36 ゲームのシステムについて紹介するんだけど、仲間達には教えられない
ゲーム開始時点で既に死んでいるはずの『盗賊A』でありながら、お姫様を救い預言者と呼ばれる事になったオレは、絶賛ゲームの世界を満喫中である。
ディバイン・セイバー。
白と黒の主人公が、時に純愛で、時に信頼で絆を結び、時には相手の意思を無視し力ずくで心を奪って、来たるべき魔王を倒す世界。
物語の進み具合としては、今はまだチュートリアル終了時点と言っていいくらいの、勇者が旅に出た直後だ。
メインヒロインの魔法使いベルルーエと僧侶セーナを勇者のお供につけることに失敗し、お姫様のミリリアと元奴隷のターシャもこのフェイルアードに居る状況。
勇者には、残り8人のメイデンの誰かと、しっかりと仲良くなってもらいたいです。
そう祈りを捧げながら、オレは日々を生きている。
ヒロイン達の美しさと、ゲーマーとしてゲームの世界にこれた興奮に内心でにやにやしながらね。
少しだけ長くなるかもしれないが、改めてゲームとしてのディバイン・セイバーの説明をしておこう。
ディバイン・セイバーは、勇者または魔剣士を主人公とし、気に入った仲間とパーティを組んで冒険をするRPGである。
仲間は魔法使いや僧侶、戦士や盗賊など、20人以上。そのうち12人が、メイデンと呼ばれる特別な役割を持つ女性達。いわゆるメインヒロインだ。
各地でイベントをクリアしストーリーを進めつつ、主人公はメイデンと仲良くなって、特別な絆を紡ぐ。
そうして最後には手にした聖剣/魔剣でメイデンと共に魔王を倒し、ゲームクリアとなる。
ゲームの攻略において、特に重要なのは2点。
一つは、メイデンとの絆が不可欠であり、それがないと絶対に魔王を倒せない、ということ。
メイデンとは、女神の力を受け継いだ少女達のことだ。
彼女達と主人公の間に絆を結ぶことで、聖剣および魔剣の力が解放され、魔王を倒す事ができるようになる。
この『絆』というのは、フラグを含めた好感度と思ってもらえればいい。
キャラにより、好感度が一定値を越えれば自動的に絆達成という場合や、特定のイベントをクリアすると絆が結ばれる場合など条件は様々だ。
例えばベルであれば、時空魔法の魔導書を入手し、クラスチェンジをすることで絆達成の条件を満たす。
一応クラスチェンジと別に好感度も必要だが、初期からパーティに入れていれば好感度を上げない方が難しいくらいなので、ほぼクラスチェンジのみが条件と言っていい状態だ。
絆を結んだ後も、さらに絆を深め効果を強める事が出来るのだが、その辺はまぁいいだろう。
剣を持った主人公が、女神の力を宿すメインヒロインと、絆を結ぶ。
これにより剣と主人公がパワーアップし、魔王を倒す事が可能になるのだ。
絆の他にもう一つの重要な点が、ゲーム内に時間の流れがあるということ。
リアルで時間を掛けずにクリアしろという話ではなく、ゲーム内で旅をしたり宿に泊まればゲーム内での日付が進んでいくという意味だ。
隣町まで歩けば2~4日程度の時間を要するし、日数短縮のために徹夜で移動すればどんどん体力は落ちていく。
そのために宿場での宿泊や野営を行ったり、あるいは遠方へ短時間で辿り着くために馬車を使ったりするわけだ。
また、時間の流れは昼夜の別だけではなく、物語の進行にも影響する。
ゲーム開始後に一定期間が経ったら発生するイベントや、暦に従い開催される定期イベント。
一定期間で復活する素材や特定の季節にだけ入れる洞窟など、色々な場面で影響してくるのだ。
この先、一番最初の大きなイベントは一人目の四天王登場。
それに向け、今頃オスティンは海辺の村と洞窟を往復して修行に励んでいることだろう。
スキルとか熟練度とか、成長システムについてはまた追々説明するとして。
つまりまぁ、何が言いたいかと言うとだ。
「ハルトぉ、森に行こうよぉぉ!」
心地よい微睡みに身を委ねるオレの元に、今日も懲りずにベルがやってきてけたたましい声をあげた。
だが──
「敵は、ぜーんぶこのあたしが!
