212 盗賊は一騎打ちの準備をするんだけど、勇者は盗賊が知人だといまいち信じ切れない
そんなわけで、外野の準備は整った。
ここから先は、ゼブロアーゼに勝つために、オレ自身の準備だ。
オレは懐から一枚の布を取り出すと、ゆっくりと装備した。
なぜか引きつった顔をする三人に、オレはこの装備の効果を説明する。
「これは特別な装備品でね。
防御力こそないものの、精神系の状態異常を完全に防ぐ効果があるんだ。
これがあるから、オレには魅了耐性のアクセは不要なんだよ」
精神系の異常をまとめて無効化する。これは、ゲーム内においても破格の性能だ。
もちろんゲーム全体で言えば、精神系のみならず、全ての状態異常を無効化する装備品も存在している。
だけど、そういうアイテムは基本的にゲーム終盤とか非常に高レベルのダンジョンなどでないと手に入らないものだ。
ゲーム序盤、それもレベル1で手に入るという時点で、いかにこの装備が優秀かが分かるというものである。
さすが、愛の神殿で手に入れた、妖精達のパンツである。
「は、はると……?」
「え、えええー……」
「(無言でメイスを素振り)」
オレの説明を聞いて、オレの顔を、いや頭を見ながら呻き声をあげるオスティンとベル。
そんなにうらやましそうな顔しても、これはあげないからね?
当然のことなので説明するまでもないと思うけれど、念のため補足しておくと妖精達のパンツは頭装備です。頭にかぶるものです。
ちなみにセーナは、感情の消えた瞳をオレの頭に向けたまま、なぜかメイスの素振りを始めた。
「いや、ゼブロアーゼと戦うのはオレ一人だけだからね?
セーナには、戦闘じゃなくてやって欲しいことがあるんだよ」
「……
……なん、でしょうか」
オレの言葉に、たっぷり十秒程動きを止めたあと、しぶしぶとメイスをしまうセーナ。
いや、だからなんでそんなに嫌そうなの?
そんなにしてまでゼブロアーゼと戦いたいの?
オレの頭はゼブロアーゼじゃないのに、どうして視線がオレの頭に固定されてるの?
――こほん。
セーナの戦意の高さに少々慄きつつも、気を取り直し。誠心誠意、心を込めてセーナを見つめ手を握ってお願いする。
「あいつに負ける事なく、全てを救うために、どうしてもセーナの協力が必要なんだ。
頼むよ、セーナ。共犯者として、オレの力になってくれ」
オスティンが、共犯者……?と不思議そうな顔をする前で。
「──わかりました。
顔が変わっているのは気になりますが、世界でただ一人、私だけがあなたの共犯者なのです」
こちらを見つめる瞳にようやく光を取り戻して、セーナはゆっくりと頷いた。
「このセーナが、心と体の全てを捧げ、ハルトさんの目的を果たすための力となりましょう。
全ては、女神の御心のままに」
「ありがとう、セーナ」
オレの手を握ったままで、その手を引き寄せるように胸に当てて。
光を取り戻した瞳でオレを見つめ、気高い表情で協力を約束してくれるセーナ。
そんなセーナの言葉と姿に、オレもゆっくりとパンツを被った頭を下げた。
「それじゃぁ、セーナ」
「はい」
手をつないだまま、オレはセーナに協力を願った。
「他の装備は全て外し、半裸になって光の紐パンだけを装備してくれ!」
「――は?」
「あ、これって本物のハルトだ」
「うん……まごうことなき、ハルトね」
セーナが無言で固まった横で、なぜかオスティンとベルが深く頷いている。
解せぬ。
「……君たち、一体オレの事を何だと思ってるの?」
「すけべね」
「突拍子もない事を言う友人、かな?」
「仮釈放された、監視対象の軽犯罪者──いえ、重犯罪者です」
ぼやき半分のオレの質問に、ベルとオスティンだけじゃなく、セーナまでもがガチ即答。
それから、つないでいたオレの手を渾身の力で痛い痛いいだだだだ!
「ハルトさん……覚悟はよろしいですね。
いいえ、よろしくなくても構いません。お話、しましょう?」
このあと無茶苦茶説教されました。
妖精達のパンツの特殊効果のせいで、寝ることも混乱することもできませんでした……
つらぁい……でも久しぶりのセーナの説教がちょっと嬉しい、悔しい!
痴女「準備終わるの、まだかなぁ……好きなだけ戦闘の準備を行って良いなんて言うんじゃなかったであります。つらぁい」




