181 盗賊はすごい言葉を叫んだんだけど、自分の発言には全く気付いていない
「全力でないとは言え、自分の攻撃を完璧に受け止めるとは。
名は?」
「ハルトだ」
片手に斧をぶら下げた美女――って、こいつゼブロアーゼじゃねーか!
なんでこいつが目の前にいるんだ……どう考えても早すぎる!
「では、ハルト殿。
自分は、貴殿の後ろにいるド貧乳の魔法使いを斬るであります。
その後に相手をするので、貴殿はしばし待っているであります」
「断る!」
推察も検討も、思考そのものをすっとばして、魂がオレの口に答えを叫ばせる。
「ベルを、斬る?
そんなこと、何があろうとオレが許さん!」
「ならば、貴殿を斬り。
しかる後に後ろの魔法使いを斬るだけであります」
「なんでお前がベルにキレてるのかは知らんが、やらせねーよ。
何があろうとな」
「一つ、問うでありますよ。
貴殿は、この大会の優勝者でありますか?」
何があろうと一歩も引かぬ姿勢のオレに対し、ゼブロアーゼが話題を変えてきた。
オレが優勝者か、か。
「いいや、オレは最後の一撃で負けたんでな。
優勝者はガンゼイオーだ。
……あそこで倒れてるようだけど」
舞台を見渡せば、血の海にガンゼイオーが沈んでいた。
結界もあるし頑丈な奴だから、あのくらいなら多分死なないと思うけど……死んでないよな?
「む、そうでありましたか。
残念ながら、優勝者は拙者が来た時には倒れていたでありますが」
「え、そうなの?」
ガンゼイオーが、倒れてた?
いったいなんで?
「──まあ、いいでありましょう。
優勝者がすでに戦闘不能ならば、準優勝者でも構わぬであります。
ハルト殿よ、貴殿に決闘を申し込むであります!」
なるほど。
さすがはゼブロアーゼ、ぶれないな。
なぜ今ここにいるのかも、おそらくは優勝者と戦いたくて来たとか、きっとそんなとこだろう。
決闘の申し込み。
つまり、敵ボスとの一騎打ちである。
本来なら、たかが盗賊Aのオレが一騎打ちなどありえないのだが──
「決闘を受けてもいいが、条件がある」
今この場で、活路はここしかない。
こいつは、オレを倒してベルを斬る、と言った。
オレを斬るのは、全然良くないけれど、まぁいいだろう。
だが、ベルを、メイデンを斬るのは絶対に許さない。
何があろうと、ベルは守る。
例え、オレの命を賭けてでも。
「オレと戦った後は、勝敗の結果によらず、それ以上の戦闘行為をせずに大人しく帰ること。
そして、その後2ヶ月の間は、部下や雇った相手も含めてこのフェイルアードを訪れないことだ」
オレの言葉に、少しだけ驚いた顔をした後に。
「なるほど、なかなか考えたでありますね。
いやはや、2ヶ月でありますか──」
思案するような言葉とは裏腹に、ゼブロアーゼは楽し気にその艶めかしい唇に舌を這わせた。
「否、と申したら?」
「その時は、騎士として、ゼブロアーゼとオレが正々堂々と一騎打ちで戦う機会は永遠に訪れなくなる。
たったそれだけのことだな」
オレの言葉に、納得するように頷くゼブロアーゼ。
『騎士として』
そこに、いまだ拘りを持ち続けるゼブロアーゼは、この提案を断ることはできない。
ゲームのほとんどを知っているオレにとっては、言葉で交渉ができる限り打開策はあるのだ。
(またゼブロアーゼにド貧乳と言われて殴り掛かりたいのに目の前のハルトが邪魔で殴り掛かれないけど言ってることは嬉しいしかっこいいしハルトにオレの女ってプロポーズされた感激が強いから思い出すと緊迫した場面なのににやけてしまってああやっぱりハルト好き好き大好き子供は3人は欲しいから夜の営みを考えて今から身悶えしつつ表情だけは取り繕おうとして失敗するだらしない口元でくねくねするベルルーエさんと目の前のハルトとの温度差でセーナさんは風邪をひきそうです)