第四話
――これは、いつかのお話。
ある所に、一人の少女がいました。
その少女には、ひとつの大きな悩みがありました。
それは…
"愛"が分からないこと。
皆さんは愛を感じていますか?
愛には色んな形があると思います。
両親からの愛、親族同士の愛、好きな人との愛。
愛は知らずにいつの間にか受けている、与えているものです。
そしてそれは、生きていくために必要不可欠なもの。
でも、その少女には愛が分かりませんでした。
分からない。知り得ない。
確かに、少女の周りには愛をくれる人がいました。
ですが少女には、その周りの人々が歪んで見えたのです。
歪んで見えてしまったのです。
欲望が見えないその抽象的な愛。
愛という最も不可解で、心に癒しも傷も与える存在。
そうしているうちに少女は、ありとあらゆる"意味"を失っていきました。
起きる意味、学ぶ意味、悩む意味、身を削る意味、泣く意味。
今、こうして生きている意味さえも。
そうして少女には、段々と"光"が消えていきました。
明日を照らす光、未来へ導く光、少女の手を引いてくれる光が、すべて失われていきました。
その頃から少女はずっと伝えたかったのかもしれません。
"助けてほしい"と。
ですがそれは、周りの目には見えませんでした。
見えない、触れない、感じられない。
そう過ごしているうちに、少女はどんどんと壊れていきました。
頭に残るのは疑問符だけ。
疑問には答があるものです。
でも、それは見つからない。見つけられない。
どんどんと疑問だけが溢れていきました。
そしてある日。
少女はいつも通りの変わらない日常を送っていました。
ですがその日常に、突然一つの異変が起きました。
少女は男に誘拐されてしまったのです。
緊迫した雰囲気。
今にも殺されてしまうのでないかという恐怖。
自分は一体どうなってしまうのだろうという憂慮。
普通はこのような感情が身体を支配してしまうことでしょう。
ですが、少女は違いました。
そんなありとあらゆる感情よりも、一つの感情が身体を支配していました。
それは…
幸福。
自分を求めてくれる、明確に自分を欲してくれる、自分を必要としている。
その今まで感じたことのなかった感覚に、少女はとても幸せでした。
もういっそ、殺されてもいい、嬲られてもいい、そう思っていました。
自分を求める姿こそが、愛に見えていたからです。
少女は問いかけました。
「どうしてわたしを連れて行ってくれるの…?」
それに男はこう答えました。
「お前が欲しい。ただそれだけだ。」
その瞬間、少女には光が見えたような気がしました。
明日を照らす光、未来へ導く光、少女の手を引いてくれる光が。
そして少女はまた問います。
「わたしを、ころすため?」
そして男はこう言います。
「俺はお前を殺さない。」
少女は驚きました。
自分のような何も無い人間は、今にも殺されてしまうと思っていたからです。
殺されても当然だと思っていたからです。
そして少女がこう問います。
「どうしてわたしが欲しいの?」
それに対し男はこう言います。
「意味なんていらない。」と。
その言葉は少女に、大きな衝撃を与えました。
ずっと意味を失っていた少女に、追い求める度に壊れていった少女に、とてもとても大きな衝撃を与えました。
そして少女はこう言います。
「わたしは、あなたを信じてもいい?」
そして男はこう答えます。
「俺だけを信じろ――。」
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