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ディバイン・セイバー ~ゲーム開始時点で既に死んでいる盗賊Aだけど、ヒロイン達だけは不幸にさせない~  作者: 岸野 遙
第一章・第一話 盗賊Aはヒロイン達が大好きなんだけど、メインヒロインは勇者の旅に同行させなきゃならない

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08 色々考えなきゃいけないんだけど、勇者からは逃げられない

 王様との話し合いは、ひとまずお開きとなった。

 と言うのも、もともと式典の後はパーティが予定されており、その開始時刻が間もなくだったからだ。

 話が中断したので、褒美についても保留である。



 ミリリアとの婚約。

 もし何も知らなければ、ここで旅を終えるつもりであれば、それこそ何よりも嬉しい褒美だったろう。

 足しげくミリリアの元に通い、他愛無い日常と言葉を重ねた思い出は、今も初恋の記憶としてこの胸にある。

 今のオレ自身だって、ミリリアを無事に助け出せて、幸せな日常を見ただけで、泣き出すくらいに強い気持ちがあった。今日、不意打ちで気づかされた。

 ミリリアだって、不幸で悲惨な目にも会わず、オレに対して好意的な笑顔を見せてくれている。自分から言い出してくれるくらいなんだ、憎からず思ってくれているんだろう。

 それ自体は、にやけちゃうくらい嬉しいんだ。



――でも、オレはこの世界がこれから辿るストーリー(未来)を知っている。

 ミリリアやターシャ達、12人のメインヒロイン(メイデン)が持つ役割を知っている。


 白の勇者の持つ、聖剣。

 黒の魔剣士の持つ、魔剣。

 2本の剣と、二人を取り巻くメイデン達との絆が、魔王を倒す力となる。

 それを知っている以上、彼女達をオレが過剰に縛ることはできないし、勇者達とある程度は仲良くしてもらわなければならない。


 もちろん、黒の魔剣士がヒロインを無理やり襲って黒い絆を結ぶ事は、絶対にさせない。

 世界を救うためであっても、そのために彼女たちを犠牲にするようなやり方は許さない。

 世界を守るのはあくまで手段。彼女たちの幸せが目的。

 これを絶対に見失わないようにしよう、と改めて気持ちを引き締めた。



……確かに、今更ミリリアとオスティンの絆を目指すのは、イベントの展開的に厳しい、かもしれない。

 ミリリアについては、なんというか、女神の欠片があっても、オスティンにとってのヒロインからは脱落したかもしれない。本来のストーリーはぶち壊しちゃったから。

 でも仕方ないよね、そんなこと考える余裕なかったし!


 それにじっくり考えたとしても変わらない。例え世界を救う一助になるとしても、ミリリアが不幸になるのは絶対に許せないんだ。

 ここはどうしても譲れない部分だったということで、良しとします。

 そもそもヒロイン全員必要とかじゃなくて、メイデン誰か一人と絆を結べば、フラグ上では魔王を倒せるようになるんだ。

 だから、あまり気負わず頑張っていこう!

 と言うかオスティンに頑張ってもらおう!


 あれ、だったらミリリアもらっちゃってもいい、のか?

 いやいやいや、そういうの考えるのはヒロイン達の不幸を回避してからです、はい。

 今はできるだけ考えないようにします。そうしないと、足が止まっちゃいそうだからね!

 はい、心の棚の上に放り投ーげた、ぽーい!


 そんなわけで、褒美としては各種イベントの進行、すなわちヒロインの不幸を跳ね除ける事に役立つようなサポートを希望ってとこかなぁ。

 でも具体的にどんなサポートかって考えると……特に関所とかないし、やっぱりお金が一番便利で確実?

 それともゲーム後半で手に入る宝物庫の装備か、移動力を上げるために馬車とかかな?

 どのくらいまで要求して良いか分からないが、そんな感じでいこうと思います。はい。



 目の前では、勇者となったオスティンのためのパーティが開かれており、たくさんの綺麗な女性や偉そうな人達が和やかに談笑している。

 オレは王様に会った時とはまた別の服(やっぱり超高価そう)を着せられて壁際に立ち、つらつらとそんなことを考えていた。


 ミリリアの事。ヒロイン達の事。ストーリーの事。そもそも、明日どうするかさえ何一つ決まっていない。

 そもそも聖剣の強化による魔王討伐のためにメイデンは勇者と絆を結ばないといけないし、今すぐ死にそうではないがクォミーエの病は必ず何とか――


「わっ!」

「ぅわぎゃぁっ!?」


 ちょ、何事だぁっ!?


 突然真横から掛けられた声に驚き、奇声と共にすっころびながら慌てて顔を上げる!


「あ、ああー、大丈夫?

 ごめんごめん、そんなに驚くなんて思わなかったよ」


 そんな明るい声に見上げれば、そこには片手を顔の前にあげて気楽に謝る青年の姿。

 すぐに青年は片膝つくと、床に転んだオレに向けて右手を差し出した。


 ちょっと迷いつつも、差し出された手を掴む。

 強い力でオレのことを引いて立ちあがらせつつ、青年は続ける。


「こんばんは、預言者さん。

 ぼくはオスティン=リードベルク。新人騎士でしたが、このたび勇者を拝命致しました」

「……ハルトと申します、オスティンさん」

「もし良ければ、少し外に出ません?

 ちょっとぼくも、一息つきたくて」


 白の勇者、オスティン。

 今日の式典で勇者となった主人公が、すでに死んでるはずの超わき役である盗賊A(オレ)を笑顔で誘ってきた。




 そして、バルコニーに出て十と数秒。

 室内から持ってきたグラスで軽く乾杯し、それを口につけたオスティンは。


「だぁからぁぁ、ゆぅしゃとかぁ、ぼくなんかにつとまるかあわかんないじゃないですかぁぁぁ?」


 手すりにぐにゃりと身をもたれかけると、両手をうねうね動かしながらその心情を吐露した。

 ちょっとこいつ、酒に弱すぎぃぃ……!

【噂】

・酒に酔うとぐにゃぐにゃになるオスティンは、一部の界隈でオスティにゃんと呼ばれているらしい

・現実世界には、オスティにゃんと黒の魔剣士カーロンとの薄い本があるらしい……

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