05 えらい人の視線が険しいんだけど、逃走コマンドが使えない
本日から第一章・第一話終了まで、毎日2話投稿予定!
(最終話のみ、おまけの3話目付き予定)
午前、午後に投稿予定。ゆるりとお楽しみくださいませ☆
ユティナさんに続いて恐る恐る入室すると、部屋の中に居た人たちの視線がオレに集中したのが分かった。
テーブル奥のソファに優雅に座っていたミリリアは、美しい微笑みを浮かべて。
その傍に控える侍女と、手前のソファの後ろに立ったユティナさんは無感情に。
壁際に立った騎士達は、気合のこもった眼差しで。時々殺気込み。
「掛けたまえ」
そして、ミリリアの隣に座っているおじさんは、無感情ではないが喜怒哀楽いずれとも判断つかない表情で。
伸ばした手で手前の空きソファを示すと、渋い声と強い眼差しで座るよう促してきた。
──え、なんで王様いんの!?
ちょっと待って無理むりムリ、もう今すぐおうち帰して!
そんな気持ちでちらっとユティナさんを見ると、
(王様が座れって言ったんだから早く座りなさいよ何ぼさっとしてんの!)
という感じですごい睨み返されました、はい……
「しっ、失礼します」
軽く頭を下げてから、警戒しつつゆっくりソファに腰を下ろす。
……柔らかすぎてどこまでも身体が沈み込んで駄目になる系ソファではなく、しっかりした反発で座りやすかったです。ちょっと安心。
なんて気を抜いた瞬間に、またしても王様からお言葉が!
「盗賊に囚われた娘を牢から助け出し、助けが来る翌日まで護り通したと聞いている。
間違いないかね」
「――え、っと、は、はい」
うげあぁぁ、ド直球で来たよ!
え、普通自己紹介とかあるもんじゃないの?
「その際に、娘と──」
「お父様」
なおも言葉を続ける王様を、やんわりとミリリアが止める。
女神だ、ミリリア様ほんとまじ女神様だったんだ……!
薄暗い洞窟で姿を見た時も息が止まるほど綺麗だったが、髪や身なりを整えドレスで着飾ったミリリアの美しさはもはやオレが死ぬレベルと言っても過言ではない、いやほんと綺麗すぎてツライ。生ミリリア尊過ぎる、死ぬ。
少しだけ眉間に皺をよせ、溢れんばかりの大きな胸に手をあてて窘めるように続けた。
「少し落ち着いて下さいませ。
まだ、お名前さえ名乗ってらっしゃらないでしょう?」
「む……すまない、そうだな」
『もう、お父様はせっかちなんですから!』と副音声が聞こえてきそうな顔でちょっと眉根を寄せるミリリア。
その裏表のない言葉と、笑顔じゃなく不機嫌だからこその自然な表情に。
ああ、オレは本当に、彼女のただの日常を守れたんだなぁ……と今更ながら実感がこみあげ
「……え?」
「あ……」
溢れ出した気持ちが涙となって、流れ落ちるのを止めることができなかった――
目の前で突然泣き出したオレを見て、二人はどう思ったのか。
王様はちょっと気まずそうな表情、ミリリアは俯いて表情が見えない。
「その、大変失礼致しました……」
少しして涙が止まったオレは、ユティナさんから渡されたハンカチで顔を拭い、出来る限り表情を殺して頭を下げた。
いや、本当にごめんなさい。まさかこんなことになるなんて、オレも全然思ってなかったです。
と言うかそれ以前に、王様の前に連行されるとか思ってなかったんですけどね!
つまり悪いのはユティナさん。
「う、うむ。くるしゅぅな──」
「お父様!
預言者様に、謝って下さい!」
「「え、えぇぇぇ……?」」
ミリリアから飛び出した叫びに、どうにか軌道修正しようとするオレと王様の口から疑問の呻きが漏れる。
「わたくしの命の恩人に対し、黙って突然呼び出した上に名も名乗らずの詰問。
それが王として正しき行いであると言うのですか!」
「そ、それはその、確かに呼び」
「言い訳は聞きたくありません!」
いやあの、確かに黙って呼ばれましたけど、それはそのやっぱり小市民としてはストレスでして帰りたいと思いましたが、
……あれ?
これ、やっぱり王様が悪いのかな?
いやでも泣き出したのは王様関係ないよ、うん。それはそうなんです、怖くて口挟めないけど。
「だ、だがミリリアよ、私」
「わたくしに、自分の父は見苦しいと言わせたいのですか!?」
「ぐぶはぁぁっ!?」
あ、王様がわりとコミカルに血を吐いたぞ……
なぜかスローモーションで飛ぶ少量の血。
ソファですぐ隣に座っていたミリリアは優雅にひらりと血をかわすと、こちらに来てオレの右手を取った。
「命の恩人に謝罪もできない恥知らずの父ならば、わたくしとしてもそのような汚点を《大切な殿方》に見せたくありません。
ですからこの会談は終わりです!」
「みぐるしい……はじしらず……おてん……」
口から半分魂を吐き出しつつ呻く王様。
そんな王様を見ないようにしつつも、オレの右手を握っただけで《引っぱらない》ミリリア。
「え、えっと……」
――あ、うん。
この世界のおでんって、料理として優秀だよね?
原価と効果のバランス、つまりコストパフォーマンスがとても良くてね、しかもヒロインの一人の好物だったりするんだ。
とりあえず、現状の理解とかどうでもいいかー。なるようになぁれー!
ちなみにオレは、おでんの中では玉子が一番好きです。
作中で一つ一つの具材についての描写はなかったが、他のみんなはどうなのかなぁ?
ディバイン・セイバーの世界のおでんの調理には、材料として玉子と大根が必須となります。
その二つがない場合、おでんではなく煮物などの別料理となります。
作者が一番好きな具は大根です。