183 初の四天王が痴女だったんだけど、その強さは伊達ではない
妖艶な騎士の名乗りとは裏腹に、荒々しい斧の斬撃が襲いくる。
武器が両手斧なのでガンゼイオーほどの手数はないものの、一撃の重さは倍以上。
押し込まれないためにも真っ向から受けるのは避け、できるだけ勢いは殺さず明後日の方向への受け流しを心がける。
一瞬でも、ゼブロアーゼの次撃が遅れるようにと。
「堅実ながら、地味な戦いでありますね」
「そりゃどうも。こっちは秀でたところのないモブ盗賊なんでね」
攻撃は牽制程度に、無理はしない。
相手の動きを見定めて、目と身体を慣らす事を優先する。
「秀でたところがなくとも準優勝できるほど、この大会はレベルが低かったのでありますか?」
「おっと、他の参加者の悪口はそこまでだ」
準決勝のおっさんはシンプルに強かった。
確かに、レベル不足のままでは絶対に勝てなかっただろう。
「しいて言えば、無茶な修行の成果で人より高レベルなもんでね」
「なるほど、修行に裏打ちされた地道な努力でありますね。
素晴らしい、自分が戦うにふさわしき相手であります!」
地道な努力……?
修行と言われて脳裏に浮かぶのは、基本的にパンツです。
具体的にはセーナさんの白──
殺気!?
振り下ろされていた斧に、あえて飛び込むようにして殺気から逃げる。
偶然、肩がゼブロアーゼの胴体に入り、豊か過ぎる胸に顔を埋めつつ体当たりで相手を弾き飛ばした。
ダイレクトに欲望に突き刺さる香りと感触を堪能する余裕もなく殺気の源を振り返れば、そこには感情のない目でこちらを見つめるセーナさんが。
……コワイ。
「ハルトさん?」
「はい!
私は女神の預言者として清廉潔白を志とし、世界を救うべく粉骨砕身する所存であります!」
オレの宣誓に、無表情のままだが小さく頷くセーナさん。
よし! 許された!
「後でお話がありますので、記憶が飛ぶまでしっかりと対話いたしましょう」
許されてなかったーっ!!
「戦闘中に女の方をよそ見とは……随分と舐められたものでありますね」
ゼブロアーゼの声に、救われたとばかりに向き直る。
そこには、少しだけ布がずれて今にも何かが零れ落ちんばかりの痴女が、斧を担いで立っていた。
背後の殺気が強まった気がしたけどただのゲーマーに殺気を察することなんてできないはずなのできっと気のせいだろう、うん(胸をガン見)
「だが、例えまぐれであろうとも自分に攻撃を当てたことは事実。
少しだけ、本気を出すでありますよ」
担いだ斧を、頭上で振り回し。
ぶるるんと胸――もとい斧を振り下ろして、闘技場の床を割る。
「『裂刃刺騎士』ゼブロアーゼ!
盗賊ハルトよ、その命もらい受けるであります!」
可愛らしい肩書と裏腹、ゼブロアーゼの本気宣言と共に握られた斧の先端が槍のように伸びた。
ハルバードというよりも、長柄の半ばに斧があり、その先に槍をくっつけたような形状。
それにより、今までに倍するリーチの攻撃が襲いかかってくる。
「血風斬!」
ゼブロアーゼの槍付き斧が水平に振るわれ、放たれたスキルにより空間が上下に斬り裂かれる。
だが──その攻撃の先に、オレの姿はない。
「……は?」
本気宣言直後の攻撃が血風斬なのは、ゼブロアーゼ戦を何度も繰り広げたオレからすればあまりにも当然のこと。
本気を出すでありますよーあたりで闘技場の床に寝転んでいたオレは、頭上を通り過ぎる赤い斬撃を見送った後。
わざとあくび一つ見せてからどっこいしょと起き上がった。
「さ、流石は魔王軍の四天王! あまりにも恐ろしい攻撃だった!」
ついでに、寝転がってやり過ごした攻撃に対して、軽く煽っておく。
こういう地道な努力が、相手の集中力を削いで勝利に結びつくんです! 多分!
「ね、寝転がって避けられたなど、なんと、なんと屈辱でありますか……!」
ちなみに、今の闘技場には結界がない。
血風斬の飛んだ先、観客席の一角が酷いことになっているが、そこに人はいなかったのでセーフである。
一応、そうなるように攻撃方向を誘導したしね。
しかし、もう本気宣言かぁ。
本来のゼブロアーゼ戦だとHPを30%削ってからなんだけど、どう考えても体当たり一発くらいで全然ダメージ与えてないよね?
すぐに本気出してくるとか、これだからリアルはずるいなぁ。
そんなことを考えているオレの視界の隅に、いまだに鎧兜で顔を隠したままのオスティンが駆け込んでくるのが見え――
「たーーいむ!!」
「……は?」
オレの大声が、一歩を踏み出そうとしたゼブロアーゼの動きに待ったを掛けた。
多大なるご声援、本当にありがとうございます!
今月中は、週2更新をお約束しますっ!!