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ディバイン・セイバー ~ゲーム開始時点で既に死んでいる盗賊Aだけど、ヒロイン達だけは不幸にさせない~  作者: 岸野 遙
第一章・第三話 僧侶は美しくて魅力的過ぎるんだけど、勇者と盗賊はお互いに押し付け合いをやめない

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29 勇者が牢屋にやってきたんだけど、仲間じゃない盗賊は出してもらえない

 不潔というほど汚くはないが、薄暗くて空気の冷たい地下室。

 光量の乏しい明かりに生み出された影は、小刻みに震えながら牢の中にまで伸びてきている。


 誰あろう、爆笑していた勇者様である。


「いやぁ、最後まで笑わせてくれるねぇハルトぉぉ!

 やっぱり君は最高の、ぶふっ、盗賊だよぉ」

「笑いながら言ってんじゃねーよ!」


 くっそー、遠慮なく大笑いしやがって。手が届けば殴ってやるものを。


「がるるるる……」

「あっはは、怖いこわーい」


 手を伸ばしても届かないだけ離れて、オスティンは滲む涙をぬぐった。


 いやほんと、お前どんだけ笑ってんだよ……!


「笑いの絶えない人生、流石ハルト。素晴らしいね!」

「いっそ笑い殺してやろうか、この野郎」


 思わず漏れた本音に、オスティンは笑顔で手を振った。


「ご勘弁を、愛の盗賊……ぶふーっ」

「よしわかった、殺してやる。愛の盗賊フラッシュでお前が笑い死ぬまで殴ってやる!」


 もう、ヤケクソ。




「さて、方々から伝言だよ」

「いや、伝言じゃなくてここから出して?」


 真摯な訴えを一顧だにせず、オスティンは笑顔で言葉を続ける。

 いい性格してやんなこの野郎。


「ターシャちゃんから。

『ヨゲンシャさん、ハヤくナカにキて』」

「どこの中だよ」


 オスティンに言っても仕方ないんだが、とりあえずツッコミは入れておこう。

 相変わらず、ターシャだなぁ。


「次、ベルルーエさんから。

『はああ? 一日見ないだけで、えっ、あいつに何があったのよ!?

 これだからあいつはもー、あたしが付きっきりで見てなきゃ駄目なんじゃないの、本当に手がかかるんだから……!』

……なぜか、すごくにこにこしてました」

「うわぁ、すっげぇ目に浮かぶ……」


 というか、すでに好感度がやばい領域に足突っ込んでませんかねぇぇ!

 え、早すぎない? 流石チョロイン。


「それからユティナさん。

『姫様の手を煩わせる小悪党は、獄中死します』」

「不慮の事故を断定とか、殺意が直接的過ぎる!」

「本当だね……ハルト、何をしたのか知らないけれどちゃんと謝った方がいいよ?」

「何もしてねぇ!」


 ユティナさんに対しては、何もしてませんから!

 ただちょっと、ミリリアと仲が良いだけです!

 ミリリア大好きです!


「ミリリア様からの伝言は、特になかったよ。

 直接会って伝えるから不要、だってさ」

「おう、わかった」


 オスティンには知られたくない、ってことかな?

 なんて考えると、ちょっとわくわくそわそわしちゃうね。早く会いたい。


「あと、せっかくなのでエルマのコメントも教えてあげるよ。

『いくら友達いないからって、よりにもよって犯罪者を友達とか……オスティン、やめた方がいいよ?』」


 エルマは、オスティンの初期仲間の女騎士サブヒロインです。念のため。

 エルマの発言を聞かされたところで、そもそもオレとは面識ないしなぁ……


 いや、むしろここは逆にやり返すとこだな。


「交友関係まで口出しされてる勇者様、ちょっとお友達少なすぎませんかねぇぇ?」

「……そう来たか。

 まあいいさ、ここはハルトに勝ちを譲ってあげるよ!」


 しかし、ほんとこいつ友達いないんだよなぁ……女にはモテるくせに。

 嫉妬の心を包み隠さず、笑顔で『ざまぁ』と言ってあげよう。


「ざまぁ」

「くっ、ぬ……ふ、ふふっ」


 オレの言葉に悔し気な顔を見せつつも、無理に飲み込んで不敵な笑みを見せるオスティン。

 そんな表情でもイケメンなのは、なんというかやっぱり不公平。おのれ主人公め。


 オスティンは悔しさを飲み込んで、あえて余裕たっぷりに笑いながら告げてきた。


「まあいいんだよ、今のうちに勝ち誇るがいいさハルト。

 牢屋の中でね!」

「あー」


 普通にぽんぽんと会話してて忘れがちですが、ここは牢屋。

 さっきはオスティンにスルーされたけど、誰かが助け出してくれるのをずっと待ってたのです、大笑いされたせいで忘れてたけど!


「偉大なる勇者オスティン様や、どうかこの牢屋から助け出し――」

「ざまぁ!だよ、ハルト」

「ですよねぇぇっ!」


 くっそー、食い気味に秒でやり返された!

 そりゃぁそうですよね、オレだってきっとそう言うもん!


 その後に出してあげるけど。


「あ、でも勇者の旅の仲間になるんだったら、なんとかしてあげない事もないかなー?」

「謹んでお断りします。

──というか、守りたいものを守るために必要なことだからな。オレは一緒に行けないよ」


 真顔で、特に後半は少し真面目に。ちゃんと、オスティンに返す。


 気持ち的なものは別として。

 オスティンの魔王退治の旅をしながらでは、救うのが難しいメイデンが居るのだ。


「はぁ……まあ、そうだよね。

 仕方ない、ハルトを仲間にするのは《今は》諦めるよ」

「すまんな。

 イベントの進行によっては、いつか一緒に出掛ける時もあるだろうからそん時はよろしくな」

「うん、楽しみにしてる」


 オスティンはそう言うと、鉄格子の間から手を差し出してくる。

 オスティンの腕を捕まえてどうこう……とかはどう考えても勝てる気がしないので、素直に握手に応じた。


「それじゃぁ、ぼくはそろそろ旅立つよ。

 いつまでも城でだらだらしてるなーって、怒られちゃったからね」

「そりゃぁ聖剣に選ばれた勇者様だもの、仕方ないよな」


 フェイルアードでの仲間集めを終えれば、オスティンは旅に出る。


 ディバイン・セイバーに決まった進行の順序はなく、メインストーリーが進行するまでは基本的にどこで何をやってても構わない。

 序盤はまだ魔王も出現していないため、各地を回って修行と情報収集がメインとなるのだ。

 なので――


「フェイルアードを出たら、まず東に向かうといい。

 宿場を経由して海辺の村へ、その後は村を拠点に北東の入り江の洞窟をクリアするまでギルドでクエストをこなしつつレベル上げ……修行だな」

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