大っ・魔法使いのあたしがやっつけてあげるからぁ、あたしがあんたのことちゃんと守ってあげるからぁ、一緒に行こうよぉぉ」
「ぱーす」
オレ、イベントが発生するまでは、ぐーたらするんだ……!
いくら言われても一向に起き上がらずソファにごろごろするオレに業を煮やしたのか、脛を一蹴りするとベルは一人で部屋を出て行ってしまった(痛い)
引きこもり生活もすでに九日目、家に居る事に飽きたベルルーエは一昨日から毎日町の外へ簡単なクエストに出かけるようになった。
あいつ、借金あるしね!
「……よろしいのですか?
ベルルーエさんを一人で行かせて」
飽きもせずにずっとそばにいるセーナが問うのを、ひらひらと手を振って返す。
「いいのいいの、あいつ借金あるんだし」
「そういう事ではないのですが……」
言い澱むセーナ。
何を気にしてるのか……ああ、セーナも出かけたいのかな?
「オレはゆっくりしているだけだし、セーナも一緒に出かけて来ていいんだよ?
無理にオレに付き合わなくても大丈夫だからな」
「私はハルトさんの監察官です。
そんな事を言って追い払おうとしても、駄目ですよ」
「ちぇー」
いや、実際にセーナの監視をどうにかしたければ、とっくにしてるんだけどね。
具体的には公権力。困った時の城頼みである。
でも今から一人で放り出したらこの先の展開がどうなるか分からないので、オスティンがフェイルアードに戻ってくるまではオレの傍に居てくれた方がいいだろうと判断してます。
……ほんとだよ? 他意はないよ?
と、今度は廊下の方から、ベルがターシャと話す声が響いてきた。
どうやら、今日はターシャを森に連行するらしい。
ターシャにはしっかりと、外出する時はベルとパーティを《組まず》、一切敵を倒さないように言い含めてある。
ここの周りの森なら蛇も居ないし、野良ボス等も存在しない。二人が仲良くなるためにも、暖かく見送るとしよう。
「それじゃぁしょうがない。
セーナ《だけ》は、今日も一日オレに付き合ってくれ」
「ふう。仕方ないですね、分かりました」
諦めたオレの言葉に、ぷいとそっぽを向くセーナ。
……ほんとはやっぱり、嫌だったのかな?
真面目だから、監察官のお仕事に手を抜けないんだろうなぁ。
「お茶を淹れますが、飲まれますか?」
「あ、いいね。
セーナのお茶は好きだよ、ありがとう」
「……おだてても、何も出ませんから」
引き続き顔を背けたままで席を立つセーナ。
何も出ないと言いつつ、お茶と一緒に普段よりちょっと高価なクッキーが出てきました。やったね。
そんな、ゆっくりした時間を過ごし。
昼前に、今日はセーナと二人だけで鞄を背負って散歩に出かける。
街並みと道、開いている店などを確認しつつ今日も噴水広場へ。
時を告げる鐘がフェイルアードに静かに鳴り響く中、いつもよりも多い人出をかき分けて進む。
そんな、非常に賑わう噴水の前でオレ達を待っていたのは――
「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい、もひとつおまけに見てらっしゃい!
楽しい楽しい旅芸人のショーが始まるよー☆」
大玉の上で器用にナイフをぽんぽんと投げる長身の美少女と、その傍らでどんどんと太鼓を打ち鳴らすピエロ。
噴水の前で芸を見せる二人を、多くの人々が距離を取って囲み眺めていた。
「……よし」
小声で呟き、思わず拳を握る。
ずっと待っていた人々が、ようやくこのフェイルアードに姿を現してくれたのだ。
「ハルトさん?」
「いくぞ、セーナ。
オレについてこい」
「あっ……」
セーナの手を引き、ピエロと美少女、そしてその後ろのテントへと向かう。
さあ、楽しい楽しいイベントが始まるよー。
今回の公演は、旅芸人『あ・めいじん芸』の一座だ!




