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ディバイン・セイバー ~ゲーム開始時点で既に死んでいる盗賊Aだけど、ヒロイン達だけは不幸にさせない~  作者: 岸野 遙
第一章・第一話 盗賊Aはヒロイン達が大好きなんだけど、メインヒロインは勇者の旅に同行させなきゃならない
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09 記憶も友達もないんだけど、未来のためなら大変じゃない

「そぉれでぇ、めがみさまはぁ、いったんですよぉぉ」

「はいはい、なんて言ったんだ?」


 手すりでぐにゃぐにゃするオスティンを横に、こちらも手すりに寄り掛かってグラスを一口。

 お酒の匂いはほんの少しだけで、ほとんどジュースみたいなもんだ。

 でも、酒に弱すぎるオスティンは、これだけで撃沈したんだよなぁ……

 結構多いオスティンの弱点の一つである。


「みんなぁ、なかよくぅ、がんばれえみたいなぁ?」

「そりゃまた……随分とおおざっぱな理解だなぁ」


 オスティンが見たという、夢の啓示。

 酔っ払ってはいるものの、だからこそきっと嘘や偽りのない情報だろう。

 向こうから話してくれるので、情報収集を兼ねてありがたく色々聞いてみた。


「でも、言われた通りに聖剣を見つけたんだろ?」

「そうだよぉぁぁ、たあしかにぃ、おしろおのぅ、らにわから、ぅっぷ」

「あー。水持ってくる?」

「うぅぅう……おねがいぃ」


 口調はまぁ、なんか敬語使うのも馬鹿らしくなったしもう雑です。

 多分明日には覚えてないだろうし、オスティンから『かたぁぁいい』って言われたので良いと思います。


 一旦中に戻り、そばにいた給仕の人に水をお願いする。

 一瞬、なんだこいつ?みたいな顔をされたけど、ちゃんと水をくれた。

 あ、でも他の人に報告に行ってる。不審者扱いされたかな? どうしよう。


「はるとぉぉぉ」

「あーはいはい、水持ってきたよ」

「うへぇ、あありがとぉぉ」


 ぐにゃぐにゃすぎてグラスも落としそうだったので、グラスを掴んだ手を押さえて飲ませる。


「ふ、ふひぃぃ……おいしぃ」

「よかったなー。

 もう戻って休むか?」

「んあー、もうちょっとぉ。

 このままもどるとぉぉ、たぶん、おこられるぅ?」

「あー。なるほど」


 確かに、勇者就任した者が、担がれて寝室送りとかあんまり良い見た目じゃないよなぁ。

 主賓がここで伸びてていいのかっていう別の問題はあるけど。


「うーうう、ちょっとぉ、ましになってきたぁ……」

「確かに、もう少し酔い覚まししてから戻った方がいいな」

「そーすぅる……はるとぉ、ありがと」

「どういたしまして」


 ぐにゃぐにゃだったオスティンは、少しだけ身体を動かし、手すりに寄り掛かるように床に座り込んだ。


「ぼくさぁ……がくいんから、きしになったんだけどさぁ」

「うん」

「やっぱりぃ、きぞくじゃないし、いろいろうらまれたりしてさぁ」


 オスティンは貴族じゃない。なのに、学園を首席で卒業した。

 だから同期からは非常に煙たがられ、一部からは嫌がらせを受けていたという設定があった。

 同期男三人衆というサブキャラを仲間にして好感度を上げた時にだけ分かる、ほとんど裏設定に近い内容だ。


 ちなみに、男三人衆は弱いです。エロゲーの男キャラなので(暴論)


「きしになってからもぉぉ、いろいろあってさぁ」

「うん」

「なんか、こう……なんかなぁ」

「そっか。

 オレもまぁ、色々、なんかだよ」


 オレには、ゲームの知識はあっても、自分自身についての記憶はない。

 わかっている事は、自分が盗賊だった事だけだ。

 しかも、本来だったらもう死んでるやつ。


「よげんしゃ、なんだろぉ?」

「そんな大それたもんじゃないよ。

 ただ、未来に起こるかもしれない事を、一部知ってるだけだ」


 例えば、この世界が今後どんなストーリー(未来)を歩むかは知っている。


「でも、自分の事は、何一つ分からないんだよ。

 記憶喪失だしな」

「はるとぉ、おまえもたいへんなんだなぁぁ」


 大変……大変かぁ。

 そうだなぁ。客観的に見れば、大変なんだろうな。


 なんでゲームの世界に、とか。

 ストーリーどうなっちゃうの、とか。

 あれこれと不幸なイベントとか。

 考えるとキリがないんだけど。


「──でも、こうなって欲しいって目標があるからさ」

「うん」

「過去はともかく。未来を向いてなら、頑張ろうと思えるよ」


 ミリリアの幸せを守る。

 ヒロイン全員を、不幸から守る。

 全員が笑顔で、平和な未来を迎えさせる。


「うん、大変じゃないさ。頑張ろうって思えるよ」


 どこまでやれるか分かんないけどね、と。

 自分自身に予防線を張るように、小声で呟きながらグラスを一口。


 そんなオレに――


「ぇぇぇえらいぃっ!

 はるとぉ、ぼくかんどうしたよぉ!」

「……そうかな?」

「そうだよぉ」


 オスティンは一度頭を振ると、自分でグラスを掴み残っていた水を飲み干した。

 そして立ち上がると、オレの方を向いて拳を握りしめた。


「よぉし、きめた!」

「何をだ?」


 まだ少し酔いは残っているけれど、それでも強い眼差しで。

 これぞ勇者とばかりに、オスティンは力強く言い放った。


「きみにきめた! ぼくのなかまになってくれ!

 はると、いっしょにせかいをすくおう!!」




「……


 はい?」




 え、なんで?


 なんでエロゲーの勇者が、盗賊A(男)なんて筋金入りのモブを勧誘してんの?

オスティン の 攻撃!


「はるとを仲間にします」


プロット に 1764 のダメージ!


プロット は死んだ!!



「ちょっと待てぇぇ、これどーすんの?

 オレ、ただの盗賊Aなんですけど!」

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