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第3話 普通すぎた男

「やったあ!」


 教会は10歳を迎えた少年少女で賑わっている。こんなスキルがあっただの、このステータスがとても高かっただのと神託の儀を終えた子どもたちははしゃいでいた。

 そして僕の番があと1人に迫った時、今まさに目の前で儀式を行おうとしていたのは馬車で見つけた竜人族の少女だった。彼女は顔色ひとつ変えずやや俯きながら司祭の待つ壇上へと登る。


「竜人の娘よ。名は?」

「……イシュクルテ」

「汝に神託を授け奉り――」


 儀式が始まると彼女の空色だった瞳はみるみるうちに深い赤色へと変化した。その光景はまるで生物が進化するかのようで美しくもあり、寂寥感を覚えるようなものでもあった。


「ステータスを授かった。ステータスオープンと口に出して言ってみよ」

「ステータスオープン」


 少女と司祭は同じタイミングで一瞬だけ眉間に皺を寄せたようにも見えた。だがすぐに彫刻された石像のごとく無表情に戻ると壇上から降りて教会を後にした。


「さあ、次の方」

「は、はい……」


 下からでは見えなかったが、祭壇の上には神々と思しき石像がこちらを囲うようにして立っていて、司祭の表情もまた堅く僕を見下ろしている。

 これで緊張しないわけがない。前世でもなかなか緊張する場面には立ってきたつもりだったけど、これは段違いだ。


「水晶に手を当てて、名前を」

「バルト・クラスト」

「汝に神託を授け奉り――」


 緊張していると同時に高揚感が湧いてきた。初めてと言って良い、ファンタジー世界を感じるこの情景。ワクワクせずにはいられない。


 そんなことを考えていると水晶が光を放ち僕は目を瞑った。身体の中を何かが巡っていくのを感じると同時に、聞き覚えのある声が聞こえた。


「目を開けなさい」

「女神様」


 10年という月日が流れようとも、彼女の美貌は変わっていなかった。流石は女神といったところか。


「お久しぶりですね、啓二」

「啓二、啓二か。なんだか懐かしいですね」

「ええ」


 昔懐かしさに思いを馳せながらあることに気がつく。


「今更ですけど、僕死んだわけじゃないですよね」

「もちろんです。神託の儀に赴いてくださったので呼び出すことができたのですよ。ああ、この呼び出しを使うにはあと数百年はかかるでしょうから安心してください」


 話を聞く限り「暇になったから様子を見に呼び出した」といった雰囲気だった。


「で?」

「はい?」

「いや……僕はいつまでここに?」

「あっそうでしたね。つい楽しくなっちゃって」


 これで女神とは本当にお別れだ。次に会うのは、僕がまた死んだ時か。

 白い光に包まれ段々と意識が遠のく。意識が消えかかる寸前、女神は思い出したようにあることを言った。


「御餞別に貴方にピッタリなスキルをプレゼントしておきましたので!」


 それはありがたい話だ――そう思っていた時期が僕にもありました。


「なんですコレ?」

「さ、さあ……」


 百戦錬磨の司祭でさえ首を斜めに振るこのスキル名。



 スキル【普通】って、それはないでしょう?!!


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