186 痴女は圧倒的優位で決闘を進めてきたんだけど、とどめの一撃による完璧な勝利しか求めてない
『とどめの一撃』
フィニッシュブローとも呼ばれるとどめの一撃は、一部のボス戦で敵のHPを削り切った後に開始される、必殺技の応酬により決着をつけるゲーム内のシステムだ。
本来はパーティ全員が攻撃を放つのだが、今は一騎打ち。お互いの必殺技をぶつけあって、相手との力比べとなる。
それまでの戦闘がどのような状況であれ。
とどめの一撃に勝った方が、戦闘の勝者となる。
だからこそ、ゲームでは最後まで気を抜けない、一発逆転負けを招きうるシステムで――
現実となったこの世界では、逆に一発逆転勝ちを狙える決闘の作法となっていた。
「さあハルトよ、構えるであります。
相手の全身全霊の攻撃を打ち破ってこそ、騎士として誉れ高き一騎打ちの勝利と言えるというもの」
なるほど。
最高の騎士を目指す設定が、リアルだとこういう風に作用してくるわけか。
ならば、オレは。
「いいだろう。
オレの全身全霊を持って、ゼブロアーゼ──
お前を斬る!!」
愛用の木刀を、腰の鞘に納め。
失血にふらつく身体を両足で支え。
痛みさえも握りつぶすほどに、強く鞘と柄を握りしめて。
オレは、本日二度目の居合の構えを取った。
冷たく湿った風が舞台を吹き抜け、一瞬の静寂が過ぎた後。
「『裂刃刺騎士』ゼブロアーゼ!
我が一撃を持って、この決闘に決着をつけるであります!」
ゼブロアーゼの宣言が、圧倒的な力を伴い空間を揺るがす。
「!」
対するオレには、もはや言葉さえなく。ただ強く、唇を引き結び精神を集中させる。
――とっくの昔に尽きた精神力の代わりになれと、命よ燃えあがれと念じる!
地を蹴ったゼブロアーゼの槍付き斧が、空気をねじ切る轟音とともに螺旋を描き。
地にとどまったオレの両手足に、全ての力が込められ。
「咲血螺旋・命魂!」
「肆式・椿!」
眼前に迫るその切っ先、その一撃を上下に分かつように。
スキルが発動したのか通常攻撃かも分からぬ木刀の一閃が、光の線となりてぶつかり──
システムによって保護された、装備品。
そんな、ゲーム世界の常識を、リアルがねじ伏せるかの如く。
ゼブロアーゼの槍付き斧と衝突した木刀は、一瞬の拮抗の後に細かい破片へと砕け散り。
「さらばであります」
螺旋を為す槍の切っ先が、まっすぐにオレの胸を刺し貫いた。
この大会で胸を貫かれるのも、これで二度目となるが。
今度は小細工は、ない。
指輪の割れる音は、どこからも聞こえなかった──
次回は、祝・一周年ということで3/1更新!
いつもと更新日が違いますが、お楽しみに!




