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ディバイン・セイバー ~ゲーム開始時点で既に死んでいる盗賊Aだけど、ヒロイン達だけは不幸にさせない~  作者: 岸野 遙
第四章・第三話 盗賊と巨漢が決勝戦を戦うんだけど、どいつもこいつも盗賊よりずっと強くて勝ち目がない
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174 とどめの一撃に決着がついたんだけど、結果に納得できない人が少なくない


    - - -



 壁に叩き付けられ、地に落ちるハルト。

 それを見届ける間もなく、おもむろに両腕を組んだガンゼイオーが、貴賓席に向けて声を放った。


「ゼイニドラの女王よ、問おう!」


「ふあっ!?

 な、ガンゼイオー選手、一体何事なのですきゅん?」


 急なガンゼイオーの呼びかけに、一瞬慌てつつも女王カナミエが返事をする。

 その顔を見上げて、ガンゼイオーは続けた。


「この大会の優勝者を、ゼイニドラ女王の婿とする。

 その言葉、撤回はないのだな?」



 試合開始前にカナミエが放った、爆弾発言。


『この大会の優勝者を、ゼイニドラ女王カナミエ=ファード=ゼイニドラの、婿として迎え入れまですきゅん』


 語尾はともかく、言っている内容は至極とんでもない。

 大国ゼイニドラの、女王の婿として迎え入れるというのだから。



 観客達は、改めてガンゼイオーの姿を見た。


 巨漢。

 筋肉の塊。

 そして――ハゲ。


 なるほど、容姿を理由に婿入りを断られることを懸念しているのだな。

 そう、観客達は思った。



 そしてそれは、女王カナミエが考えた事とも一致していた。


「撤回などしません、見損なわないで下さいまですきゅん!

 このカナミエ=ファード=ゼイニドラ、ゼイニドラ女王として宣言したことを翻すような、いい加減な気持ちで宣言など致しませんのですきゅん!」


(だって、ついにわらわにもお婿さんができるんですきゅん!

 これでようやく、行き遅れだの年増だの女王かっこ笑いだの、おばちゃんだの独身女王だの疫病神だの姑だのうちの旦那見んなだの、く、くううぅ、思い出しただけで涙が()すきゅん!)



 カナミエは、自分の言葉を聞き、眉間に皺を寄せたまま重々しく頷くガンゼイオーを見た。


 太くてりりしい眉。

 誰よりも意思の強そうな眼差し。

 逞しく鍛え上げられた鋼の如き筋肉。

 曇り空の下でも、地上の太陽とばかりにどこか神々しい頭頂部。



(ああ……うんっ、まあおっけーですきゅん!)


 全てを許した。

 己の婿と思えば、全てがオールオッケーだった!

 むしろ、婿になるのだから、それ以外は全てどうでもいいとさえ感じられた。


 つまりは、もうどうしようもなく、女王は手遅れだったのだ。もしくは行き遅れ。




 激しい決勝戦への熱狂より、巨漢のハゲが大国の女王の婿になることへの好奇心の方が色濃く滲んだ、観客達の視線の中で。


 もはや神々しい頭頂部のガンゼイオーしか目に映らない、ですきゅん女王とその他フェイルアード王族達の御前で。


 仁王立ちのガンゼイオーと、地に落ちたハルトを見比べて、試合の判定しちゃっていいのかな?かな?と悩む実況の前で。




 ガンゼイオーが、再び口を開いた。


「審判よ!」

「審判……えっと、一応私ですが、何でしょうか?」


 ガンゼイオーの呼びかけに、実況席に居た少女、アイドルのプルエが控えめに返事をした。

 やや及び腰に見えるのは、ガンゼイオーの迫力に気圧されているのか、それとも未来の王婿に慄いているのか。


「ハルトの最後の一撃は、我が攻撃を貫き、この身を斬り裂いた!」



 カナミエに声を掛けた時から、組まれていた腕。

 胸の前で組まれた剛腕をゆっくり解くと、確かにその胸板には、横一文字に深い傷があり、今も鮮血が垂れ落ちていた。


「そ、それは!?


 ぉ、おおーっとぉ!

 ガンゼイオー選手の攻撃にかき消されたと思われたハルト選手の攻撃、しかしその剣閃は確かにガンゼイオー選手に届いていたーーっ!!」


 血の滴る傷を見たことで、やっと意識が試合の実況に戻ったのだろうか。

 急に、勢いよく声を張り上げる実況のプルエ。

 だが大半の観客はついてきておらず、やや白けた空気が流れていることは否めない。



 それでも、実況の宣言により、観客達全てに、ハルトの攻撃が届いていたことは伝わった。

 ならば、それで十分である。


「ハルトよ、見事な一撃であった!


 この斬撃は、その……」



 そこで、急に押し黙るガンゼイオー。


 何が起きているのか分からず、皆が注目する中で。

 気難しげな、困ったような、怒ったような、複雑な表情を浮かべ、眉をぐにぐにと動かし。



 ガンゼイオーは百面相にしばしの時間を費やして考え込んだ後、目をかっと見開いて叫んだ!



「そう、とても、痛かったのだ!

 これではもう戦えない、よって我は敗北を認め、降参する!!」


 宣言を終えるなり、よっこらしょとばかりに舞台に大の字に寝そべったガンゼイオー。




「「は、はああーーっ!?」」




 その疑問の声は、いったい誰が放ったものであったろうか。

 多くの人々のあげた疑問の声を一顧だにせず、ガンゼイオーは舞台の中央で目を閉じて、寝た。



 やがて、その宣言の意味を理解した観客の中から、静かに、だが確実に囁き声が広まった。



(えっ。あれでガンゼイオー選手の敗北宣言は、どう見ても無理があるよな?)

(というかゾンビ起き上がらないじゃん、もう決着ついてたんじゃないの?)

(いや、でも審判が判定してないし、その前に降参しちゃったから……どうなるんだ?)


 様々な憶測や意見を交わしあう囁き声。

 それらの声は、やがて一つの結論へと集約されていった。



(と言うか、あれって)

(うん、間違いないよな……)



((あのハゲ、女王との結婚が嫌で降参しやがった……!!))



 その観客達の囁きは、大きなうねりとなって会場中を包み込んだ。


 その中には、当然のこととして貴賓席も含まれており――



「わっ……」


 今にも降りそうな、泣き出しそうな曇り空の下で。




「わらわと結婚するのは、栄誉ある優勝を放棄するほど、嫌なのですきゅーーーんっ!?


 びえええええええ!!」



 誰よりも大きな声で、ゼイニドラ女王カナミエの泣き声が、涙の雨と共に武闘大会の会場中に響き渡ったのであった──


【 武闘大会 試合結果 】


・ 決勝戦(番外)

 vs女王カナミエ


勝敗結果:ガンゼイオーの降参により、カナミエの敗北

備考  :勝者なし


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