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凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜  作者: 小林一咲
騎士学校編

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第35話 星の預言者

「もう、卒業かあ」

「長かったようで、早かったなあ」


 無事、卒業試験を終えた学生たちは、それぞれにこの1年弱を振り返ってはその思い出を噛み締めるように空を見上げている。感傷に浸る同級生らを尻目に、僕たちは闘技大会へ向けての訓練を始めた。


「呑気なものですわね」

「仕方ないよ。僕たち以外はもう卒業後のことしか見えていないんだ」


 食堂で買ったパンとスープを片手に、訓練場の壁にもたれ掛かる貴族の御令嬢。実に不服そうな表情だ。


「エリシアは自分で立候補したわけじゃないの?」

「そんなわけないでしょう。昔から頼られがちなのよ、このスキルのせいでね」


 エリシアは寂しそうに俯いた。

 人それぞれスキルに対する想いの丈は違うのだろう。【星の予言者】の使い勝手が良すぎるあまりに、今度は他人からぞんざいに遣われる始末。彼女は授かった自分の才能と努力が周囲にとって便利な道具としか見なされない現実に直面している。能力が“評価されるべきもの”としてではなく、当然のように受け入れられ、じきに感謝の言葉さえ薄れていく。


「大変なんだね」

「そう、大変なのよ。占い師にとって何が最悪か、考えたことある?」

「無い」

「ふふっ……貴方のその潔さは好きよ」


 エリシアは少し笑ってから続けた。

 それはエリシアが騎士学校に入学する少し前のこと。彼女のスキルを聞きつけ、ある有力貴族の坊っちゃまが訪ねてきたことがあった。


 そこで占ったのは彼の恋愛について。有力貴族ということもあり、エリシアは仕方なくスキルを用いて占ってあげた。結果として「今のままでは上手くいかない」とありのまま伝えたところ、その坊ちゃんは激怒し「もっと良い未来を占え」や「未来を変えろ」などと喚き散らかして大変だった――と。


「それからしばらくしてからその坊ちゃんが『お前のせいで婚約破棄になった!』って怒鳴り込んで来たのよ」

「ヤバめの奴だね」

「そうでしょ。まったく可笑しな話ですけれどね」


「まあ、過去のことはともかく、今は闘技大会に集中しないとね」

「そうだね。この大会で良い成績を収めれば、卒業後の進路にも有利になるらしいし」


 僕たちはエリシアのスキルを活かすための戦術を練りながら、訓練に励んだ。彼女の【星の予言者】というスキルは、未来の一端を垣間見ることができるもので、戦闘においても大きなアドバンテージとなる。


「ところで、貴方のスキルについて、私はまだよく知らないんだけれど」

「そういえばそうだったね」


 僕は彼女にスキル【普通】について、現在までに分かっていることと推測を話した。


「それって、《《自覚》》が必要なのではなくて?」

「自覚?」

「ええ。スキルの成長について聞いたことは?」

「トミヨ婆さんから少しだけ……でも、それはかなり前に“成長しない”って発表されたんじゃ」


 エリシアは胸を張って自慢するように鼻を鳴らす。


「ここ最近に発表された研究の論文が学校の禁書棚に並べられていたわ」


 禁書棚は騎士学校の図書室にある厳重に鍵のかかった部屋。鍵は決して壊せず、無理に開けようとすればランダムに呪いが降り掛かり、最悪の場合死んでしまうこともあるらしい。


「どうやって入ったかは聞かないでおくとして、なんでそんな勉強になるものが禁書なのかな」

「学生が面白がって研究すると、二度と自由に動くことはできなくなるほどのモノだからよ」

 

 確かに普通ならスキルの効力は自覚できているものだし、そこまで興味を惹かれる者が少ないだろうしな。


「そこに書いてあったのは正に《《自覚》》よ。スキルは自分で思っている以上の力は発揮できないの。つまり、バルトの【普通】も私の【星の予言者】も今以上の力を発揮できるようになるかもってわけ!」

「ち、近いよ、エリシア……」


 妙に熱が入ったエリシアの背後に、柱に齧り付くようにしてこちらを睨むイシュクルテの姿があった。


「い、イシュクルテ……これは、その、違うのよ。つい盛り上がっちゃって」


「おやおや、修羅場かな?」


 凍ったように静まり返った空間に爽やか好青年の声が響き、何とか訓練が始まった。

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