第74話 信用
「あら、ミリヤ。元気そうでなによりだわ」
名だたる令嬢たちの輪の中心、そこにはいつも彼女がいる。
「わ、私などにお声をかけていただけるとは……恐縮ございます」
「ね? 言ったでしょミリヤ。シュリア王女は優しい御方なのよ」
令嬢の付き添いで来ていた侍女の名前を覚えているばかりか彼女らにすら気を配り、声をかける。当然、他の貴族には無い事だ。
シュリア王女を良く思わない者がいるのは事実であったが、敵より味方の方が圧倒的に多いのもまた事実。
彼女はそうして“お茶会”とは名ばかりのこの地獄を生き抜いている。
「こちらの騎士様は?」
「私の護衛でバルトと言います」
御令嬢たちの視線が一気に僕へと集まる。皆目を丸くして僕を覗き込むと、少々不安げに目配せをし始めた。
それもそのはず。
僕はこの御令嬢たちと大した歳の差は無く、なんなら歳下なのだから。
非常に気まずい。
「バルトは優秀なのですよ。この年齢で近衛騎士団へ入団したのですから」
一瞬の沈黙の後「そうなのですか」と、一言で僕の話題は終了した。
◇
「「かんぱーい!」」
任務終わり、僕はアレク、フィンと共に飯屋に訪れていた。
残念ながらイシュクルテは任務で忙しいらしく、急遽不参加となってしまったが、かつての学友との宴会は大いに盛り上がった。
「そういえば、イシュクルテの話は聞いているか?」
「いいや、何も聞いてないな」
「彼女、大層な功績を挙げたからって、今度中尉に昇進するらしいですよ」
「それは凄い!」
友人の――しかもイシュクルテの昇進は自分以上に嬉しいことだ。情けないと思うかもしれないが、羨ましいとか妬ましいなんて感情は微塵も無い。
「でもよぉ、アイツ近衛騎士団では浮いてるらしくてな」
「どうして?」
フィンの言葉に、僕が不思議に首を傾げると、アレクが周囲を見渡してから小声で言った。
「彼女が竜人族ってのは知ってますよね? それで、近衛騎士団長の実の娘じゃなく孤児だったとの噂が」
「孤児……だけど、どうして?」
「孤児でも騎士団には入れる。だけどな、近衛騎士となると話は別だ」
「直接王家をお守りする近衛騎士にとって、孤児というのはあまり良いように思われないらしいのです」
そんな横暴な……でも実際、近衛騎士団には貴族の子息(特に三男坊以下)が多からず在籍している。
その者たちからしてみれば、平民の、しかも孤児の団員が近くにいるのが許せないのだろう。
「最近じゃ近衛騎士団長にまで飛び火しているようだしね」
「父親の責任問題とかなんとか――ったく、しょうもねぇ奴らだぜ」
封建制度が根深い王都では、益々溝が深まりそうだな。
◇◇◇◇
「ただいま戻りました、父上」
場所はインヒター王国王都、王宮内。1人の青年が非公式な謁見に臨む。
「ご苦労だったな、ユーア。魔導研究は順調か?」
「はい、滞りなく。それで……例の騎士の話ですが」
「報告の通りだ。彼は未知のスキルを所持し、その力を王国のために遺憾無く発揮してくれている」
青年は眉を歪ませる。
「大丈夫なのでしょうか。そのような者を近くに置いて」
「魔人に対抗するにはもってこいの人物だ。人柄も良い」
「その者が魔族の手の者だということは……」
「あり得ませんよ兄上」
「シュリアか。久しいな」
「ええ、兄上」
「お前も会ったのだったか」
「会ったどころか、命の恩人ですわ」
「それは感謝するべきだろうが……父上、恐れながら私は些か軽率だったかと思います」
信心深く研究熱心な彼にとって、未知のスキルは畏怖するべきもの。しかも、王と王女は大層その者を気に入っているときた。
甘い、甘過ぎる。
彼は心の中でそう呟いた。
「信用できないというのなら、お前も実際に会ってみると良い」
「は、はぁ……」
「彼は今、近衛騎士団の宿舎におりますよ」
バルト・クラスト――彼は一体どんな人物なのか。




