176 決勝戦の決着はまだついてないんだけど、選手は二人とも倒れたまま起き上がらない
決勝戦(の横で行われた女の闘い)、決着!!
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結局、王様他一同の多大なる尽力と犠牲により。
「わっ、わらわは結婚をけして諦めないのですきゅん!」
「ちょ、なんでわたくしまで行き遅れと同じ扱いをされてるのですか!」
「あーっ、また行き遅れって言ったぁぁですきゅーんっ!」
なおも言い争いを続ける王女と女王の二人は、貴賓席から別室へと連れ出されて行ったのでした。
こうして、武闘会場に静寂が戻り。
倒れたままの選手二人を見下ろして、改めて問題が振り出しに戻った事を皆が再認識した。
攻撃を受け、先に気絶したハルトか?
試合の決着が宣告される前に、降参を宣言したガンゼイオーか?
どちらが勝者か。
否、どちらが敗者にふさわしいのか、それを決めねばならなかった。
観客も、スタッフも、実況も。
皆がその答えを求めて、自然と貴賓席の方を見つめる中で。
視線で会場中の人々に問われたフェイルアード国王 ゲンザーロは、胃を押さえて立ち上がった。
そうして、表面上は至極落ち着いた様子で、よく響く低い声で語り始める。
「互いの戦い、本当に見事であった」
静かに語るゲンザーロの声が、会場に響き渡った。
「だが、両者が戦闘の継続を不能としており、試合の結果を定めねばならぬのも事実」
ゲンザーロが、人々が見守る中で。
床に落ちたハルトも、大の字になって寝ているガンゼイオーも、いまだ動く気配はない。
ついでに、別室へと退場させられた二人の王族女性が戻ってくる気配もない。
「しからば、この試合――」
ゲンザーロが言葉を続けようとした、その時。
ふと彼は、ありえないものを目にした。
それは、舞台に立つ一人の人物。
倒れたガンゼイオーの傍らに立つ、非常に扇情的な格好をした女性であった。
「……」
遠目に見ただけでも、腹の底から揺さぶられるような衝撃を飲み干して。
ゲンザーロの短い指示で、すぐさま衛兵達が動き出した。
舞台には、結界が張られている。
それは、選手による攻撃の余波から観客を守るためのものであるが、同時に観客席から選手への影響を排除するためのものでもある。
激しい攻撃魔法の直撃さえ防ぐ結界は、所定の手続きなしに人物の出入りを許さない。
少なくとも、結界が張られたままの状態で、音もなく人が出入りすることは、普通にできる事ではないだろう。
では、結界の張られた舞台の中に、いつの間にか立っていたこの女性は──
舞台の外側、すなわち結界の外側に並んで囲む衛兵達。
いつの間にか舞台上に立っていた女性は、衛兵達の様子に気づくと、すぐ傍にいた一人に問いかけた。
「失礼するであります。
二人の戦士が倒れているでありますが、決勝戦の結果はどうなったのでありますか?」
長い赤髪を風になびかせた美女が、舞台上から結界の外に立つ衛兵に向けて綺麗な敬礼を決めつつ尋ねた。
「あ、結果……?」
「はっ、そうであります!
自分は今この場所に来たばかりでして、この決勝戦を観戦していなかったのであります。
故に、試合の勝敗についてご教示いただきたく!」
言いながら腰を曲げて屈んだ美女を、目の前で直視してしまった衛兵は――
「ふぐっ……」
真っ赤な顔で鼻血を垂らし、膝をついて倒れた。
「……どうしたでありますか?」
美女が倒れた衛兵を不審に思い、舞台から軽く飛び降りる。
あるはずの結界に阻まれることもなく、軽やかに地面に下りた女性の巨大な胸が、その存在を誇張するかの如く大きく弾んだ。
それを見た別の衛兵がめまいを起こしたように膝をつき。
また別の衛兵は、気まずそうに腰が引けた状態でしゃがみこんで立てなくなった。
そんな周りの衛兵の様子に気づかず、倒れて意識を朦朧とさせていた衛兵の傍らに膝をつくと。
「お疲れでありますか?
貧弱な人間でありながら、無理をするのは良くないでありますよ。
一から修行し直して、強い男になるであります」
上体を抱き起こし、厳しい言葉とは裏腹にその頭を抱き寄せて。
自らの豊かな胸の谷間に包み込み、髪を撫でた。
「決勝の舞台に突然乱入するなど、あなたは何者ですか!」
胸に包み込まれた衛兵が興奮と酸欠で意識を失い。
他の衛兵達もまた、異様な雰囲気と異常なまでの色香に身動きが取れない中で。
ただ一人、いまだ気丈な意思を衰えさせて居なかった壮年の衛兵が腰の剣に手を掛けつつ誰何の声を発した。
それを受けた謎の美女は、抱えていた衛兵の頭を放し、立ち上がるとその大きな胸を張って名乗りをあげる。
「自分の名前はゼブロアーゼ。
この大会の優勝者に、決闘を申し込むであります!」