184 盗賊は決闘中に突然タイムを掛けたんだけど、痴女は騎士なのであっけに取られて盗賊を止めることもできない
突然のタイム宣言に、動きが止まったゼブロアーゼ。
「ちょっと待っててくれ、親友に遺言残してくるから!」
その隙を逃さず、オレは一目散に逃げ出した。
結界がないので真っ直ぐに舞台を飛び降り、駆け寄る先にいるのは開催国推薦枠選手ことオスティン。
誰もが何が起きたのか理解できないでいるうちに、オレはオスティンに駆け寄ると兜の頭を小脇に抱え、耳元で早口に囁いた。
「(ゼブロアーゼには、何があろうと絶対にお前の剣を見せるな)」
「え?」
オレに頭を固定されて、ややブリッジに近い体制でえびぞりしつつ。
この期に及んで真面目なオスティンに、必要な情報だけを伝える。
「(あいつにお前の持つ剣を見られたら、四天王達が軍勢付きでこの地に集結してこの国とお前を攻め滅ぼし、剣を奪われて世界が滅ぶ。
何があろうとも、誰が死のうとも、絶対にあいつの前でお前の剣を使うな)
結界がないからこそ、オレ達の声はゼブロアーゼや周りの群衆には聞こえない。
それでも特定の単語の使用を避け、小声で伝えたオレの真剣さが伝わったのか、オスティンはえびぞりつつも小さく頷いた。
「(わかったよ)」
「(よし)」
オスティンが理解したようなので、ちょっとだけ安心し。
この距離だからどうせゼブロアーゼには聞こえないだろうが、抱えていたオスティンの頭を解放して普通の声で続ける。
「それじゃあ、後は任せたからな。
一ヶ月みっちり修行して、みんなで協力して、どうにかあいつを倒してくれ」
大変だろうけど、頼んだぜ。
「いやいや、ここまでお膳立てしたのはハルトじゃないか。
あの人と戦う時は、ハルトにも参加してもらうからね?」
「ははは……」
それは、ちょっと無理めな相談なんだよなぁ。
でもここでオスティンに下手なことを言って、折角取り付けたゼブロアーゼとの決闘を邪魔されては困る。
なんとしてもゼブロアーゼには、決闘後に何もしないでお帰りいただかなくてはならないんだ。
なのでここは、別方向から攻める!
「あいつと戦う時は、エルマと二人で水着姿でキスしながらいちゃいちゃするといいぞ」
「「はあっ!?」」
オスティンと、ついでに近くで待っているオスティンの仲間達……つまりエルマから変な声が出た。
「二人のバカップルぶりを見せつけていちゃいちゃいちゃいちゃしてやると、相手は調子を乱されて本気を出せなくなるんだ。オレが預言しよう」
「い、いやいや、何を言ってるのさハルトは!
ぼくらは別に、そういうわけじゃ……」
消極的なオスティンの言葉に、なぜかエルマがきつい眼差しでオレを睨む。
いや、そこでオレを睨むのは筋違いじゃないですかね、エルマさんや。
オレはオス×エルのカップリングでオッケーですよ! 煮え切らないのはあなたんとこのリーダーですよ!
「男はもちろん、女にも魅了対策だけはめいっぱい着けておけよ。
あと魔法は一切効かないんで、戦士増やして魔法使いは留守番な。
んじゃ、行ってくるわ」
最後に具体的な攻略アドバイスを付け加え、オレはオスティンに背を向けた。
闘技場へと戻るオレの行く手に立ちはだかったのは――セーナだ。
「ハルトさん」
表情こそ硬いものの、その声はいつもと同じだ。
オレの名を呼ぶ、セーナの声が耳に心地よい。
思い返せばこの一ヶ月、今回の周回では、ずっとセーナと一緒だったんだよなぁ。
本当に、大精霊の御前でも愛の神殿でも、どこへ行くにも常に一緒だった。
ずっと、オレを支えてくれていた。
時々怖かったが、それさえもどこか心地よくて。
誰よりも信頼していたし。
きっとオレは、心のどこかでセーナに甘えていたんだろうなぁ。
そんな、少しの暖かい思い出を思い浮かべながら。
足を止めず、セーナに歩み寄る。
「ハルトさん」
再びオレの名を呼ぶ声が、すぐ近くで発されて。
喜びか、悲しみか、愛情か。
心に溢れる感情に、少しだけ目を細めて。
「──ありがとう。幸せにな」
すれ違いざま、返事を拒絶するように。
それだけを囁いて、オレは舞台へと戻った。
(ハルトにオレの女ってプロポーズされたのは私なのに遺言とか言って男友達のところに行ってるしセーナはあたしのハルトに会いに行っているけどあたしはハルトのものでハルトはあたしのものだからここは正妻の余裕をもってどーんとハルトを待たなきゃいけないんだけどずるいあたしだってほんとは今すぐハルトのとこに行って抱きしめられたい囁かれたいハルト好き好きやっぱり息子ならハルトみたいにかっこよくてでも盗賊は駄目かななんて考えつつ未だにくねくねしてるベルルーエさんを見て実況の女の子はこの人たちに任せて大丈夫かしらと不安です)