187 四天王開始時点で既に死んでいる盗賊Aだけど、白の勇者がヒロイン達だけは不幸にさせない
祝・一周年!
ハルト、何度目かもうわかんないけどまた死ん第四章・最終話です!
おめでたいので、本日は久々の二話更新です☆
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武闘大会の決勝戦から、一ヶ月が過ぎた。
それすなわち、ハルトがゼブロアーゼに敗れてから、一ヶ月が過ぎたということであった。
四天王ゼブロアーゼと魔軍の侵攻に備えて急造された砦の一室。
特別に設えられた個室の椅子に座ったまま、オスティンは鞘に納めた己の聖剣に優しい声を掛けた。
「フェイルアードでお前を手にして勇者となってから、二ヶ月。
あっと言う間の日々だったね」
聖剣を手にしてからの日々。
正確には、その直前のミリリア救出から始まった日々を、ゆっくりと振り返る。
勇者として謁見の間で任命を受け、式典のパーティでハルトと出会ったこと。
二人でベルルーエやセーナと会い、ハルトの仲間になってもらったこと。
盗賊として牢に捕らえられたハルトを大笑いしてから、エルマ達と旅立ったこと。
4人でフェイルアード国内の東から南方面を旅し、人々を助けながら修行を積んだこと。
国の召喚に従いフェイルアードに帰国、武闘大会に参加したこと。
ハルトと再会し、皆で食べて盛り上がったこと。
大会の準決勝でガンゼイオーに敗れたこと。
決勝で戦うハルトを、複雑な気持ちで見守っていたこと。
そして――
「四天王、ゼブロアーゼ」
仇敵の名を、小さく呟く。
聖剣を手に、平和を脅かす魔王を倒す、そのために旅に出た。
人々を助け、世界を守る、その決意に一切の曇りも偽りもない。
でもそれは、どこか漠然としており、輪郭のはっきりしないものでもあった。
だが、ゼブロアーゼは違う。
一ヶ月前、オスティンの目の前で。
一対一の決闘の結果とは言え、彼の友を貫いたのだ。
人々のためとか、平和のためとか、そういう綺麗であやふやな気持ちではなく。
明確に、敵と見定めたゼブロアーゼを、なんとしても倒す。
私心であろうと、復讐であろうとも構わない。
「ぼくが、必ず。ゼブロアーゼを倒すよ、ハルト」
オスティンは、あの日、ハルトに後を託されたのだ。
──きっとハルトは、あの時点で。
いや、もしかしたら、もっとずっと前から。
預言者として、武闘大会でゼブロアーゼと戦い、自分が死ぬことを知っていたのだろう。
オスティンはこの一ヶ月、ずっとそんなことを考えていた。
それでもハルトは、戦ったのだ。
大切な仲間――もしかしたら恋人であるベルを守り、一ヶ月という不戦期間を掴み取った。
オスティンと仲間達が、ゼブロアーゼを倒せるだけの強さを身に着ける、そのための時間を。
「さあ、いこう。ハルトに託された、ぼくの役目を果たすために。
今回、ゼブロアーゼと戦う時にはお前は使えないけれど。
連れていくから、お前もぼくの戦いを見届けてほしい」
己の聖剣に、そう声を掛け。
オスティンはその鞘を外から見えぬよう袋にしまってから背負い、部屋を後にした。
「遅いわよ、オスティン」
「すまない、エルマ」
部屋には、オスティンと共にゼブロアーゼに挑む仲間達が集っていた。
遅れてきたオスティンに向け、目を吊り上げつつきつい言葉を放ったのはエルマだ。
エルマがオスティンに向ける眼差しに、愛情や気遣いの色は全くない。
「あんたが四天王討伐の要なんだからね。
しっかりしなさいよ」
「ああ、分かってるよ。ありがとう、エルマ」
「お礼なんていらないから、しっかり仕事しなさい」
柔らかく微笑みかけるオスティンに、エルマの態度はこの上なく冷たい。
そんな二人を見て、もう一人の仲間であるディーはため息を吐いた。
「今からそんな喧嘩腰じゃ、やれるもんもやれないぜ?
強敵相手に不安なのは分かるが、当たり散らすよりオスティンに甘えてればいいじゃねーか」
「不安なんかないし、当たり散らしてない!
