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ディバイン・セイバー ~ゲーム開始時点で既に死んでいる盗賊Aだけど、ヒロイン達だけは不幸にさせない~  作者: 岸野 遙
第四章・第三話 盗賊と巨漢が決勝戦を戦うんだけど、どいつもこいつも盗賊よりずっと強くて勝ち目がない
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178 衛兵達は乱入者に蹂躙されたんだけど、貧弱な魔法使いは乱入者と戦うつもりはない


    - - -



 ゼブロアーゼによる、蹂躙。


 そう、蹂躙だ。

 それは、戦いと呼ぶのもおこがましい、一方的な暴力の押し付けでしかなかった。


 結界のおかげで、衛兵達に命を落としたものは居ない。

 それでも、血に塗れたゼブロアーゼを前に、舞台に上がった衛兵全員が戦闘不能となるのにさしたる時間は掛からなかった。



 けれど、その『さしたる時間』を有効に活用したもの達がいた。


 一人は、フェイルアード国王ゲンザーロ。

 彼は、自分以外の王族の避難の指示を出し、正体不明の危険から自分以外の家族と重臣を遠ざける。

 避難対象には、暴走したとは言え賓客であるゼイニドラの女王と、暴走したとは言え愛娘であるミリリアも含まれた。

 近衛の一部をそれらに遣わすとともに、有事の際の観客の避難誘導の準備も並行して進め、最悪の事態を防ぐべく動き出していた。

 たかが武闘大会への乱入者一人に何を大げさな、という気持ちなど一切持たず、己の直感を信じて。


 残る者達は、役割分担をした。

 一人が、癒す。

 もう一人が、意識を引き付けて、時間を稼ぐ。

 他の者達は護衛とその他のサポート。

 彼女らもまた、これまでは試合と言う枠組みのため手を出していなかったが、非常事態と判断して独自に行動を開始する。

 同じように、実況席に居た強者達もまた、己の武具を求め忍び足で控室へと向かっていた。



「嗚呼、ぬるい……準備運動にもありませぬ。

 この熱をさますほどの強者はいずこでありますか」


 衛兵達を鎧袖一触した斧を、艶めかしい手つきで撫であげ。

 いまだ血にまみれた身体で、恋焦がれるようなうっとりとした声をあげるゼブロアーゼ。



 立ち眩みをおこす程の強烈な色気を発する謎の人物に、しかし舞台の下から声を掛ける者がいた。


「あ、あの!」


「む……

 その装いは、魔法使いのようでありますな。

 貧弱な魔法使い如きが、自分に何の用でありますか?」


 色気と、戦いへの高揚が色濃く残る瞳を向け。

 力なきものに落胆したかのように発された、声。

 それが、強烈な圧をもって貧弱な魔法使い如きに降り注ぐ。


「あ、あなたの身体が血まみれだから、すごく気になったの!」


 血に塗れたゼブロアーゼの覇気は、物理的な圧力さえ伴って、眼前の魔法使いに突き刺さる。

 震える足に力を込め、恐怖を誤魔化して、ベルルーエは言葉を続けた。


「せっかく、武闘大会の舞台に立っているのに、ちゃんと顔や姿が見えないのはもったいないと思うの。

 あたしの水魔法なら、この場で簡単に洗い流せると思うから、きょっ、協力するわ!」


「ふむ……」


 目の前の貧弱な魔法使いの言葉を、少し吟味する。


 確かに今の自分の身体は、寝ていた男の不意打ち(・・・・)により血まみれだ。

 戦って血を浴びるのは騎士の証だが、ただただ血を掛けられただけというのは確かに名誉とは程遠い。

 さりとて、血まみれでさほど不都合があるわけではないが……


「きっ、騎士として!

 身綺麗に、美しく、誇り高い姿を見せるのは素敵だと思うわ!」

「む、なるほど」


 騎士として。

 そう考えれば、戦闘中でもないのに血まみれの姿を晒すのはあまり良くないかもしれない。


「いいでしょう、その提案を受けるであります。

 結界があっては魔法も使えぬでしょうから、舞台に上がってくるがいいでありますよ」


 魔法使いの提案を受け入れたゼブロアーゼが、先ほど衛兵達が入ってきた箇所を指し示す。

 同意を受けたベルルーエは、一度大きくつばを飲み込むと、緊張した面持ちで歩き始めた。



(セーナが、ハルトを回復するまでの時間を稼ぐ。

 大丈夫。あたしが無理に戦う必要はないし、セーナならすぐにハルトを助けてくれるわ)


 ハルトとセーナはちょうどゼブロアーゼの背中方向に居るし、相手がいきなり襲い掛かってくる様子はない。

 宣言通り、舞台に上がって丁寧に血を洗い流すだけでいい。

 そうすることが、ゼブロアーゼの注意を引き付けて、時間を稼ぐことになるのだ。



 選手入場用の入り口から結界内に足を踏み入れる。


(ここが、ハルトが戦っていた、武闘大会の舞台なのね……)


 思ったよりも、広かった。

 ハルトはここで、数々の戦いを繰り広げたのだ。

 雑魚(サントス)を一撃で吹き飛ばした時の雄姿や、フェービンやガンゼイオーと切り結んだハルトの姿が脳裏に浮かぶ。

 都合よく、カーロンに刺されたり、アズサと暴露合戦をする姿は忘れられているが、大した問題ではない。


 途中、血の海に没したガンゼイオーを見る。


 あの時、ゼブロアーゼが何をしたかは背中側に居たので見えなかったが、彼女がしゃがみこんだ直後にガンゼイオーから激しい血しぶきが上がった。

 喉でも斬られたのかと思ったが、そんな様子はない。一体どのような攻撃であったのだろうか?

 だが結界があることだし、命に別状はないなずだ。そう考えて、ガンゼイオーから視線を外す。

 まさか、目覚めた途端自分の顔に跨っていたゼブロアーゼの姿を直視して鼻血を噴いた、などとは夢にも思わずに。



(待っててね、ハルト。

 直接あたしが回復するわけじゃないけど――あなたのための時間は、あたしが稼ぐわ)


 ゼブロアーゼまで数歩の距離を、ゆっくり歩く。


 放たれる覇気に鳥肌が立ち、何気ない動作にも飛び上がるほどの恐怖を感じながら。

 それでも、圧力以上にすさまじい、匂い立つほどの色気に倒れそうになるのを必死に堪えて。


 ベルルーエは、ゼブロアーゼの目の前に、立った。


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