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凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜  作者: 小林一咲
第3章 凡人は牙を研ぐ

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第104話 訓練の日々

 訓練が始まって、僕の生活は一変した。目覚めればすぐに体のチェック、呼吸の整え方、精神の集中。毎日が戦闘の連続のようで、時に息が詰まりそうになる。


 でも、不思議と逃げたいとは思わなかった。あの谷間でダリウスが僕を守ってくれたときの感覚、オルディナスが僕を見守っている安心感、それらが胸の奥にしっかり根を下ろしていた。僕には、この力を使う責任がある。


 今日の訓練は、均衡力の応用だった。透明な結界の中で、浮遊する石の塊を相手に、自分の力でバランスを崩さずに移動させる。最初は石に触れるたびに地面が揺れ、結界が小さく振動して、僕の身体がぶれる。


「落ち着け……呼吸を感じろ」


 心の中で自分に言い聞かせる。息を整え、手を前に出す。すると、石が微かに光り、僕の意志に応じてふわりと浮いた。


「いいぞ……その調子」


 後ろで声がした。振り返ると、黒衣の女性が立っていた。鋭い目つきだが、どこか柔らかさもある。


「私はリアンナ。君の訓練を監督する」


 僕は頷いた。名前を覚える暇もなかった訓練だが、彼女の存在感はすぐに分かった。何かあれば即座に指摘される。容赦のない指導者――でも、その眼差しには信頼があった。


「石を動かすだけじゃない。均衡力は世界の釣り合いを感じる力だ。周囲の空間や重力の流れ、風の微細な変化まで意識しろ」


 僕は再び集中した。指先に意識を集め、浮かんだ石をゆっくりと左右に揺らす。結界の揺れは少なくなり、石が完全に安定して浮かんだ瞬間、胸の奥に達成感が広がった。


「やった……」


 小さく呟くと、リアンナが僅かに微笑んだ。


「やっと少し、君の力が安定してきたな」


 その日の午後、僕はオルディナスの拠点を案内されることになった。浮遊する石の通路、無数のデータスクリーン、空間を操る装置――どれも僕には異世界の魔法のように見える。


「ここが、世界の裏側か……」


「その通り。帝国も王国も、魔族も、この空間の存在は知らない。私たちだけが全ての情報を掌握している」


 幹部の一人、眼鏡をかけた男が説明する。彼は口調は穏やかだが、目は冷静に世界を見つめる鋭さを持っていた。


「君の訓練は、単なる力の制御だけじゃない。情報の収集と戦略の思考も重要だ。均衡力は戦うだけの力じゃない、戦うべき時を見極める力でもある」


 僕は黙って頷いた。ダリウスが何度も言っていた「逃げることは許されない」という言葉が脳裏に浮かぶ。僕の力は、戦うタイミングを自分で判断できるかどうかにかかっているのだ。


 案内の途中、僕は小さな広間に通された。そこには、様々な年齢の人間たちが訓練していた。剣を振る者、魔法陣に触れる者、浮遊する物体を操作する者――まるで才能のサンプルのようだ。


 一人、背の低い少年が僕に気づき、声をかけてきた。


「君も訓練生か? 僕はカイ。よろしくな」


 僕は頷いた。笑顔はまだぎこちないが、彼の目には挑戦心が宿っている。


「オルディナスって、怖い組織だと思ってたけど、ここに来てみると……違うみたいだな」


 僕は小さく笑った。確かに、冷徹な計算の中にも、人を育てようとする意志が見える。


「半年後には、あの戦場に立つ。力だけじゃなく、判断も鍛えなきゃ」


 カイは頷き、僕の肩を叩いた。


「一緒に頑張ろう、バルト」


 その夜、寝床で天井を見つめながら、僕は考えた。ダリウスの勇気、オルディナスの計画、そして自分の力――。すべてが、僕を世界の均衡に立たせるために動いているのだ。


「僕は、この力で……世界を守る」


 静かな決意が胸の奥に根を下ろす。眠りにつくと、夢の中で光と闇が渦巻き、僕を呼んでいた。次に目覚めた時、僕はさらに一歩、均衡の担い手としての自分に近づいているはずだ。


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