あとオスティンに甘えるとかありえない、気持ち悪いこと言わないで!」
場を取り成すための軽口にも噛みつくエルマに、やれやれとばかりに首を振るディー。
そんな騎士3人の横で静かに魔導書を読んでいた僧侶が、顔をあげてオスティンに尋ねた。
「オスティン様。聖剣はどうなさいましたか?」
「置いて行くのも心配だから、袋に入れて背負ったよ。ほら」
背負っていた聖剣の入った袋を、質問してきた僧侶──セーナに渡すオスティン。
一通り点検し、中身が見える心配がないことを確認してセーナは聖剣を返した。
「分かりました。
私達が出ている間に砦が落ちないとも限りませんし、それで問題ないと思います」
「うん、ありがとう。
今日はよろしくね、セーナさん」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
勇者オスティンと、騎士のエルマ、ディー。
それに僧侶としてセーナが一時的に加わったこの4名が、ゼブロアーゼを討伐するための主力パーティであった。
人類側の作戦は、到ってシンプルだ。
城下町から北西の平野、魔族の侵攻方向に建築した砦と防壁。魔軍の侵攻を、この砦と防壁を中心に受け止める。
そうしてある程度長期戦の構えで魔軍の数を削りつつ、ゼブロアーゼのいる本陣を探す。
本陣を突き止めたら、主力パーティと護衛パーティがゼブロアーゼを目指して出陣。
最終的に、主力パーティ対ゼブロアーゼの形に持っていき、これを撃破して勝利だ。
エルマとディーより強い戦士も居たが、主力パーティについては主に連携面を考えてオスティンのパーティメンバーから選ばれた。
オスティンがエルマに対し大いに引け目を感じており、全く強く出られず言いなりだから……という面もあるが、それも含めていつものパーティメンバーである。
なお、僧侶だけは本人の希望とユノミスキーの推薦により、一時的にセーナが加入していた。
立ち位置は、僧侶 兼 参謀と言ったところである。
ハルトの知識を最も多く授かっているということで、オスティンや王城関係者も一目置いており、エルマはそれも気に入らないようであった。
オスティンがセーナと話しているだけで睨んでくるエルマだが、それについて特にセーナが気にすることはない。
ゼブロアーゼを倒す。その力を得るために、オスティンとエルマが覚悟したことなのだ。
少なくとも、その決意や経緯を知っている以上、外野であるセーナがどうこう言うべきではないだろう。
セーナだって、外野にあれこれ言われたくないと思うから。
主力パーティと共に本隊を目指す護衛パーティは、2組。
ここには武闘大会で実力を示した前回準優勝フェービンや前回優勝ガルネーズらの他、王国騎士団の精鋭部隊などが含まれている。
ベルルーエも護衛パーティに志願し、一時的にフェービンらとパーティを組んでいた。
本人は、ハルトの仇を討つために主力パーティへの参加を希望した。
だがハルトの残した情報で『戦士を入れて魔法使いは留守番』と言われていたので、渋々ながら護衛に回ったという経緯がある。
言葉の通りに砦でお留守番とならなかっただけ、妥協ラインと言ったところか。
主力パーティの護衛である以上、本隊近くまでは共に攻め上がることになる。
そのため、ベルルーエは機会さえあればゼブロアーゼに遠慮なく魔法をぶち込む気であった。
この一ヶ月で、人類が四天王の侵攻を迎え撃つ準備は整った。
ハルトが命を賭けてつかみ取った、貴重な準備期間。
いくら準備を重ねても十分ということはなかったけれど、それぞれが自分に出来る最善を尽くした。
例えこの一ヶ月をやり直すことが出来たとしても、きっと自分たちは同じ道を辿り、同じ決意を持ってこの場所に居るだろう。そう思った。
――ハルトは、居ない。
この戦いで、ハルトの力を借りる事は、けしてもう叶わない。
ただ一点、たった一人の人間が居ない、その不安だけは飲み込んで。
勇者は、まだ新しい名剣を手に立ち上がった。
「さあ、行こう。
魔王軍の四天王を倒し、ぼくらが皆の幸せを守るんだ!」
この世界に住まう人々のために。
自分の身の周りに居る仲間達のために。
何よりも。
今は居ない友が愛した、女性たちの幸せのために。
女神歴998年6月7日。
魔王軍四天王ゼブロアーゼの侵攻により、人類と魔王軍の戦争が幕を開ける――!
二話目は久々のおまけコーナー、本日夜投稿します。
お楽しみに☆




