か巨大な生き物が残したような……。


「イシュクルテ、これ見て」


 彼女が足跡のそばにしゃがみ込む。

 

「……魔族のものかもしれない。けど、こんな大きな足跡、見たことないわ」


 その時、背後からガサッと音がした。振り向くと、木々の間に揺れる影。人間じゃない。獣でもない。僕とイシュクルテは同時に剣を抜き、背中を預け合う。


「バルト、準備はいい?」


「いつでも」


 影が近づく。赤く光る目と、鋭い牙。間違いない――《《魔のモノ》》だ。




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